パリコレ常連の中でも独特のポジションを築いているのが「リック・オウエンス(RICK OWENS)」だ。大きなグループに属さず、トレンドセッターというわけではないが、ショーのチケットを手に入れるのは難しく、フィナーレでは必ず拍手喝さいが起こる。会場には「リック・オウエンス」をここぞとばかりに着こんだ“ほぼ仮装”なファンが多いかと思えば、
1 / 2
アーティーなヘッドピースを含めて見事に着こなす秋元梢のように、独創的な服を上手に楽しんでいる来場者も多い。性別、年齢問わず個性豊かな来場者は店頭の顧客層と連動しているのだろう。
ショーの見どころのひとつが演出で、盛大に水が飛び散ったり、会場内に大きな炎が立ち上がったりするから観客は体感を通じて独特なブランドの世界観にハマることが多く、ショーが始まる前には毎度少しの緊張感が漂う。2019-20年秋冬はごくシンプルなショー会場にごく普通にモデルが登場して拍子抜けをした。が、“普通”に収まらなかったのがインパクト大のヘアメイクだ。
このヘアメイクを手掛けたのは、ロンドンのアーティスト、サルビア(Salvia)。マスクはこちらもロンドンベースのアヌーシュカ・ネレイド(Anooshka Nereid)が制作した。今、アンダーグラウンドシーンではタトゥーやボディーピアスの延長線上にある“身体改造”、英語で言うところのBody Modificationというムーブメントが起きているそうで、サルビアはその第一人者だという。ヘアメイクのインスピレーションはデヴィッド・ボウイ(David Bowie)のレコードジャケット「ダイヤモンド・ドッグ(Diamond Dogs)」で、その絵を見ればなるほど、とうなずく。
今季のコレクションは、先に発表したメンズ同様、1970年代に活躍した衣装デザイナーのラリー・ルガスピ(Larry LeGaspi)との関係が深い。ラリーはキッス(KISS)やグレイス・ジョーンズ(Grace Jones)などの衣装を手掛けたデザイナーで、少年時代のリックは多大な影響を受けたといい、昨年10月にはラリーに関する本を出版したほどだ。今季のウィメンズではパワーショルダーのジャケットに合わせるボディースーツがキーアイテムのひとつとなったがこれもグレイス・ジョーンズをほうふつとさせる。
1 / 3
「リック・オウエンス」の人気が続くのは、このようにアンダーグラウンドを含む音楽などのカルチャーとの結びつきが深いからだろう。リックはインタビューの中で「自分に友人はほとんどいない」と話しているが、フェイスブックではつながっている云々という話ではなく、リックが作る世界観は言わばメディアでシンパシーを感じる人たちがつながっているようなものだ。「リック・オウエンス」の服は繊細な心と体を何かから守る繭のような形が多く、リック自身の痛々しいほど繊細なハートが透けて見える。繊細なハートを守ってくれる音楽があるように、服もある。その感覚を共有するカルチャーやその作り手たちとのつながりが「リック・オウエンス」の服をより魅力的にしている。
それにしてもこちらは、今季のインスピレーションとして「リック・オウエンス」が発表した絵だが、2度見せずにはいられない。やはり、相当に、怖い。