エルメス財団は、パリを拠点に制作活動を続けるアーティスト、湊茉莉の日本初となる個展「うつろひ、たゆたひといとなみ」を東京・銀座のメゾンエルメスで行っている。ガラスブロックのファサードペインティング「Utsuwa」は5月6日まで、フォーラムにおけるギャラリー展示は6月23日まで。
本展のために制作された新作を展示している。いずれも、「うつろいゆく世界と人々の営み」を意味するタイトルにふさわしいものだ。中でも注目したいのは、メゾンエルメスのビル壁面のガラスブロックのファサードに、ダイナミックに描いた作品「Utsuwa」。湊自らが作業用のゴンドラに乗り、建物の内と外で変化する時間や光の流れを、蛍光色の元になる蛍石フルオライト(英語名の起源は「流れる」のラテン語に由来)を用いて昼となく夜となく一心に描き上げたもので、作品に込めた思いは計り知れないと湊は語る。数寄屋橋の交差点で信号待ちをしながら空を見上げると、ガラスブロックに受ける艶やかな光と共に、赤やオレンジ、ピンクが鮮やかなその大型インスタレーションに目がいくはずだ。
一方、ギャラリーでの展示においては、古代文明からの時間の流れにゆっくりと寄り添い思いを馳せる。あたかも瞑想をしているかのような作家独自の視点によるクリエーションとの出合いに、観る者の心も浮き立つ。2006年の渡仏以降、湊が命題として掲げている「人はなぜ絵を描き始めたのか」についてのリサーチを重ねているというが、果たしてどのような気づきがあったのだろうか?
「近年、スマホの普及により、人は文字を書く必要性が無くなりつつあります。しかしながら、その昔から人々は筆で絵を描いていたのです。つまり自分の手を用いて表現していたということです。フランスに暮らしているとラスコーの洞窟など、暗闇に描かれた動物の壁画はもとより、中には自分自身や男女の性器などを描いた壁画を目にする機会があります。その都度、『なぜ?』という疑問符が浮かびます。そして立ち止まって考えてみるのです。すると、これら一連の行為というのは、(人類にとって必要不可欠な)種の継続、また伝承、コミュニケーションをすることなのだと。つまり絵を描くということは、そうしたイメージでもあると思うのです」。
エルメスの2019年の年間テーマ「夢を追いかけて」にかけて、湊の夢を聞いた。「描くという行為、ふと考える時間、出会い。カタチ有るモノは全てはかなく、消えていく。だからこそ今を大切にしつつ、描くという行為。つまり『伝えたい』という夢を、追いかけることでもあるのです」。
■「うつろひ、たゆたひといとなみ」湊茉莉展
日程:3月28日~6月23日
場所:銀座メゾンエルメスフォーラム
住所:東京都中央区銀座5-4-1 8階
ウサミヒロコ:ウサミヒロコ:幼少期より関心の高かった「デザイン」(ファッション&シネマ、アート&インテリア、ウエルネス&グルメなど)への情熱を、FMラジオ番組制作からスタートし、雑誌、書籍、新聞、ウェブなどのメディアにて、国内外問わずさまざまなチームプレーで活動を続けるライフスタイルジャーナリスト。取材を通じて訪れる国々で出会う、多国籍の人々との交流を愛する東京オリンピック開催地周辺生まれの東京人