オンワードホールディングスが4月11日に発表した中期経営計画は、eコマースや海外事業を拡大させる一方で、国内のリアル店舗に関してはブランドの統廃合を含めて大胆に見直す内容だった。保元道宣・社長は「リアル店舗はオーバーストアが顕著であり、選択と集中の時代に入った。縮小を織り込んだ計画を組む」と説明した。中核子会社のオンワード樫山では今後3年間で「23区」「自由区」など主力9ブランドで計139億円の増収を計画しながらも、それ以外のブランドでは閉鎖を含めて計201億円の減収を見込んでいる。一昨年の消費税増税後に顕著になった衣料品の販売不振は、老舗の総合アパレルの経営基盤を揺るがせている。昨年はワールド、TSIホールディングスの大規模なリストラが波紋を呼び、今年初めには投資ファンドの傘下に入ったイトキンも再建のためリストラを断行すると発表した。TSIホールディングスは過去3年間で1000店舗以上、ワールドは前期(2016年3月期)で約500店舗を閉め、イトキンは今年約400店舗を閉鎖する。
アパレル業界の相次ぐリストラのニュースは、コメの減反政策を連想させる。減反とは、コメ農家の作付面積を減らして生産調整すること。戦後、日本人の食生活が欧米化したことでコメの需要が減少した。コメ余りによる価格暴落を防ぐため、政府が主導して生産量を減らした。アパレル業界に置き換えると、日本人の少子高齢化に加えてファッションへの関心が低下したことで、衣料品の需要が減退した。過剰供給による収益悪化を抑えようと、アパレルメーカーはブランド統廃合や店舗閉鎖に乗り出し、百貨店やショッピングセンターは衣料品の売り場面積を減らす。もちろん市場原理に基づくアパレル業界と、国策として保護されてきた農業は異なる。コメ農家の減反のように政府が手厚い補助金で助けてくれるわけではない。ただ、大手アパレルメーカーが足並みをそろえるように数百店舗単位で閉店を打ち出したことは過去に例がない。これまでの不況時の在庫調整レベルを超えた新しい局面に入ったといえる。
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今、新しい商業施設を作るデベロッパーの間では「衣料品のテナント構成を下げる」が合言葉のようになっている。衣料品の“作付面積”を減少させて、雑貨や飲食への“転作”を進める動きである。21日にマルイによる九州初施設としてオープンした「博多マルイ(地上1〜7階)」は、衣料品売り場の比率を3割に抑え、低層階にスイーツなど18の食関連の売り場を置き、1〜6階までの各フロアにカフェを導入するなど、従来のマルイとは異なる新しい取り組みを実施した。7月に開業する「仙台パルコ2(地下2階・地上9階)」も衣料品売り場の比率を3割に抑え、シネコンや雑貨、食品、化粧品を拡充する。マルイもパルコもこれまではファッションを金看板に掲げ、衣料品売り場が5〜6割を占めてきたが、近年の新施設はライフスタイル分野の強化に方向転換している。
全国に150施設以上を展開するイオンモールの吉田昭夫・社長は13日に行われた決算会見で「現状、アパレルの店舗は多すぎる。比率を下げる必要がある」と述べた。J.フロントリテイリングの山本良一・社長も「消費者の価値観が変わる中、今の百貨店の婦人服の面積は大きすぎる。売り場を転換せざるをえない」と明言している。今後もこの流れは強まるだろう。売り場の縮小は何も悪いことばかりではない。衣料品が売れないのも、プロパー価格が形骸化しているのも、根本的な要因は度を越したオーバーストアにあるからだ。00年の大店法廃止を契機に、全国津々浦々に大型の商業施設が開業し、アパレルメーカーはまるで陣取り合戦のように出店を重ねた。ブランドポートフォリオを細分化しすぎて、既存ブランドと大差のない新業態を際限なく開発していった。大量出店は好調な時こそ規模のメリットを発揮して収益に貢献するが、不振に転じると過当競争のひずみが一気に噴き出す。もはや右肩上がりの時代ではない。いったん、適正な規模を模索するのも一つの方法である。
とはいえ、コメの減反を引き合いに出すまでもなく、需給調整に追われて縮小均衡のスパイラルに陥ってしまえば、アパレル業界に明るい未来はない。売り上げは消費者の支持の表れである。消耗戦のような出店を重ねる売り上げ拡大ではなく、消費者の支持の後押しを受けた売り上げ拡大に転換しなければならない。eコマースや海外進出はもちろん、消費者の変化に対応した新しい需要を喚起するための知恵が問われている。