1980年代——。今でこそ、「シュプリーム(SUPREME)」は大人気ブランドになったが、日本ではまだまだスケートボードがアンダーグラウンドなカルチャーだった時代。そんな初期のスケートボードにどっぷりハマった藤原ヒロシらによって、その後、アングラだったカルチャーが表舞台に押し上げられることになる。一方で、上野伸平はアングラから叩き上げのストリートスケーターの一人だ。このほど、虎ノ門にオープンしたスケートパーク「キューコン(QUCON)」の中心メンバーでもあり、藤原の携わる「モンクレール ジーニアス(MONCLER GENIUS)」のプロモーションムービーも手掛けた。お互いを知っていながらしばらくは“一方通行”だったという2人が意気投合し、オープンニングには「フラグメント デザイン(FRAGMENT DESIGN)」とのコラボアイテムも並んだ。今回は、コピーではなく自分のオリジナルを発してきた新旧スケーターによる対談の前編。
WWD:なぜ虎ノ門を選んだんですか?
上野伸平(以下、上野):盛り上がっているのが原宿とか渋谷ばかりなんで、虎ノ門でやるのも面白いかなと思ったんです。
WWD:ヒロシさんは(虎ノ門の位置する)港区でもお店をディレクションされていますが、どうですか?
藤原ヒロシ(以下、藤原):港区は家賃が高いし、いい環境でできる場所がなかなかないから。そういう意味では、僕も面白いことをやろうと思っても、例えばプール(ザ・プール青山)やパーキング(ザ・パーキング銀座)みたいに結局場所に左右されちゃう。仕方ないことだけど、それが東京っぽいところかなとも思う。
WWD:お二人の出会いは何だったんでしょう?
藤原:僕は元々、スケートボードが好きだったから彼のインスタをひっそりとフォローしていたんだよね。そしたらなぜか突然フィレンツェ(「モンクレール ジーニアス」のインスタレーション会場)に現れた。
上野:いや実は僕、最初は裏原世代の後ってこともあって藤原さんのこと知らなかったんです。僕が2013年に作った「レンズ2(LENZ 2)」っていうスケートビデオがあるんですが、嫁が突然「インスタグラムで藤原ヒロシが『レンズ2』のことをすごいって言ってくれてるよ!」って。そこで藤原さんのことを初めて知って調べたら「めっちゃすごい人やな」って。
藤原:僕も当時は知らなくて、その時はスケートボードが個性的で面白くてフォローしてたんだよね。お互いが一方通行だった(笑)。
上野:それでDMでお礼したんですよ。「ありがとうございます」とか、その時はそれぐらいで終わったんですけど。
藤原:そのあと1回雑誌で対談するって企画があったんだけど、その時もせっかくストリートでやっているからメディアが寄りすぎると失礼かなと思って。彼らは彼らでかっこいいアンダーグラウンドカルチャーをやっているから、距離を置いておいた方がいいかなと。僕はアンダーグラウンドが好きだけど、マジョリティーも絡んでいるからあまり触ったらいけない聖域があるかなと思って触ってなかった。でもフラっとフィレンツェに現れてそこで初めて話をしたら上野君から「全然そんなことないです」みたいに言ってもらえてっていう流れかな。
上野:そのフィレンツェも多分、藤原さんがメディアで僕のことを言ってくれていたりしたのを感度のいい方たちが聞きつけて、俺を「モンクレール」に招待してくれたんだと思うんです。
WWD:僕はてっきり逆だと思っていました。ヒロシさんから「モンクレール」に巻き込んだのかと。
藤原:いや、すごく好きだったんだけど、絡んだら怖そうだなと思ってた(笑)。
上野:「上野君って意外と良い人なんだね」って言われましたからね(笑)。
藤原:でもなんかあるじゃん。ストリートカルチャーってアンダーグラウンドだから、あまり触らない方がかっこいいかなとか。でも会ってみたらすごい話が合った。
WWD:では、お二人が一緒に仕事するのは今回が初めてですか?
藤原:そうだね、ちゃんとやるのは初めて。キューコンができるという話を聞いて、何か一緒にできることがあればやりましょうと。
上野:さっき藤原さんがおっしゃってたみたいに、俺はずっとアンダーグラウンドでやってきて、ほんとにすごく小さなマーケットだったんですけど、ものすごくコアな奴らとやってきた。でもある意味限界が見えてきたというか……、「ここまでやな」というのがあって。もっとスケートボードを発展させたいし、環境整備をしたいんですよね。でもそういうのって自分たちと違う人たちと一緒にクリエイションをやりながら伝えていかないと広がらないので。藤原さんの影響力はそこが一番デカいから相談させてもらったって感じです。
WWD:ヒロシさんと一緒に何かする機会が増えて、実際にアンダーグラウンドの扉が開いたという実感は?
上野:めちゃくちゃありますよ。スケーターはもちろん、ファッション関係や音楽関係の人とかにも自分を知ってもらえたし、仕事も増えました。地元の大阪でも感じるし東京にいるともっとですね。以前、スノーボードに連れて行ってもらったんですけど、新潟のスキー場ですら僕のことを知ってくれてる人がいてビックリしました。
WWD:ヒロシさんは最後にスケートしたのが10年ぐらい前だと言っていましたが、最近のスケートシーンについてはどう思いますか?
藤原:めっちゃすごいし、めっちゃ上手いね。ある意味競技っぽい人達もいて、きれいなんだけど魅力がなくなっている部分もあるし、アンダーグラウンドでかっこいいものもある。「モンクレール」でビデオを作ってもらったんだけど、上野君ともう一人のショー(・ウエスト)君もかっこいい。見た目は怖そうなんだけど(笑)。でも僕にとってのスケーターの魅力ってそういうところもあるから。
WWD:“悪そう”なカッコよさもあると。
藤原:“悪い”だけじゃないんだけど、なんだろう。上野君みたいな滑りじゃないのかな。
WWD:上野さんが過去のインタビューで、オリンピックの競技種目にスケートボードが選ばれたことについて、「そういう人たちとストリートスケーターは違う」と答えていました。ヒロシさんもそう思いますか?
藤原:そういう人たちも多分ストリートでやったらすごく上手いと思うけど、目指しているところは全然違うと思う。
上野:オリンピック選手とストリートスケーターは対照的な存在なんで、やっぱり違いますね。ストリートスケーターって存在自体がイリーガルだから。何がストリートで何がコンペティションなのか、そういう感覚ってストリートスケートしていないと分かんないと思うんです。確かにオリンピックに出るスケーターがストリートで滑ったら俺よりもはるかに上手いけど、何かが違う。それってスケートボーディングに対する考え方なんですよね。例えば、そこからそこまで何回プッシュするとかの美学。スポーツだと1回だろうが3回だろうが成功すれば関係ないんですけど、スケートボードの世界は違う。ストリートスケーターにはそういう細かい美学がめっちゃあるんです。
藤原:僕はそんなのないよ、感覚だから。
上野:藤原さんはそれを感覚で分かってくれるんでうれしいです。
藤原:僕はたまたまスケートボードの世界にいたからね。