イタリアの毛織物メーカーのレダ(REDA)のエルコレ・ボット・ポアーラ(Ercole Botto Poala以下、ポアーラ)社長は、イタリアのテキスタイル業界に欠かせない存在だ。レダは、エルメネジルド ゼニア(ERMENEGILDO ZEGNA)やロロ・ピアーナ(LORO PIANA)に次ぐイタリア紳士服地メーカーの一つであり、ポアーラ社長は現在、素材見本市「ミラノ・ウニカ(MILANO UNICA)」の会長も務めるが、同見本市は2019年春夏向けから、経営コンセプトの舵を大きく“サステイナビリティーの追求”に切った。そして、レダ自体もサステイナブル経営で知られる。ポアーラ社長に現在の課題などを聞いた。
WWD:「ミラノ・ウニカ」で“サステイナビリティーの追求”を打ち出し3シーズン目になる。現在課題は?
ポアーラ社長兼「ミラノ・ウニカ」会長(以下、ポアーラ):まだ、みんな混乱している。それはサステイナビリティーという言葉自体に混乱があるからだろう。出展社もお客さまもサステイナビリティーの一部分しか見ていないと感じる。例えば、リサイクルプラスチックの糸を用いているから、オーガニックコットンだから、ミュールジング(羊への蛆虫の寄生を防ぐため、子羊の臀部の皮膚と肉を切り取ること)していないから大丈夫とかね。けれどサステイナビリティーは、原料から加工するまでの生産工程で動物、環境、人、すべてにおいて考えるべきであり、とても複雑だ。次のステップとしては、商品だけではなく、プロセスが重要であることを強調している。
WWD:サステイナビリティーの重要性を出展社にどう共有しているのか。
ポアーラ:トレンドフォーラムでサステイナビリティー分野を設けたことで、前回はそこで紹介されていなかった企業が今年は一歩進んで紹介される素材を提案するなど、変化が起きている。われわれは、出展社が「よりよくしていこう」と思えるように刺激しながら、教育もしている。そして今は商品だけではなく、プロセスの重要性を強く打ち出している。
WWD:洋服のアイテムができるまでの環境への負荷を数値化すると、原料からテキスタイルや素材になるまでで約3分の2の負荷がかかっているというデータがある。
ポアーラ:そもそも一部分だけ見るのではなく、全てを見る必要がある。消費者も含めて全員が少しずつ無駄を減らす努力をしなければならない。一個人が無駄にしているものを5%なくすだけで、大きな影響がある。
WWD:昨年、話題になった“脱”毛皮の動きは、動物愛護団体の影響が大きかったといわれており、彼らは毛皮ゼロを目指しつつ、アンゴラ、ダウン、ウールについても運動を始めている。そのことについてどう思うか。
ボアーラ:レダのウールの原毛はニュージーランドの3つの自社牧場をはじめとするメリノ種の羊毛で、自社農場以外の仕入れも傘下会社を通じて行いすべてトレーサブルだ。われわれの農場は動物福祉の認証を取っているし、2005年には動物の倫理的扱いを求める人々の会(PETA)から感謝状がファクスで届いたくらいで、とても丁寧に育てている。羊は1年に1回、毛を刈ってやらないと毛が重くなって死んでしまうからね。土地利用についても重視していて、自然に草が生育するような取り組みを行っている。
WWD:今、循環型ファッションが求められているが、実現するために必要なことは?
ポアーラ:投資とテクノロジーのイノベーション。そしてそれを行える文化的な背景が必要だ。
WWD:レダの最新取り組みは?
ポアーラ:デジタルファブリックを自社で開発した。また、見本サンプルを3Dデジタル化した。ベースになる生地は現物を用意し、カラーバリエーションをデジタル化した。風合いは現物のサンプルで確認し、色合いをデジタルファブリックで確認する。現在280バリエーションをデジタルファブリック化している。見本サンプルを作らなければ無駄も出ない。これもわれわれにとってサステイナブルな企業活動の一つなんだ。サンプルは結局ゴミになるからね。もちろん、オーダー後にサンプルは作るが、そもそもコレクションを作る時間が短くなり、効率的だ。