正統派テイストを薫らせるテーラードジャケットは2018年から人気が出てきましたが、19年春夏にもう一段の盛り上がりが来ました。各ブランドの展示会からは、アイテムの選択肢も広がって紺ブレからタキシード風、英国調ジャケットまで、さまざまなタイプが打ち出されています。
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「イエナ(IENA)」はチェック柄シャツとパンツのセットアップに、ネイビーのジャケットをオン。トラッド感が出そうなところを、キャップでうまい具合にはずしました。ジャケットにはもともと紳士服系の品格ムードが備わっているので、キャップやスニーカーのようなスポーティー系アイテムを添えて、カッチリ決まるのを避けるアレンジが有効です。
マルチボーダー柄のトップスにジャケットを重ねたのは、「ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ(BEAUTY & YOUTH UNITED ARROWS)」の提案。パンツスーツにアクティブ感を添えて堅苦しさを遠ざけています。ウエストポーチを合わせて、これから勢いづきそうな“スポーツテーラリング”のテイストミックスを試しました。
「ザラ(ZARA)」はダブルブレストのジャケットの上から紐ベルトでウエストマーク。まるでドレスのように、パンツスーツをしなやかに演出しています。つばの広い帽子でリゾート気分を呼び込み、注目のサンドカラーで全体を整えました。
このように、これまでのジャケットと異なる点は、カッチリさせすぎず、ややリラックスした気分で着こなす“崩しジャケット”のスタイリングにあります。それでは、各ブランドから提案されているコーデを見ていきましょう。
リゾートやノマド気分に
ジャケットで品格を添えて
リゾートやノマド風のムードが夏に向けて打ち出されています。中東やアフリカにも関心が集まって、ポジティブなノマド風味は盛り上がりの兆し。端正なジャケットは、トロピカル柄やバケーションテイストを街中コーデに着地させるうえで、役に立つアイテムです。ルーズな装いに“きれいめ”が寄り添うのも頼もしいところ。
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お得意の花柄をたっぷりあしらった「ケイタ マルヤマ(KEITA MARUYAMA)」らしい装い。ブラウスはあでやかなフラワーモチーフで彩り、スカートも植物柄で埋め尽くした、トロピカルな“柄on柄”コーデ。そこにあえてショート丈の紺ブレを重ね、大人感をプラス。たおやかさを紺ブレで抑えて、グッドバランスに整えています。
「ローブス アンド コンフェクションズ(ROBES & CONFECTIONS)」は、パジャマのようなゆるりとしたフォルムのストライプ柄パンツに、裾を遊ばせた変形シャツを引き合わせました。休日の遅い起き抜け風の姿に、細身のテーラードジャケットを重ねてルーズ感をカット。ビーチサンダル風の足元ものどかな景色に見せています。
“大人かわいい”系ルックに
ジャケットでハンサム感をプラス
久しぶりにミニスカートが復活しているのは、今春夏の目立った変化です。全体にフェミニンアイテムの揺り戻しが起きていて、アスレジャーやエフォートレスにも少し女っぽさが加わっているよう。キュートに見せすぎないブレーキ役としてもマニッシュなジャケットは効果的に使えます。
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「ミュベール(MUVEIL)」はチュール裾とメタリックを宿したグラマラスなスカートに、有名な軟膏の“タイガーバーム”をもじったとおぼしき“ヒョウバーム”ロゴのTシャツでウイットを投入。ブリティッシュ顔のチェック柄ジャケットを羽織って、ムードをマスキュリンにシフト。さらに、袖先を折り返して、程よくこなれたハンサムレディー風の着映えにテイストミックスしました。
ガーリー×ダンディーのクロスオーバーを試したのは、「ザ・リラクス(THE RERACS)」のルック。ざっくり羽織って前を開けたダブルブレストのジャケットがミニボトムスを隠して、ミニワンピースのような見え具合に。キュートなミニの印象とゆったりしたジャケット姿が交差して、大人っぽさと愛らしさが入り交じる雰囲気にまとまっています。
パンツスーツを型通りに着ない
“ずらしコーデ”
パンツスーツはりりしくまとまりがちですが、今のアレンジではマニッシュに寄せすぎない立ち位置が好まれる傾向にあります。ジェンダーレスの流れもあり、いかにもスーツ風ではなく、ゆるさやフェミニン感を添えてずらしを試みる提案が相次いでいます。
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「ワイズ(Y’S)」はまるでパートナーのワードローブからメンズ物を借りてきたかのようなオーバーサイズのパンツスーツを披露。両袖を通さず肩掛けでざっくり羽織って、“ゆるモード”気分で着こなして。シャツもノンシャランに装い、全体をジェンダーフリュイドのイメージに整えました。
メタリックのフェミニンなトップスとの合わせを披露したのは「ジョン ローレンス サリバン(JOHN LAWRENCE SULLIVAN)」。仕立てのよいパンツスーツで全体にクールなムードを強調しながら、ジェンダーミックスのお手本的なコーデを組み上げました。袖のたくし上げで着崩す小技に加え、厚底シューズでグラムロック風のはずしも仕掛けています。
きちんと感の強い、オーソドックスなジャケットを、あえて肩の力を抜いて着こなすのが今春夏の落としどころ。リゾート風やフェミニン、スポーティー、ジェンダーレスなどさまざまなテイストと組み合わせテイストミックス感を際立たせやすいのも、正統派ジャケットの魅力と言えるでしょう。これまで目立っていたカジュアル寄りのアウターとは違ったムードを引き出してくれるうえ、薄着になる季節のレイヤードにも便利な“崩しジャケット”は人気が高まっていきそうな気配です。
ファッションジャーナリスト・ファッションディレクター 宮田理江:
多彩なメディアでコレクショントレンド情報、着こなし解説、映画×ファッションまで幅広く発信。バイヤー、プレスなど業界での豊富な経験を生かし、自らのTV通版ブランドもプロデュース。TVやセミナー・イベント出演も多い。