アディダス(ADIDAS)は17日、100%リサイクル可能なランニングシューズ“フューチャークラフト.ループ(FUTURECRAFT.LOOP)”を米・ニューヨークで発表した。同シューズに使用する素材はひとつだけ。すべてのパーツをプラスチック廃棄物由来の単一素材とすることで、廃棄することなく原材料を再利用し、新しいシューズを作ることを可能にした。構想から10年。同社が打ち出したこの循環型生産プロセスは、軌道に乗れば製造業と消費の在り方を根本から変えるほどのインパクトがある。
ブルックリンで開かれた発表会に登壇したエリック・リッキー(Eric Liedtke)=エグゼクティブ ブランド メンバーはまず、海洋プラスチック汚染問題に触れ「われわれは今行動を起こさないといけない。これは、スポーツ用品を通じて世界を変えられる、大きなチャレンジだ」と強い口調で語った。「古くなったシューズは通常ゴミとして捨てられるが、モノ自体は消えるわけではない。埋め立て地や焼却炉へ辿り着き、最終的にはCO2として温暖化を進めるか、プラスチックのゴミとして海を汚染する。つまり次のステップは“ゴミ”と言う概念自体をなくすこと。われわれの夢は、同じシューズを繰り返して履き続ける事だ」とプロジェクトの背景を説明する。
開発を担当したのは、同社の最先端技術を扱うチームであり、デジタルを用いた生産工場でもあるスピードファクトリーだ。軽量な白いソール“ブースト”なども生み出したドイツに拠点を置く部門である。これまでベールに包まれていたスマートファクトリーだが、発表会には責任者が大勢出席し、開発の背景を大いに語った。
“フューチャークラフト.ループ”に使用した素材は“ブースト”の原料と同じで、100%再利用可能な熱可塑性ポリウレタン(TPU)。そのTPUを糸に紡ぎ、編み、成型し、そしてソールの“ブースト”に熱で貼り付ける。従来のシューズは複数素材を使用し50~70のパーツで構成され、アッパーとソールの間に接着剤を使用する。これらの理由から、リサイクルは困難だったが“フューチャークラフト.ループ”は、アジア、ヨーロッパ、北米のパートナーと約10年かけて研究し、TPUだけでの生産を可能にした。
目指したのはリサイクル後もアスリートのパフォーマンスを引き出すクオリティーだ。「糸が切れやすかったりストレッチが足りなかったりと、技術的なハードルで何度も挫折しそうになったが成し遂げられた」と、テクノロジー イノベーション マネージャーであるターニャラツワ・サハンガ(Tanyaradzwa Sahanga)は振り返る。
リサイクルのプロセスはこうだ。消費者から同社にシューズが返却されると、洗浄・粉砕され、新しいシューズ用の素材として溶かされる。ゴミは発生せず、生まれ変わったシューズも、同社のスポーツパフォーマンス基準をクリアするという。
発表会には同社が“リーディング クリエイター”と呼ぶ、200人のランナーやジャーナリスト、インフルエンサーを招き、製品を配布した。日本からはスノーボーダーの國母和宏や水曜日のカンパネラのコムアイなどが参加。彼らが使用したシューズを後日回収し、データを集めて製品をアップデートし、2021年春夏から販売する予定。消費者から回収方法などはニューヨークの店舗などで検証中だ。
アディダスは15年に、パーレイ・フォー・ジ・オーシャンズ(PARLEY OCEAN PLASTIC OCEANS、以下パーレイ)と協業し、海洋プラスチック廃棄物や違法な深海刺し網から回収された糸とフィラメントで作ったアッパーを持つ世界初のランニングシューズを発表している。さらに19年末までに、浜辺、離島や沿岸地域でプラスチック廃棄物を回収し、素材を使用した製品を1100万足製造する予定だ。また、24年までに全ての製品に100%リサイクルされたポリエステルを採用することを公約しており、海洋プラスチック廃棄物からリサイクルして作られるパーレイ素材を用いて製品を製造することは、アディダスのサステナビリティー戦略の柱となっている。