2019-20年秋冬の「アマゾン ファッション ウィーク東京」最終日は、海外進出支援プログラムである「東京ファッションアワード(TFA)」受賞6ブランドがショーを行った。独創的で強いデザインというよりも、“いい意味で売れそう”なブランドがそろった印象の今年のTFAだが、ウィメンズの注目は中堅の「チノ(CINOH)」と若手の「ポステレガント(POSTELEGANT)」。どちらもこれまでは展示会のみで発表してきたが、果たして初ショーの評価は?リアルクローズブランドがショーを行うことの意義を、現在はギンザ・シックス内の「シジェーム ギンザ(SIXIEME GINZA)」でディレクションなどを手掛ける名物バイヤー、笠原安代さんに聞きました。
WWD:「チノ」と「ポステレガント」はこれまで展示会で見続けてきたブランドだと思いますが、ショーの印象はどうでしたか?
笠原安代(以下、笠原):「チノ」はスタイリングの妙がよく分かって、「展示会ではなくショーで見るってこういうことか!」という驚きがありました。これまでは日本のいい素材を使ったユーティリティーベースのモノ作りというイメージが強く、お出掛け着というよりは日常で着るのにいい服という印象だったけれど、スタイリングで見ると迫力がありましたね。今まであまり強さを感じたことはなかったんだけど、多分、丈をショーのために少し長くしているとか、スリットの入り方とか、そういう微妙な差異によって、見え方が今までとは違いました。大人の女が着られる服になったなと感じます。
WWD:「チノ」は私もこんなに強い服だったんだなと驚きました。テーマの“大人のグランジ”も明快で分かりやすかったと感じます。「ポステレガント」はどうですか?
笠原:新進ですがすごく好きなブランドです。デザイナーの中田(優也)くんはクラフトが好きで、顔に糸を貼り付けたメイクもクラフトを感じさせて印象的でした。日本でクラフトっていうとこれまではどうしても“ほっこり”したものが多かったですが、ようやく“ほっこり”じゃないブランドが出てきた。同じアイテムを男女ともに着せて、気負いなく男女がスイッチする点も新鮮です。ジェンダーレスを大上段に打ち出すわけではなく、男女共に自然と着られる。男の人って服に理屈を求めて、女性は感覚を大事にしますが、男女どちらも納得できる。コンセプトがあるのに理屈っぽく見せない。あらゆる点で新しいです。
WWD:デザインと共に、価格は重要な買い付けポイントです。バイヤーから見てどうですか?
笠原:例えば「サカイ(SACAI)」や「マメ(MAME KUROGOUCHI)」など、凝っているのに安いなと感じていたブランドって、海外に出ていきやすい。「チノ」「ポステレガント」も、あのクオリティーであの値段は安い。「ポステレガント」は19年春夏のコートで一番高くて10万円強でした。海外にもっていくとちょうどコンテンポラリーなゾーンにはまるんじゃないですか?
WWD:東コレはポップでフレッシュな感覚が売りの一つですが、その分大人のバイヤーが満足できるブランドに欠けているとよくいわれてきました。実際、笠原さんも東京では東コレブランドより、展示会ベースで発表するブランドで重点的に買い付けを行ってきたかと思います。
笠原:確かに、今までの東コレはメンズか、ポップな“トーキョーカワイイ”系か、大御所ブランドしか出ていないイメージで、ショーに対して懐疑的だった部分はあります。「サポート サーフェス(SUPPORT SURFACE)」みたいに、海外で経験を積んだ実力派も一部はありましたけど。でも、展示会ベースで発表してきたリアルな服が、ショーで見せると断然よく見えるということがある。「チノ」がいい例です。改めて、服って生き物だなと感じました。それに、展示会だけだと業界内の人にしか知られないけど、ショーをすると若い人も来場するし、こんな風に取材も受けるし、話題につながりますよね。
WWD:確かに。今季は「ハイク(HYKE)」「ザ・リラクス(THE RERACS)」なども含め、大人の服が東コレで目立ったシーズンでした。
笠原:今までの東コレデザイナーの服って、スポーツやカジュアルに振れていて、マネジャークラスの女性が着られるものが少なかった。でも、今季は大人の女性が着られるブランドが増えています。私の使命は新進ブランドをお客さまに喜んでいただけるように届けること。「チノ」「ポステレガント」は「シジェーム ギンザ」ではまだ扱っていませんが、ショーを見て扱いたいな、その可能性があるなと感じました。