「リル・ジュピター(@liljupiterr)」もとい運用するリル・ジュピターは、コアなストリートカルチャー好きの間ではすっかりおなじみの存在となっている正体不明のインスタグラマーだ。
100万フォロワー以上を抱える「イージー マフィア(@yeezymafia)」や「シュプリーム リークス ニュース(@supreme_leaks_news)」を筆頭に、ここ数年、インスタグラムではブランドの公式リリースよりも先に情報を公開してしまうリークアカウントの存在が大きくなっている。「リル・ジュピター」もそんなアカウントの1つだが、他とは一線を画す。
というのもリークアカウントは、ブランドのコラボ情報や注目アイテムのリリース日をこと細かく解説した投稿をするのが一般的だが、「リル・ジュピター」の投稿はそうした詳細には一切触れず、ほぼ全てがキャプションなしという突き抜けた異質さを放っているからだ。さらにはアニメのワンシーンや面白動画まで、ウィットに富みながらも抜群にセンスある(?)投稿を日々続けている。
このキテレツな世界観にハートを射抜かれた人物は数知れず、今やヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)やジェリー・ロレンゾ(Jerry Lorenzo)をはじめとする35万以上のフォロワーを抱え、カリフォルニア発シューズブランド「ケースイス(K・SWISS)」に至ってはコラボスニーカーを発表した。
通常、リークアカウントを運用する人物とコンタクトを取るのは難しいのだが、先日の「アトモスコン(atmos con)」で「ケースイス」とのコラボスニーカーを販売するということで、リル・ジュピター本人が来日。長きにわたって正体不明だった彼に話を聞くことに成功した。
WWD:出身は?
リル・ジュピター:ドミニカ共和国で、両親はどちらもドミニカ人。7歳のときにニューヨークへ移り住んで、23歳になる今も住んでる。
WWD:なぜリル・ジュピターと名乗っているんですか?
リル・ジュピター:本当になんとなくつけたんだ。ジュピターって言葉の響きが単純にいいし、おもしろいなって。(編集部注:Lilはlittleの略語。小柄や若手を意味し、ラッパーなどが名乗ることが多い)
WWD:活動し始めたのはいつから?
リル・ジュピター:インスタグラムのアカウント自体は2013年からあったけど、本格的に活動を始めたのは2年前くらいからだと思う。
WWD:なぜ活動を始めたんですか?
リル・ジュピター:当時からファッションにめちゃくちゃ興味はあったけど、いわゆる“ファッションの人”って言われる業界人でもセレブリティーでもない普通の学生だった。じゃあどうしたら俺が“ファッションの人”になれるかを考えて、インスタにファッション関連の投稿をすることにしたんだよ。そうすれば俺はクリエイティブなマインドを持ってるし、クリエイティブなデザインも好きだから、投稿を見た人が気にしてくれて、そこから“中の世界”に入れると思ったんだ。
WWD:投稿の内容でファンを増やしたと思いますが、投稿する基準は?
リル・ジュピター:当初は周りで流行ってるファッションを中心に投稿してて、今はリーク画像とかも投稿するけど、俺がとにかくクールだと思ったものをひたすらあげてるだけさ。
WWD:だからファッション以外にもアニメや面白画像を投稿しているんですね。
リル・ジュピター:「ポケモン」だったら子どもの頃にやってたし、「スパイダーマン」は今でも観る。投稿するものに縛りはなくて、俺が昔好きだったり経験したことがあるものなんだ。
WWD:それでは、投稿を見ればあなたの人生が分かると?
リル・ジュピター:その通り!俺が面白いと思ったもの、ユニークだと思ったもの、変わってるものーーどんなコンテンツだとしても投稿するだけで俺を表現できる。投稿を見るだけで俺が好きなものも自然と分かると思うよ。
WWD:投稿の多くは、リーク画像やどこで見つけたのかわからない画像ですが、ソースは?
リル・ジュピター:自分でも探すし、フォロワーのみんなが情報を送ってくれるんだ。
WWD:これまでに1万1000件近く投稿していて、2年前からだと1日10投稿以上している計算です。投稿はツラかったりめんどくさくなったりしないんですか?
リル・ジュピター:確かにメンタルはやられるね(笑)。でも今日は今日、明日は明日って一日一日を大切にしていて、1日でも投稿しないと時代についていけなくなるから、この2年間で投稿しなかった日は2日しかないんじゃないかな?何事も続けることが大切さ。
WWD:アカウントは1人で運用しているんですか?
リル・ジュピター:最初から今まで全部1人だよ。よく何人もいるとか、ロボットを使ってるとか言われるけどね。
WWD:あなたと同じように、メディア的な役割を持つリークアカウントが増えていることについてはどう思いますか?
リル・ジュピター:投稿の内容からよく勘違いされるけど、俺はリークアカウントだと思って運用していないんだ(笑)。リークアカウント自体を見るのは楽しくて好きだし、それを見る人たちが大勢いることは事実だから存在を否定するつもりはない。それぞれのリークアカウントが投稿したいものを投稿すればいいし、俺は俺がクールだと思ったコンテンツを投稿していくよ。
WWD:日本では、“裏アカ”と呼ばれるアンオフィシャルなサブアカウントを持つ文化があるんですが、そういったプライベートアカウントはありますか?
リル・ジュピター:アメリカでも少しはサブアカウントを持っている人がいるけど、俺は持ってないよ。アカウントをたくさん持つと、アカウントとしての純度が薄まってしまうし、一つ一つの投稿にも一貫性が持てなくなると思うから。
WWD:今日は「セーラームーン」のパーカーを着ていますが、日本のアニメが好きなんですか?
リル・ジュピター:色の使い方、例えば髪の毛が青だったり、いろいろと興味深いことが多くて惹かれるね。
WWD:ピンクのヘアーは日本のアニメの影響?
リル・ジュピター:これはただの他人との差別化さ。ピンク色の髪の毛の男なんて滅多にいないだろ?(笑)。
WWD:ストリートファッション関連の投稿が多いですが、好きなファッションのジャンルは?
リル・ジュピター:知識があるから、ストリート。ハイブランドにも興味があるけど、知識がなくてね。知識があることにこしたことはないだろうから、今は勉強中。でもとにかく自分がいいと思ったものが好きだから、投稿と同じように縛ることはしていないよ。
WWD:好きなブランドは?
リル・ジュピター:「デザイナー ヒューマンズ(DESIGNER HUMANS)」ーー俺のブランドさ。年内にリリースするから楽しみにしてて。
WWD:スニーカーは好き?
リル・ジュピター:スニーカーはそれぞれにスタイルがあって、デザインがあって、歴史があって、ストーリーがある。そういうのを全部ひっくるめて好きだね。洋服もスニーカーも自分を表現できるから好きなんだよ。
WWD:今月、「ケースイス」とのコラボスニーカー“CR-329 JUPITERR”を発売しましたが、コラボの経緯は?
リル・ジュピター:去年の6月に「ケースイス」の社長からインスタのDMが来たんだ。それでロサンゼルスで会うことになって、直接話を聞いたらお互いの作りたいスニーカーのイメージだったりが一致して、コラボが実現した。
WWD:ブランドとのコラボは「ケースイス」が初めてですが、これ以前に他ブランドからコラボの話はあったんでしょうか?
リル・ジュピター:いくつかのブランドからDMは来てたんだけど、どれも本気で俺とコラボしたいという思いが感じられなかった。でも「ケースイス」にはそれが感じられて、俺にチャンスを与えてくれた。
WWD:ベースとなるモデルに“CR-329”を選んだ理由を教えてください。
リル・ジュピター:高校生の頃に同じような形のランニングシューズを履いていたから、“CR-329”を見たときにすぐにコラボのデザインが湧いたんだよ。今こういうダッドスニーカーみたいなシルエットがトレンドだから、その流れを汲んだというのもある。
WWD:ピンクのヒールが印象的です。
リル・ジュピター:スニーカーのどこかにアクセントカラーを入れたくて、ピンクを入れたんだ。ピンクは好きな色だしね。
WWD:アメリカと日本だけという極めて限定的な販路でしたが、なぜ?
リル・ジュピター:もともとはアメリカだけだったけど、「アトモスコン(atmos con)」の開催とタイミングが合ったからさ。機会に恵まれたね。
WWD:違うモデルをベースに、またコラボしたいという思いはありますか?
リル・ジュピター:実はもう話が進んでいて、次は“CR-329”じゃない新しいモデルでコラボするよ。俺はファッションもアートもちゃんとした学校で学んでないし、何かをデザインするのは今回が初めてだったから時間がなくてシンプルになった。デザインに制限もあったしね。だから次はもっと複雑なデザインになる予定。たぶん9〜10月に発売するから、次の「アトモスコン」で発売するかもね。
WWD:“中の世界”に入りたかった青年が、今ではヴァージルにインスタをフォローされ、ブランドともコラボする存在に成長しましたが、振り返ってどうですか?
リル・ジュピター:アカウントをスタートさせたときは、こうしてインタビューを受けるようになるだなんて思ってもなかった。とにかくキャリアが右肩上がりになっていて、いい調子だよ。
WWD:今後の活動予定は?
リル・ジュピター:今はファッションがメインだけど、例えば家具だったり、ファッションに限らず自分の頭の中にある全てのものをアウトプットするデザイナーになりたいね。「デザイナー ヒューマンズ」をブランドとして展開するにはまだまだ時間がかかるだろうけど、別にお金を儲けたいからやるわけじゃなくて、ファッション業界に対してインパクトを与えたいだけだから、そこはしっかり時間をかけてプランニングしていくつもり。今は何も言えないんだけど、超有名なブランドとコラボすることは決まってるよ。