韓国で若年層から支持を得るファッション&カルチャー誌「マップス(MAPS)」は28日まで、日本で初めてのポップアップイベントをラフォーレ原宿2階のポップアップスペースで開催している。アーカイブや「リトル サニー バイト(LITTLE SUNNY BITE)」などのアパレルブランドとのコラボグッズを販売する。
「マップス」はとてもユニークな作りをしている。アートブックのように写真だけが並んでいたり、テキストが韓国語、日本語、英語、時にはフランス語やロシア語などでも綴られていたりする。そして広告はほとんど入らない。「マップス」独自の世界観を作り上げるリュウ・ドヨン編集長に、雑誌というメディアへの考え、そして現在のユースカルチャーについて聞いた。
WWD:「マップス」を創刊したきっかけは?
リュウ・ドヨン編集長(以下、リュウ):僕が22歳の時、2006年に創刊した。その頃の韓国はローカルマガジンがあまりなくて、ライセンスマガジンが多かった。カルチャーやファッションが好きな人に向けて独自の発信をしたいと思ったことがきっかけだ。
WWD:最初から今のアートブックのようなスタイルだった?
リュウ:最初はもっと広告も入っていたが、5年前にコンセプトを変えた。アートというより、ユースカルチャーを反映したら今の形になった。
WWD:各国で撮影をし、言語も多様だ
リュウ:各国のローカルカルチャーを発信したいと思っているので、必要になるたび現地のカメラマンやスタイリストでチームを作っている。 言語がさまざまなのは、撮影した国の言語を使っているから。日本は近いし、撮影機会が多い。
WWD:なぜ日本でポップアップを行う?
リュウ:昨年、東京でドキュメンタリームービーを作った。「マップス」は半年単位でメインテーマを設けていて、これは「ノスタルジア」というテーマの始まりの記念。(元AKBでタレントの)小嶋陽菜や(インフルエンサーの)AMIAYAなど6人に出演してもらって、11月には東京で上演会を開いた。そこからもっと日本でも活動したいと思い、友達を通じて知り合ったCoogeeの鈴木ヒロユキ代表が間に入ってくれて、今回のポップアップが決まった。展示会もしてみたかったし、いいタイミングだった。
WWD:今回はアパレルともコラボする
リュウ:「マップス」と歩んできたブランドや、日本のブランドともコラボした。一緒に歩んできた友達と日本にあいさつをする、という意味合いで企画した。
WWD:「マップス」は独自の世界観があるが、着想を得ているものはあるのか?
リュウ:インスピレーションがあるのではなく、常に頭を回している。一般的なもの、平凡なものを変わったものに変えるのがいいなと思っている。独特な人が独特なものを作るって、普通でしょ(笑)。かわいいアイドルを「マップス」の色に染めるなど、相手にとっても新しいことをしたいと思っている。
WWD:表紙には日本人も起用しているが。
リュウ:小嶋陽菜や(モデルの)秋元梢などを起用したことがあるが、周りが推薦してくれた。周りの友達が“「マップス」の世界観”を理解してくれていて、常にその世界観に合う人を考えてくれている。ヒョナやイドン、東方神起やiKONのBOBBYなど韓国のスターを起用したこともあったが、旬の人だから起用しているわけではない。人気っていつか下がるし、人はやがて死ぬ(笑)。旬や人気という永遠でないものが理由ではなく、「マップス」という世界観が作りたかっただけだ。
WWD:なぜ広告がこんなに少ないのか?
リュウ:ブランドの発信することは、自分からの発信ではないと感じた。なじみのない、ブランドが発するテキストを排除したかった。メディアはブランドの代理店ではないから。今も広告がないわけではなくて、依頼は来るし、その号のコンセプトや「マップス」自体に合っていると思えば広告も入れる。ハイブランドもエディ・スリマン(Hedi Slimane)の「セリーヌ(CELINE)」やリカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)の「バーバリー(BURBBERY)」など僕たちの世界観に合うブランドが増えて、広告が浮かなくなってきた。化粧品のブランドは、僕たちの思うアートな形で撮らせてもらいたいので、大体のクライアントは嫌がる。だからあまり入らない(笑)。
WWD:広告が入らず、どのように収益を上げている?
リュウ:ブランドのコンサルティングや企業の顧問などをしている。広告が入らなくても稼ぐ手段はけっこうある。
WWD:日本では“紙離れ”が深刻だが、韓国では?
リュウ:韓国でもそれは同じ。僕は紙にこだわっているわけではなく、今までやってきたことだったから、そのまま紙でやるのが自然だったということ。みんながやめていっていることをやるのも、面白いしね。でも、紙をたくさん使うと、木が減る(笑)。部数が増えていったらその分、木を植える。
WWD:ユースカルチャーは今、どう変化してきている?
リュウ:ストリートカルチャーやハイファッションなど、商業的な意図でカテゴリーを区切っている。メジャーとかアンダーグラウンドとか、本来であればそれは自然に出てくるものだ。その時代に逆らいたいという思いを持つ人が、新しいものを作ることがユースカルチャー。本当にそういう気持ちをもっている人が作るものは、「ユースカルチャー」なんて書いていなくても、それが表現されている。しかし、今はそういう気持ちがない人が「ユースカルチャー」と書いた、表面的なものを作っている印象だ。例えば40年ほど前、サーフィンをしていた人が陸地でもサーフィンをしたいという思いから、スケートボードが生まれた。そういう純粋な思いが新しいユースカルチャーを作ると思う。
WWD:日本のユースカルチャーについてはどう感じる?
リュウ:自分が中学生だった頃は、欧米の影響を受けつつも日本らしさを加えた日本のカルチャーや、そこから生まれたブランドも好きだった。今は日本らしさを排除して、そのまま海外からの影響を受けているように見える。原宿を見ても、韓国のカンナムや明洞とどう違うのかな、と思ってしまう。みんなが同じブランドを着ている。
WWD:韓国のユースカルチャーは?
リュウ:韓国でもそうだ。今は商業的なものがみんな同じ方向に向かっているし、それはそれでいいと思う。僕の好みと異なるだけで、悪い意味ではない。それが一つの流れで、10年後にはそれこそが“ユースカルチャー”だといわれているかもしれないし。ただ、今の若者が大人になって、その商業的な流れに飽き始めた時に、「マップス」が「マップス」らしくあり続けられていたら、それをまた新しい視点で受け入れてくれるかもしれない。