熊切秀典が手掛ける「ビューティフルピープル(BEAUTIFUL PEOPLE)」は23日、東京・霞が関の経済産業省本館内の講堂でファッションショーを行った。披露したのは先日パリで発表した2019-20年秋冬コレクション。パリに発表の場を移してから2年半、5シーズンぶりに東京ファッション・ウイークでショーを開いた。経産省が立ち上げた若手ファッションデザイナーのビジネス拡大に向けた支援プロジェクト「若手デザイナー支援コンソーシアム」の1周年を記念したもので、ショー会場になった前例はないという経産省の講堂を使用した。
経産省の担当者は、今回講堂の場所を貸したのは日本のデザイナーたちへ同コンソーシアムの存在をアピールする意味を込めているという。「『ビューティフルピープル』はメード・イン・ジャパンのモノづくりにこだわり、影響力のあるパリコレにも出展をしているが、経産省は積極的に世界を目指す日本のデザイナーを支援していきたいと思っている。これを機に東京ファッションウイークで、経産省のこの場所でもショーができるということを知ってもらい、『何か相談してみようかな』とデザイナーに感じていただけたら」と話す。
熊切デザイナーは“ユニークな場所でショーをする”ということにこだわった。「ファッションショーは発表する場所で印象が変わるので、普段は入れない場所で行うことは意味のあることだと思う。例えば迎賓館でできたらと考えたが、この場所(経産省の講堂)も僕らにとっては入れない場所。今回のショーをきっかけに今後、国が保有するユニークな場所をショー会場として使用できるようになっていってほしい」という。
また、ショーの招待状にはオリジナルの色鉛筆を同封したが、鉛筆の制作を実現するのに経産省との取り組みがプラスになったという。「三菱鉛筆さんに依頼をしたときに、『経産省との取り組みで…』と話すとよりスムーズに進み、それだけ国の力ってすごいと感じた(笑)。小さいブランドは力がなくてできないことが多いので経産省の支援は良い影響を与えると思う」と明かす。
発表したコレクションは、今後「ビューティフルピープル」のモノ作りのテーマになっていくという“サイドC”(C面)というアイデアを取り入れている。“サイドA”が表面、“サイドB”が裏面として、その“サイドC”は表面と裏面の間にある部分で、例えば裏地付きのコートの、表地と裏地の間が“サイドC”となる。その“サイドC”に体を通すことで、裏地がトップスのような役割を果たす画期的な着方の提案だ。バリエーションは、トレンチコートやジャケットなどさまざま。カラーパレットは、その“サイドC”の内側というアイデアから人間の体内に結びつけ、髪の毛の黒や茶や、肌のベージュ、骨の白などをベースにして、人間が持つ体の色を使用した。
熊切デザイナーは「僕はパタンナーという型紙を作る職人出身のデザイナーで型紙作りこそが強みであり、重点を置いていること。今回、裏と表の間の存在を見つけた。それはリバーシブルでもない、アバンギャルドなインサイドアウトでもない。全てを包括できるパターンの作り方」と胸を張る。パリではウィメンズのみを見せたが、東京では久しぶりにメンズウエアもショーに登場させた。
「若手デザイナー支援コンソーシアム」は経産省が18年3月に立ち上げた若手のファッションデザイナーのビジネス拡大に向けた支援プロジェクト。この1年で、ジェトロ(日本貿易振興機構)を通した海外展開支援の事業で日本の3ブランドの海外展示会支援を行った他、神戸コレクションなどのイベントの参加支援、産地企業とデザイナーのマッチングイベントも行ったという。