ファッション

“トレンド”という言葉は使わない! 「ミスタービームス」編集部が見せたこだわり

 ビームスが2月末に発行したルックブック「ミスタービームス(MR_BEAMS)」のクオリティーが高いとファッションおよび雑誌業界で話題となっている。雑誌の体裁を取る「ミスタービームス」は100ページにもおよび、16社から出稿を受けている。それでいて無料だ。プロデューサー的役割を担った諸岡真人ビームスPRディレクターに、制作の狙いや苦労話について聞いた。

WWD:「ミスタービームス」は大変よくできており、オウンドメディアの極みとも思えるが、小売業者(セレクトショップ)が雑誌を作る意味とは?

諸岡真人ビームスPRディレクター(以下、諸岡):まず最初に申し上げたいのは、「ミスタービームス」は雑誌ではありません。スタイルブックです。オウンドメディアの強化というより、顧客満足度の向上が最大のモチベーションです。これまでビームスのドレス部門では毎シーズン、カタログを制作してきました。ただし予算には限りがあり、見せたいものを全て見せることができませんでした。それがもどかしくて、情報量を増やすためにこの形態を取りました。カタログは廃止し、「ミスタービームス」に集約しています。

WWD:雑誌風にしたのはなぜ?

諸岡:顧客層に最もなじみのある媒体だからです。巻頭にニュースがあって第1特集、第2特集と続く、そこはメンズファッション誌の作りを参考にさせてもらいました。

WWD:「ミスタービームス」の印刷部数と流通経路は?

諸岡:3万8000部を全国の店頭で配り、1万2000部をハウスカードの上位ステージの方に発送しました。

WWD:イタリアブランド「ラルディーニ(LARDINI)」の日本代理店であるリデアカンパニーや、同じくイタリアブランドの「タリアトーレ(TAGLIATORE)」を取り扱うインポーターのトレメッツォなど16社が協賛している。

諸岡:僕が広告営業を担当しました。輸入代理店の方は戸惑っていましたよ、ふだんは客である僕らが「お金をください」って言ってくるんですから(笑)。でも「皆でいいものを作ろう」という思いが強かったですし、ブランド側にも楽しんでもらえるものにしなくてはと気を引き締めました。セレクトショップであるビームスは、日常的にブランドをかいつまんでいます。だから掲載するのは全て、ブランドの発信する純粋なイメージ、“ビームスナイズド”されていないシーズンの純広告にしました。

WWD:「ミスタービームス」を作ったのは、どんなメンバー?

諸岡:ビームスのPRスタッフが3人。そして編集作業は「メンズプレシャス(MEN'S PRECIOUS)」などで活躍する山下英介さんと、元「レオン(LEON)」編集部の持田慎司さんにお願いしました。

WWD:制作期間は?

諸岡:12月上旬にキックオフして2月上旬に校了ですから、約2カ月ですね。「ミスタービームス」という人物像の形成に最も力を入れました。結果、そこに一番時間もかかりました。冒頭の230文字にまとめたのですが、それまでに何万文字も書きました。あらためて編集の人ってすごいなぁ、と気付かされましたね(笑)。

WWD:業界の編集者たちの反応は?

諸岡:ある方には「雑誌の在り方を考えさせられた」と言われました。でも今も発行を続ける雑誌って独自性のかたまりですし、リスぺクトしかありません。それに繰り返しになりますが、われわれは雑誌を作っているわけではありませんので。

WWD:今回はドレス部門のスタイルブックだったが、カジュアル部門でもありえる?

諸岡:ターゲット層が違うので、ないと思います。

WWD:制作の過程で絶対に譲れなかったこととは?

諸岡:ファッションを扱っているんですが、「ミスタービームス」に“トレンド”という言葉は一切登場しません。この部分では山下さん、持田さんにも苦労を掛けたと思います。“トレンド”って便利な言葉なんですが、詰まるところ「それって何?」と聞かれると即答できないんですよね。少なくとも、ビームスで数十万円のジャケットを購入してくださる大人の男性に「流行ってるから着ましょう」とは言えません。どんな格好をしても自分がにじみ出る人、全身イタリアものなのにアメカジっぽく見えてしまう人、そういう人こそが「ミスタービームス」だと思います。

WWD:「ミスタービームス」は今後も続く?

諸岡:はい、Vol.02をすでに構想中です。

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