ファッション専門学校のモード学園などを運営する日本教育財団が国際ファッション専門職大学を開学し、第1期生204人が入学した。文部科学省が55年ぶりに設けた新制度による高等教育機関である、日本で唯一のファッションとビジネスの専門職大学が目指す新時代のファッション教育とは何か。外交官としても実績を残してきた元文化庁長官の近藤誠一学長に聞いた。
WWD:国際ファッション専門職大学の初代学長を引き受けた理由は?
近藤誠一学長(以下、近藤):40年以上の外交官生活の間に感じたことは、資源に乏しい日本は人材で世界と勝負する国だといわれながら、十分に実現できていないということです。一人一人がフルに能力を発揮できる教育や社会のシステムを構築する必要があると実感したことが理由です。私が約20年の海外生活で培った人脈や、外国文化、美意識、ライフスタイルの違いや変化を教育に役立てることができると思います。
WWD:学習カリキュラムで重点を置いたポイントは?
近藤:国際社会における日本人の最大の競争力は、昔から継承されている文化や美意識をベースとした伝統工芸や匠の技だと思います。しかし、それらは現在の社会や経済にあまり生かし切れていません。私は代表理事を務める団体「匠-日本の技」を通して、日本人らしいこだわりを持つ伝統工芸の活性化に取り組んでおり、日本人のモノ作りに対する意気を取り戻したいと考えています。それは今のファッション界が持つ問題点にもつながることです。日本の匠には海外でも関心が高く、敬意を持たれています。パリやニューヨークでの美に対するアプローチとは違う、日本人ならではの美意識や精神性を大切にしながら、それを武器として世界で活躍できるファッション界のリーダーを育てることが当大学の一番の目標です。これを象徴する学習カリキュラムの1つが、日本はもとよりアメリカ、イタリア、フランス、中国、タイ、オーストラリア、台湾など世界の100社以上の企業と提携して、4年間で600時間の企業内実習、インターンシップを必修としていることです。学生自身のキャリアプランに合わせて国や企業を選ぶことができ、奨学金などさまざまなサポートをしていきます。この実践型グローバル教育は、従来のファッション専門学校にはないレベルのカリキュラムです。
WWD:海外、特に欧州でのキャリアを持つ外交官として、日本と海外の教育観の違いをどう見る?
近藤:学校でも家庭でも各個人がそれぞれ持っている長所を引き出して、それを最大限に伸ばしていく教育が欧米流です。日本は、みんな均質でマニュアル的になる傾向があります。グローバル化、価値観の多様化、ライフスタイルの変化の中で、そのような教育では時代に合った人材育成はできません。一人一人の能力を尊重し、生産性を上げていくことが必要です。
WWD:国際ファッション専門職大学からどんな人材が生まれることを望む?
近藤:一言でいえば、前言の通り、ファッション業界のニーズである知識と技能を習得した、国際社会で活躍するクリエイティブでイノベーティブな人材です。“グローバル化”はすでに特別なことではありません。中長期的には学生も教員も多国籍化し、世界の中に自分を置くことが日常的に感じることができるキャンパスにしたいと思います。そしてファッションだけでなく、幸せな社会やライフスタイルを広くデザインできる人材育成が理想です。