ディレクターの泉栄一が2004年に立ち上げたメンズブランド「ミノトール(MINOTAUR)」は、19-20年秋冬シーズンから名称を「ミノトール インスト(MINOTAUR INST)」と改め、リブランディングする。これまではプロダクトライン「マグ(M.U.G)」と2軸の商品構成だったが、リブランディングを機に統合。スポーツやモードのテイストを盛り込みクリエイションを統一した世界観で発信していく。クリエイションの軸はこれまでと同様、快適性にこだわったミニマルな機能服だ。そこに、泉ディレクターが「これまではあえて表に出さなかった」というストリートシーンで培ってきたキャッチーな感覚をグラフィックなどで素直に表現していく。
現在は東京と神戸、福岡に直営店を構える。卸先は国内が伊勢丹新宿本店メンズ館など25店舗、海外はカナダの「エッセンス(SSENSE)」や香港の「I.T」など20店舗。同ブランドは8年前からイタリア・フィレンツェのメンズ見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)」やパリの合同展「マン(MAN)」に出展し、現在はパリのショールームでメンズ・コレクション期間中に展示会を行っている。18年春からは「フミト ガンリュウ(FUMITO GANRYU)」や「ナマチェコ(NAMACHEKO)」のセールスを担うSeiya Nakamura 2.24と契約し、海外進出を本格化するタイミングでリブランディングを決意した。ブランド名の変更は、海外で商標権を取得するためでもあるという。
泉ディレクターは「海外のショップとの取引は、自分たちだけでは10軒が精一杯だった。現在は外部セールスやPRと契約し、海外の卸先も順調に増えている。さらにモノ作りに集中し、スタイルや機能性の見せ方を考えることに時間が使えるようになった。大きく変えるならこのタイミングだった」と語る。海外にこだわるのは、ビジネスの拡大に加えて「コレクションがいいのか、悪いのかがはっきり分かる。オリジナリティーを追求できているか、ブランドらしさが出せているかをシビアに見られる。日本ではあまり意見がもらえず、いいのか悪いのかが分からないから」と述べた。
自身の環境にも大きな変化があった。「半年前に家族でパリに移住した。今は年間の3分の2を海外で過ごしている。スタイルや見せ方を作り出すうえで、パリに住み、感覚を磨いていきたかったーーというのが後付けの理由(笑)。最初は本当に思いつきだった」。それでも現地に住んでみたからこそ分かる新たな発見もあった。「パリでは足を使って移動することが多く、移動がスポーツの感覚だ。日本とは気候も違うし、これまでにはなかった視点で機能のヒントを得ることができている」。
一般的に、機能服には合理性が求められる。動作が快適かどうかや、あらゆる環境に耐えられるかなどを追求していくと、生活に必要のない表面的なデザインはどんどん省かれ、必然的にミニマルな仕上がりになる。
しかし、泉ディレクターが今後目指す機能服は異なるようだ。「テクノロジーをファッションに変換しながら、自分がストリートで培った感覚がにじみ出るモノやコトを生み出していきたい。テクノロジーが先行している機能服はたくさんあるが、『ミノトール』はあくまでアパレルがベース。ルーツであるストリートと新しいテクノロジーを融合し、服にあまり興味がない人にもファッションは楽しいんだということ伝えたい」。