若者を中心に多くの支持を集めるバンド、Yogee New Waves(ヨギー・ニュー・ウェーブス)。2014年9月に1stアルバム「PARAISO(パライソ)」、17年5月に2ndアルバム「WAVES(ウェーブス)」、今年3月20日に3rdアルバム「BLUEHARELEM(ブルーハーレム)」を発表し、“島3部作”が完結。6月8日からは全国ツアーがスタートする。過去には「ヘリーハンセン(HELLY HANSEN)」とコラボするなど、ファッション業界からも注目が集める彼らが「今、音楽で伝えたいこと」とは何か。
WWD:「BLUEHARLEM」は昨年3月にメジャーデビューしてから初めてのアルバムになるが、メジャーからアルバムを出すことで変わったことはある?
角舘健悟(以下、角舘):メジャーだとかインディーズだとかはまったく関係ないですね。インタビューで「メジャー初アルバム」って言われて、そういえばメジャーデビューしていたんだって思い出すくらい(笑)。
WWD:前作「WAVES」のリリースはメンバーチェンジ直後だったが、それから約2年たって今作はどう変わった?
角舘:前作はみんながその時に持っている技術やムードを出し合って作ったが、今作はより深さを追求するというか、一曲一曲の精度を高めていった感じです。バンドとして豊潤な音が出せました。
竹村郁哉(以下、竹村):前作はバンドに加入したばかりでまだ手探りなところもあって、曲を作ってすぐ録音するという初期衝動で作っていましたが、今作はより音の深さが出せました。
上野恒星(以、上野):前作はぎゅっと詰まった感じはあったけど、今作はリラックスした感じもあって、より広がりが生まれたよね。前作は1か2かだったのが、今作は1.5とか細かい部分も調整でいるようになったと思います。あと、ライブをたくさん重ねてお客さんの雰囲気も分かってきたし、「ライブでこういう曲を演奏したい」っていう思いから曲ができています。
粕谷哲司(以下、粕谷):前作からの約2年間で出したい音のイメージが固まってきましたし、どうやったらその音が出せるかも分かってきました。その一つの形が今作では出せたかなと思います。
WWD:今作で“島3部作”が完結するが、3部作というのは1stアルバムを出した時から考えていた?
角舘:まったく考えていなかったです。前作「WAVES」を出して、次はもっといいものができるし、それが完成したら何かが終わりを告げるだろうとは感じていて、今作を作り終えてそれが確信に変わりました。Yogee New Wavesには青春だったりブルースや悲しみといった“青”というキーワードがずっとあったんですが、それに少し別れを告げられたかもという感じはしています。
WWD:今作のタイトル「ブルーハーレム」はどういった思いでつけた?
角舘:日本語だと“青の聖域”という意味で、先ほども言ったように“青”にはいろいろな意味が含まれていて、その全てが許さる場所という思いでつけました。
WWD:“許される場所”というのは不寛容になりつつある社会とも関係している?
角舘:それはないです。社会ではなく、自分に対しての気持ち。僕たちも大人になり、いろいろな気持ちを受け入れられるようになった。その気持ちとアルバムがリンクしている部分はあると思います。
WWD:“島3部作”が完結して、次はどこに向かう?
角舘:それは僕らにもまだ分かっていなくて、楽しみで仕方ないですね。今言えるのは、最近エレクトリックピアノを買って、そのエレピの音がいい音だなっていうのは確か。
上野:そうした日々の積み重ねで次が決まっていく気がしますね。
粕谷:あらかじめ決めて向かうのではなく、作り終わった後にここにいるんだなって実感するんだと思う。作りながら何となくは感じていて、それを言葉にできるのは曲ができてから。そこは結果論でいいかなと。日々、やることをやっていればそれが次につながっていくと思います。
「人と同じではなく、みんな自由に楽しんでいい」
「Good Night Station」のMV
WWD:音楽を通して伝えたいことは?
角舘:細かく言うと1万個くらいあります(笑)。だから逆に、聴いてくれた人に何が伝わったかは聞いてみたいですね。ただ多様性っていうのは伝えたくて、人と同じではなく、みんな自由でいいよという思いはあります。僕らの音楽を聴いて、それぞれが自由に楽しんでくれればそれでいいです。
WWD:以前のインタビューで「聴いてくれた人の背中を押したい」と話していたが、その気持ちは変わらない?
角舘:1stアルバムを出した頃からその気持ちは変わっていません。でも、それ以外にも多くの気持ちを僕らの音楽には込めています。ただ、聴いてくれた人にこういう行動をしてほしいとか、こういった人をターゲットにしたいとかはなくて。僕らはがその時々で感じた“うれしさ”や“悲しさ”といった感情を音楽にしているので、そこから何を感じるかは聴いてくれた人に委ねたいです。
WWD:前作から2年がたち、多くの人に自分たちが受け入れられるようになったという実感はある?
角舘:“受け入れられている”というと語弊がありますね。僕らの音楽って受け入れられるというものではないので。
竹村:僕たちがカッコイイというものに“共感してもらえている”という言い方の方が近いかも。それでもまだまだだと思っていて、その共感が少しずつ広がっていけばいいかなと思っています。
WWD:2年ほど前は“シティポップ”といったカテゴリーでくくられることも多かったが?
角館:そうですね。僕はシティポップが好きなので、うれしいという気持ちでした。ただ、自分たちとしてはロックに近いイメージだったので、一般の人たちが勘違いしないかなっていう心配はありましたけどね。
WWD:自分たちの音楽はロックという感じ?
角館:あえて言うなら、という感じですね。いろいろな音楽を昇華しているので、一つのジャンルで縛りたくはないなっていうのはあります。ヨギーの音楽はヨギーでしかなくて、シンプルに好きなことをやろうというのは昔から変わっていないです。
WWD:台湾、韓国、タイ、中国など海外でライブを行う機会も増えてきているが?
角舘:そうですね。海外の人がすごく興味を持ってくれています。現地の人たちがわざわざ日本語を勉強してくれていたりして、うれしいですね。
上野:海外のお客さんにとっては、僕らの音楽を外国の音楽として聴いてくれている。日本と海外では盛り上がるツボが違うこともあって、それが予想外でもあり、予想通りでもあるのが楽しいです。
竹村:みんな一緒に歌ってくれたりして、日本語にすごく興味を持ってくれています。コールも日本語で返答があって、日本の音楽を吸収しようという気持ちはすばらしいなと感じますね。
WWD:海外でライブをする時は日本代表という思いでやっている?
角舘:もちろん。僕らがおちゃらけた演奏をしたら日本のバンドはダサいってなって思われてしまう。それだけはあってはならない。今後も海外でのライブは積極的にやっていきたいですね。アジアの人はテンションが合うなと感じるのでやりやすいですが、アメリカやヨーロッパだとどんな感じになるのか、それもまた楽しみ。
誰でも手に入れられるものをどれだけカッコよく見せられるかが重要
WWD:ファッションブランドとのコラボも行っているが、それぞれファッションのこだわりは?
角舘:今日のみんなの服装を見ると、やっぱり「チェック柄のシャツに『コンバース(CONVERSE)』」だってことですね(笑)。昨日マネジャーから「今日の取材は撮影があるから」って言われて、それで来てみたらみんなチェック柄のシャツに「コンバース」っていう(笑)。それがおしゃれだと思っているみたいな。
上野:今日の服は古着で、福生で980円くらいで買ったもの。高いものを着てカッコよく見せるのは誰でもできると思う。高価なものでなく、“誰でも手に入れられるものをどれだけカッコよく見せられるか”っていうのが大事。僕らが好きだったミュージシャンもそうやってファッションを楽しんでいました。
角舘:ベルリンの人たちって誰かにもらったものに価値を見出すらしくて、僕もストーリーがある服がいいなと思いますね。おじいちゃんからもらった服とかすごく価値があると思う。だからなのか、メンバーみんな古着が好きですね。
竹村:古着ってまったく同じものが見つからないからいい。自分だけのものを見つけられる。
上野:人と一緒じゃないものを着たいっていうのもあるしね。どれだけ高いものを着るとか、レアなものを着るとかではない。どれだけ自分らしくいるかっていうのが大事。
角舘:アイデンティティーだよね。
WWD:ツアーグッズはだれが考えている?
角舘:上野くんが考えています。
上野:今回はこういうのがやりたいとか、柄はどうしようかみたいなのはみんなで考えてます。そこからこういう人にデザインはお願いしたいとかを決めたり、デザインのラフスケッチとかも描いたりしています。みんなそれぞれの意見があって一つにまとめるのは難しいんですが、その中で納得がいくものを作るようにしています。物販のグッズは実際に僕が直接業者の人と打ち合わせして、原価計算をして、発注数決めてとかしています。曲作りとは違うけど、おもしろいですね。
角舘:面倒なことも楽しんだ者勝ちだよね。そうしたことも全てが作品につながっていくんだと思います。
WWD:6月から全国ツアーも始まるが、意気込みは?
角舘:前回のツアー以上のものができるという自信しかないし、来てくれた人は絶対に楽しませてあげられる。僕らも楽しみで、成長している姿を定期的にファンに見せられるっていうのは本当にうれしい。
上野:“ぼっち参戦”(1人でライブに参加すること)って言葉がありますが、そもそもライブは戦じゃないし(笑)。1人でも全然ウエルカム。僕らは音楽で多様性を伝えているので、好きなように観て、自由に自分を解放して楽しんでもらいたいです。
角舘:1人で来てくれてもいいし、もちろん友だちや恋人と来てくれてもいい。年齢も何歳でもいいよね。
竹村:僕は地方出身だから、自分が育った街にバンドが来るって最高なことでした。今回、地方で初めて訪れる街もあるので、そこに1人で来ても、同じ音楽を好きな人が集まっているし、1人じゃないって感じられるはず。最高の夜になると思うので楽しみにしていてください。
粕谷:行ったことない街にいくので、僕らも楽しみです。絶対に楽しませます。