作業着のワークマンは、カジュアル業態「ワークマンプラス(WORKMAN PLUS)」の関西1号店をららぽーと甲子園(兵庫県西宮市)に21日開く。同社は、ここから3km弱の阪急西宮ガーデンズ(同)に日本1号店を29日開く仏スポーツウエア専門店「デカトロン」への“宣戦布告”を表明しており、「ワークマンプラス」だけでなく、近畿圏に約100店舗ある「ワークマン(WORKMAN)」の既存店で包囲網を作る。
昨年から何かと話題のワークマンだが、仏デカトロン社は世界51カ国に約1500の大型店を構えるスポーツ用品SPA(製造小売り)で、売上高1兆3000億円のガリバー企業である。あらゆる球技からアウトドア、ランニング、ヨガ、サイクリング、乗馬まで幅広いカテゴリーに、低価格の自社製品を提供。「ナイキ(NIKE)」「アディダス(ADIDAS)」「アシックス(ASICS)」「ミズノ(MIZUNO)」といった有名ブランド信仰が根強い日本のスポーツ市場を切り崩す、黒船SPAとして業界の注目を集めている。
「ワークマンプラス」の仕掛け人である土屋哲雄常務は、デカトロン社への対抗心を隠さない。「『ワークマンプラス』が展開するのは、アスレジャー市場で国内4000億円の空白市場といわれる低価格・高機能ウエア。世界でこの市場を狙えるのは『デカトロン』しかなく、脅威に感じている。当社のららぽーと甲子園店の約270平方メートルに対して、『デカトロン』の西宮店は7倍の約1815平方メートル。1店舗では対抗できないので『ワークマン』の既存店にビジュアルパネルを導入するなど、近畿圏内の全店で改装を実施した」。
ららぽーと甲子園店の初年度売上目標は3億円。既存の「ワークマン」で扱う1700品目のうち、一般客向けの320品目を販売する。売り場は大きく分けてアウトドア、スポーツ、レインウエアで構成する。フードコートの近くで女性客が多いため、初の女性専用コーナー(約66坪)も設けた。
デカトロンへのライバル心を燃やすワークマン。両社は大枠では同じ低価格SPAなのだが、モノ作りのスタンスが根本的に異なる。
「デカトロン」が競技者などユーザーの声に徹底的に耳を傾けてスポーツウエアとしての機能性を追求するのに対して、「ワークマンプラス」は価格ありきで高機能商品を開発する。「まず買いやすい価格を決めてから、8割の人が必要としている機能をどこまで盛り込めるかに全力を注いでいる」(商品部の柏田大輔氏)。さらに「デカトロン」をはじめとする大半のSPAは、シーズン期末に商品を値引きして売り切る。ワークマンはデザインがベーシックなので、基本的には値引きをせずに2〜3年かけて正価で売り切る。
例えば「ワークマンプラス」の吸汗速乾性と冷感性を兼ね備えた半袖Tシャツは580円。同様の機能性の商品を「デカトロン」では、その3倍程度の価格で売る。「ワークマンプラス」では商品原価率を65%に設定。工場と直接やりとりする生産体制はもちろん、全国800店舗以上の既存店を背景にした大ロット生産と、値引きコストを商品に上乗せしないため、圧倒的な競争力のある価格を実現している。580円のTシャツに合わせるフルレギンスは1500円、スニーカーにいたっては980円、全身そろえても5000円以内で収まる。「値札を見なくても気軽に買える商品作りを行い、店頭ではコーディネート提案を徹底している」(商品部の北村武士氏)という。
それ以外にも、昨年5万枚を完売したストレッチ素材のウインドブレーカーは撥水機能、反射材付きで2500円。今年は10万枚の販売を計画している。熱中症対策の扇風機付き空調ウエアや、厨房用の靴から生まれた滑らないファイングリップシューズの新製品も登場する。
土屋常務は、同じ低価格・高機能ウエアのライバルだが、立ち位置は微妙に違うと見ている。「当社は(目的なくぶらりと立ち寄って選べる)最寄り品に特化しており、(具体的なスポーツ用途で探す)『デカトロン 』とは少し違う。厳密にいえば、扱うカテゴリーも少し異なる。実はデカトロン 社とは情報交換もしている。よきライバルとして、この市場を盛り上げていきたい」と明かす。
巨大なグローバル企業と戦う準備が整ったからか、土屋常務の表情には余裕さえ感じられた。