昨秋以降、「エル・ガール オンライン(ELLEgirl ONLINE)」編集長などの経験から「ファッションに特化したデジタル編集者を育成しなければ!」と育成プロジェクト「編集のがっこう」を立ち上げた澄川恭子ポマーロ取締役に激しく共感し、このプロジェクトで何度か教壇に立たせていただきました。
■デジタルに特化したファッション編集者を育成する「編集のがっこう」開講 第一期生を募集中
1回90分で全12回(内容が盛りだくさんゆえ、実際は12回に収まっていませんがw)、受講料10万円の「編集のがっこう」に参加した第1期生は、およそ15人。すでにデジタルメディアに携わっている編集者から、Eコマースの世界で生きる人、逆に紙の出版物に囲まれている女性まで、さまざまな人が参加し、日進月歩で進化し、小さなことながらたくさん知らなくてはならないデジタルメディアについて、ともに楽しみながら学んでいます。
今日紹介するのは、そんな生徒が授業の一環として制作した、とあるプロジェクトの2つの記事。毎週「編集のがっこう」の教室を提供したアパレル企業、ワールドのサポートを受けて立ち上がった新ブランド「スネイルズ(SNAILS)」を紹介するコラムです。
■LGBTQとサポーターに向けた新ブランド ワールドがサポート
「スネイルズ」自体は、すでに「WWDジャパン」の記者が、こんな風に紹介してくれました。
ということで、僕は生徒に「『WWD JAPAN.com』では得られない情報。特に感情を揺さぶるような、共感できるかもしれないコラムを書いてください」とリクエストさせていただきました。
が、コレが“編集者のタマゴ”たちには、とても難しいようでした。
記事に共感するには、読みやすいなどの書き手としての最低条件をクリアしているのはもちろん、そこに“想い”が存在しなければなりません。けれど“想い”を伝えるって、実はけっこう難しいもの。“想い”は事実と違い、誰もが納得できる正解がありません。だからこそ書き手は、「読者に何か言われないかしら?」「私の“想い”、みんなと違ったらどうしよう?」と臆病になりがちです。特に「編集のがっこう」に通う“イマドキ”の子は、なおさら。しかも「スネイルズ」は、タイムリーでセンシティブなセクシャリティーと密接に関わるブランドだから“なおさらのなおさら”なのです。
ということで、彼女たちの最初の原稿は、事実こそ網羅しているものの、ゆえに情報過多。一方でエモーションが存在しないため「どこでも読めそうな記事」でした。臆病な生徒たちは怒られないよう、事実関係を漏らさないことに集中してしまったのです。
生徒たちは「スネイルズ」に対して、ここで紹介する記事を書くチーム、インスタグラムやツイッター、ノートなどのSNSを使うチームなどに分かれ、それぞれがブランドをメディアやSNSの特性を意識しながらプロモートしています。そしていずれのチームでも最初の障壁となったのは、「漫然と情報を発信するのではなく、選ぶこと」。そして「なぜ、その情報を発信するのか?自信を持って、その理由が言えること」でした。
でもコレって、編集者に限った話ではないですよね?特に日本人は、自分の意見を表出するのが得意ではありませんが、これからは「意思がなければ、共感されない」時代、「嫌われるかもしれないけれど、エモーションを喚起できるコミュニケーションへの覚悟が試される」時代が到来します。
若者の苦闘を見て、オジサンは、改めて編集・記者という仕事への心構えを学びました。
優秀な若い子たちが、器用ゆえ陥りがちな過ちを克服した2つの記事、正直に言えば、まだまだ“おっかな、びっくり”で慎重過ぎる印象もありますが(笑)、殻を破った勇気をご覧いただけると幸いです。
【記事1】
20年目のLGBTQデザイナーが
新ブランド
“サイズのない服”で伝えたいこと
新ブランド「スネイルズ」が2019年春夏にスタートする。特徴はひとつのテーマを表現し賛同者を増やすプロジェクト型のブランドであること。大手アパレルのワールドがサポーターを務め、スエット(1万8000円)とTシャツ(9800円)、スカーフ(2万1000円)の3型でデビュー予定だ。
デザインは、いたってシンプル。スエットはリバーシブルで、ライトグレーとチャコールグレーの2色展開。Tシャツは白と黒の2色展開だ。ともにワンサイズだが一般的なメンズのLサイズほどのビッグシルエットなので、体型や性別に関係なく個性をいかした着こなしを楽しめる。
しかし、「スネイルズ」は単なるユニセックスブランドではない。商品を通してLGBTQへの理解や、ストレートアライ(LGBTQを支援する異性愛者)の共感の輪を広げようとしている。サイズがひとつしかないのはこのため。いくつかのサイズの中から自分に近い服を探すのではなく、ワンサイズの服を自分らしく着こなす。それと同じように、性別を超え自分らしく生きることは、すべての人に許されることという思いを表現した。
日本ではあまり報道されないが、LGBTQの若者は自殺率が高い。本当のセクシャリティを親や兄弟に打ち明けられない、打ち明けても受け入れてもらえない――。そんな恐怖や孤独感を抱え、ひとり思い悩み、死を選ぶ10代の子どもたちもいる。自身もLGBTQであるデザイナーの安達功はこの事実を知り、「ひとりでも悲しむ人を救いたい」とキャリア20年の節目に「スネイルズ」を立ち上げた。
近年、ファッション業界においても他と同じく、ダイバーシティー(多様性)とインクルージョン(包括性)が重要なキーワードになっている。19年春夏のコレクションでも、多くのブランドのテーマになった。
しかし、残念ながら日本の価値観は、依然として多様とは言い難い。だから「スネイルズ」はより身近に感じられる普段着に焦点を当て、日々服を着るくらい当たり前に個性が尊重される世界を目指す。安達は「セクシャリティだけがダイバーシティーだとは思っていない。けれど僕は、自分のアイデンティティであるLGBTQの問題に取り組みたい」と話す。今後は、コスメやインテリアなど日常に関わる商品を発表する予定だ。
【記事2】
LGBTQデザイナー 20年目の挑戦
新ブランドでサイズ展開をなくした
意図とは
新ブランド「スネイルズ(SNAILS)」が始動した。
同ブランドは3月8日、サポーターを務めるアパレル会社ワールドの本社でローンチイベントを開催し、ブランドの主旨に共感するクラウドファンディングの支援者が参加。トークショーにはアーティストの野宮真貴とスタイリストの飯嶋久美子がゲスト登壇し、デビューを祝福した。
アイテムはスエット(1万8000円)とTシャツ(9800円)、スカーフ(2万1000円)の3点。白・黒・グレーを基調としたベーシックカラーと、ブランドアイコンである「カタツムリ」のロゴが目印だ。Tシャツはビッグシルエットでワンサイズ展開。体型や性、年齢に関わらず、誰もが普段着として着用できる。ワンピースのように1枚で着たり、ベルトを巻いたり、着こなしも自由自在。すべての人が自分らしく着用できる、個性や多様性を尊重したデザインが特徴だ。
スネイルズは、LGBTQ(性的少数者)とストレート・アライ(LGBTQをサポートする異性愛者)を永続的に支援する。発起人の安達功(いさお)デザイナーもLGBTQの1人だ。安達デザイナーは、若い世代がセクシャルマイノリティに悩み自ら命を絶つニュースに心を痛め、苦しむ人を一人でも救いたいと強く思い、自分にできることはないかと考え、キャリア20年目にして服作りに対する考え方を変えた。「これまでは『らしさ』を創造してきたが、これからは着る人の気持ちに寄り添いたい」。こうして、個性や多様な価値観を尊重するワンサイズのTシャツやリバーシブルスエットができあがり、「わたしはわたしでいい。あなたはあなたでいい。」をコンセプトに「スネイルズ」が誕生した。20年のキャリアがあり、日本人であり、LGBTQの1人である安達デザイナーだからこそ、マイノリティの繊細な気持ちを汲み取り、きめ細やかな配慮をデザインに反映できた。
今世界では、多様性を認めるべきという声が広まりつつある。「多様」と一口に言っても、肌の色や体形など、さまざまな個性がある。LGBTQもその一つだ。
2019年春夏コレクションでも多くのブランドがLGBTQや多様性をテーマにし、ファッション以外では多くのオリンピック選手が自らのセクシュアリティをカミングアウトしている。日本でも、東京都が20年のオリンピック&パラリンピックに向けてLGBT担当部署の設立を表明するなど、組織的な取り組みも広がっている。多様な個性や価値観を尊重する社会的な取り組みは、今後ますます増えるだろう。
「スネイルズ」は、LGBTQの共感の輪を広めることを目的とするプロジェクト型のブランド。今後はファッション以外にもインテリア雑貨やコスメなど、ライフスタイルに寄り添う商品を製作する予定だ。