1984年にオンワード樫山が創設した「Tokyo新人デザイナーファッション大賞」のプロ部門(以下、ファッション大賞)に入賞した若手デザイナーたちのユニット「クリエーターズ トウキョウ(CREATORS TOKYO)」の所属ブランドと、彼らのモノ作りを支える人々との対話。1回目の「クロマ(CHLOMA)」(https://www.wwdjapan.com/829885)に続いて2回目に登場するのは、末安弘明が手掛ける「キディル(KIDILL)」と桐生整染商事。
「キディル」は2017年に「ファッション大賞」と、同賞の審査で最高得点を獲得したブランドに贈られる東京都知事賞も受賞した。そして今年1月、19-20年秋冬コレクションを初めてパリで発表した。「クリエーターズ トウキョウ」のブランドに向けた支援の1つである素材開発のサポート“産地コラボレーション支援”を受けて、全国の産地に精通した糸編の宮浦晋哉代表のコーディネートにより桐生整染商事と出合った。デザイナーとテキスタイルデザイナーがイメージを共有し、一緒にモノ作りをしていくことについて聞いた。
―今年1月に19-20年秋冬コレクションをパリで発表した。その直前のあるインタビューの中での「今しかない!」という言葉が印象的だった。
末安弘明「キディル」デザイナー(以下、末安):17年6月に「ファッション大賞」に入賞できたことが本当の意味で始まりでしたね。同時に東京都知事賞もいただいて各方面にご紹介いただき、注目されました。同年10月の「アマゾン ファッション ウィーク東京」期間中に、入賞した複数ブランドによるジョイントショーが渋谷ヒカリエで行われたのですが、そのとき、「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」の店舗やバーニーズ ニューヨーク(BARNEYS NEW YORK)のバイヤーに見てほしくて自分でインビテーションを出したんです。そうしたらバイヤーの方々が本当に来てくれました。ショーを見た後で展示会にも来てくださって、その後、「コム デ ギャルソン」で取り扱いが始まりました。「ファッション大賞」を受賞したことは、ブランドPRのツールとして素晴らしい役割を果たしてくれたと感じます。だから逆に「今しかない!」と思ったんです。今しっかりと動かないと逃してしまう!って思って、頑張りました。結果、予想を上回るたくさんのことをつかめたと実感しています。
もちろん取り扱いがスタートしても、その後がもっと大切ですが。ある百貨店の担当者には「消化率100%で、セールまで服が残っていなかった」とうれしい報告をいただいています。ホッとしましたね。本当によかったです。「ファッション大賞」の支援がなかったらパリにも行かなかったと思います。
―“産地コラボレーション支援”を受けて19-20年秋冬コレクションの生地を製作するにあたって、コーディネーターの宮浦氏にはまず何を伝えた?桐生整染商事の川上由綺テキスタイルデザイナーとの出会いは?
末安:それまで愛用していた海外の生地は、自分がいいと思う色が廃番になってしまったんです。そしてそれ以前に、海外の生地は納期が遅すぎるんです。3~4カ月待たないと届かなくて、それでは商品のデリバリーが始まってしまう。そういったことも含めて、なんとか国内生産にシフトすることができないかと宮浦さんに相談しました。作りたい生地のイメージを伝えると、それなら桐生産地がいいと言われて桐生整染商事を紹介していただきました。新作だけでなく、すでに進行していた春夏商品の量産分の生地も急きょお願いして制作してもらったんです。短い納期で対応してもらって、感謝しかありません!
川上由綺・桐生整染商事テキスタイルデザイナー(以下、川上):私は今回のお仕事で初めて、生地の経糸つなぎを全部1人でやったんです。合計6柄をオーダーいただいたのですが、同じ幅で柄を替えてといった経験はなかなかできないので、ものすごいトレーニングになりました。そういう機会でもないと、なかなか技術を覚えられないので貴重な経験でした。
末安:本当に大変な作業をお願いしました。
川上:太めで、あまりやっかいな糸ではなかったのもよかったです。仕上がったら、自分も一歩前進できたと感じました。やはりブランドから注文をいただいても、いつも新しい経験ができるわけではないのでありがたい企画でした。しかも量も結構あって、今どきなかなかあの量を注文される方はいないと思うのですが…。
末安:そういう話を聞けるとブランドとしてうれしいです。当初、チェック柄の服をいっぱい作ろうと思っていたんです。でも途中で方向を変えて、マルチ柄もかわいいなあ、なんて思ったので。
川上:なんというか、全ての行動に男気があると思います。
末安:代金も速攻で振り込みましたよ!部活みたいですね。「オッス!」みたいな(笑)。
川上:そういう反応の早さや計画性とかを感じると、自然に信頼関係が生まれますよね。会社側の対応もスムーズになっていって、全てよくなっていくわけです。産地と付き合うときには人間関係がとても重要なポイントになるので。末安さんは大らかな対応も好印象です。
Tokyo新人デザイナーファッション大賞事務局
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