「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」は2019-20年秋冬コレクションのショーをいつもの本社内のショー会場「アルマーニ テアトロ」ではなく、隣に建つ「アルマーニ シーロス」というイベントスペースで開催しました。「テアトロ」は白いフカフカのクッションつきの客席が常設されたスペースで、整然としたモノトーンの空間は“1ミリの誤差もない”と表現したくなるどっしりとした迫力があります。初めてそこに身を置き、スポットライトを浴びる胸板の厚いデザイナー、ジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)の姿を見た時、“キング”の文字が頭に浮かびました。
一方、今回メンズとウィメンズの合同ショーを行った「シーロス」は、2015年にオープンした自社スペースで、展覧会などを行うガランとした箱(シーロスはイタリア語で貯蔵庫の意)です。簡易な客席の間のランウエイの幅は2メートルほど。いつも以上にモデルが近く、手を伸ばせば触れられるほどです。
これが良かった。
メンズスーツはシンプルなものが多かったのですが、シンプルであればあるほど、目の前をモデルが動き歩くことで仕立ての良さが伝わります。特にきれいなのが上半身、の中でも特に背中、の中でも特に肩から肩こう骨にかけてのライン。“1ミリの誤差もない”というよりも“ほぼ隙がないけど数ミリだけあえてゆとりを取った”フィットがわかります。男性のスーツは肩と背中のフィットがきれいだと七難を隠しつつ、自信に満ちて見えますよね。
レッドカーペットを歩く女優のドレスがどこのブランドか?はよく話題になりますが、男性のタキシードはどこのものか?はそれほど話題になりません。が、ゴールデングローブ賞などのレッドカーペットに登場する俳優や映画監督のタキシードは、高い確率で「ジョルジオ アルマーニ」です。映画「孤狼の血」で「第42回日本アカデミー賞」の最優秀主演男優賞を先日受賞した役所広司さんも、レッドカーペットで「ジョルジオ アルマーニ」のオーダーメードのブラックタキシードを着ていました。「シンプルで流行に左右されず、素材と本物にこだわる、まるで名優のようなアルマーニのタキシードを鎧代わりに身にまとい、験を担いで参加しました」と役所さん。ってなんだか凄みのあるコメントですが、フラッシュを浴びるレッドカーペットは俳優や監督にとっては華やかなだけではなく、自分自身が見られ、評価され続ける戦いの場なのでしょう。そういう場で自信を持たせてくれる服はとても重要です。
話をミラノでのショーに戻し、キング”自身もまた、珍しくランウエイをすべて歩いたのですが鍛えた体は84歳とは思えず頼もしい。アルマーニは、自身のアイデンティティを掘り下げたデザイン提案を行うタイプのファッションデザイナーではなく、着る人の魅力を服の力でよりよく見せるという意味で徹底した“仕立て屋”だと思います。ショーではモデルをランウエイに送り出す直前まで自身でフィッティングをするそうですが、間近で見たその手は大きく、指先まで力強かったです。