健康志向が強まる中で、花粉症などの鼻炎性アレルギーや女性のPMS(月経前症候群)など現代人ならではの悩みを抱える人が増加している。その悩みを体質のせいにして諦めてしまってはいないだろうか。日本人で2人目となるACE認証ヘルスコーチ&パーソナルトレーナーの井戸本結実さんは、重いアレルギーやPMSを改善したひとり。経験した悩みをもとに多くの人を健康に導くために活動しているという。その活動内容と健康の秘訣とはーー
WWDジャパン(以下、WWD):健康やフィットネスに興味を持ったきっかけは?
井戸本結実(以下、井戸本):大学卒業後にPR会社に就職したのですが、終電まで会社に残るほど仕事がいそがしく、とにかく激務をこなしていました。そうしているうちに徐々に食生活が乱れていき、3食コンビニ、大好きなシュークリームは毎日1~2個、コーヒーは1日3杯も。当時まだ24歳で若いし痩せているから大丈夫だと思っていたのですが、半年ほどたった頃に不調で朝起きられなくなってしまったんです。重い体を引きずって出勤していました。25歳で結婚し、夫の都合でアメリカのワシントンD.C.に移りましたが、その後もなかなか体調は改善せず鼻炎性アレルギーも悪化する一方でした。まだ25歳なのになぜこんなにも不調なのか、何かを変えなければと奮起し行動し始めたのがきっかけです。
WWD:具体的に何をしたのか?
井戸本:アメリカで流れている健康系ラジオを聴いたり、書籍や文献を読み始めました。調べていくうちに、どうやら私はカフェインと砂糖を摂取しすぎているのだということが分かり、試しに生理前の1週間だけそれらを摂るのをやめてみたんです。そうしたら、すごく体が軽くて気分も爽快で。その後も生理前の2週間、カフェインと砂糖、小麦粉を抜く生活を続けてみたのですが、体調がみるみる良くなっていきました。最終的には自然に手が伸びなくなっていましたね。その後いろいろなことを試した中で徐々に自分自身が変わっていくのを実感しました。朝なかなか起きられなかったのが、今では起きてすぐに筋トレができちゃうくらい元気です(笑)。
WWD:ACE認証ヘルスコーチ&パーソナルトレーナーとして健康情報を発信するに至った経緯と現在の主な活動は?
井戸本:私の経験を友人たちに話すとみんな興味を持ってくれ、自分の知識が人助けになるのではと思い立ちました。情報を発信するのなら専門的な知識と何か資格を持っていた方が良いと考え、2017年にアメリカのACE認定(日本ではNSCAが一般的)を取得し、ヘルスコーチ&パーソナルトレーナーとしての活動をスタートしました。ヘルスコーチとは、1つの分野に限らずライフスタイル全般の知識を持ち指導を行う人です。海外文献の科学的根拠に基づいた健康情報を発信するメディアの運営や、メルカリやスナックミーなど企業に出向いての健康指導、LALA TVのイベントに出演するなどの活動をしています。またアメリカ在住中に筋トレを始め、その様子をSNSにアップしていたのですが、習慣化するために現在も筋トレ動画を投稿しています。
WWD:自身の経験を踏まえ、メディアでも提唱している“カフェイン断ち”の勧めとは?
井戸本:カフェイン自体が悪いわけではないのですが、摂る時間帯や量を間違えるとホルモンが乱れてしまう傾向にあります。少し専門的な話になりますが、人間は朝と夜でホルモンが異なります。この朝と夜のホルモンバランスが健康的な体づくりにはとても大事なのですが、コーヒーのカフェインには、朝に優勢なコルチゾールという成分を分泌させる作用があります。コルチゾールは主に目を覚ましてくれる作用があるのですが、一方でストレスを感じた時に出るホルモンでもあります。
PR会社に勤めていた当時の私は、コーヒーの飲み過ぎと仕事のストレスが重なって常にコルチゾールが出ている状態だったということです。これがアレルギーやPMSなどいろいろなことにつながっていると言われていて、コーヒーを絶ったことで不調が改善したのだと思います。
WWD:コルチゾールはホルモンバランスにのみ影響する?
井戸本:人間の体は複雑にできています。ホルモンバランスに加えて血糖値にもコルチゾールが関係してきます。血糖値はチョコレートなど砂糖が多いものを摂取すると上昇し、インスリンという成分がそれを抑えようと働きます。ここで低血糖の状態になるのですが、食後に眠くなるのがこの状態です。血糖値を安定させようと体は数値の上昇下降を繰り返すのですが、数値を上げようと働くときにまたコルチゾールが出てくるのです。コルチゾールはストレス作用と関係しているためイライラするなどの精神的症状が伴うこともあるようです。血糖値の安定には砂糖の取り方に気をつけることをお勧めします。私の体調不良が改善したのは、カフェインや糖質を控え、このようにホルモンをうまくコントロールしたことが鍵だったように思います。個人差もあるので一概には言えませんが、私は1日ティッシュ1箱使うほど重かった鼻炎の症状が大幅に改善しました。
WWD:男女で違いはある?
井戸本:女性と違い男性は黄体ホルモンを作らないなどの違いはありますが、主な原理は一緒です。
WWD:いそがしく働きながらも体調を改善したいと悩む人は、まず何から始めればよい?
井戸本:まずは食事を少し工夫してみてはどうでしょうか?分かりやすいものを断つことから始めて少しずつ習慣化していくのがポイントです。チョコレートが好きならばカカオ成分85%以上のものを、まんじゅうが好きならば干し芋など栄養価が少しでもあるものにアップグレードしていけばよいのではと思います。あとはコーヒーを飲むなら時間を決めてしまうこと。研究では起床後90分以内と寝る6時間前以降は飲まないのがベストだと言われています。朝起きた後、体は自然に活動態勢に入るのですが、そこにカフェインを摂ると無理に力が働き、体の本来の力が阻害されて負担がかかってしまうのです。何を断つべきか分からない時には、50~100年前の人の生活と現代人の生活を比べてみてください。必要ないものが何なのかすぐに分かると思います。
WWD:自身が食事で気をつけていることは?
井戸本:無理はしません。たまにはスイーツビュッフェに行きたくなるときもありますよね?そんなときは我慢するのではなく、食事の順番に気をつけるなど少しの工夫を心掛けています。ケーキやクッキーなどは空腹時に食べると血糖値が急激に上がってしまうので、サラダなど食物繊維を摂取してから食べます。あとは朝ご飯ですね。昼と同じものを食べても朝の方が基本の血糖値が高くて上がりやすいんです。朝に菓子パンなどを食べると、すぐにお腹が空いてしまったり眠くなってしまったりすることがあるんですね。朝ご飯になるべく炭水化物を食べないようにして卵やたんぱく質、食物繊維を摂取することでこれらの症状や血糖値の上昇を抑えることができます。私はキャベツを切って味噌をつけて食べるなど、手軽にできるもので無理なく行なっています。かといって炭水化物を完全に断ってしまうのは健康に悪く、ただそれがケーキや菓子パンである必要はないということなんですね。炭水化物はサツマイモやご飯でもいいし、サラダなど食物繊維と一緒に摂れば血糖値の急上昇を和らげることができます。
WWD:今後の活動計画は?
井戸本:運営しているメディアなどを通して、今後も食生活や運動、睡眠、マインドコントロールについての情報を発信していく予定です。若い頃はまさか食事でこんなに変わるなんて思っていなかった。知識がなくて問題に気づいてさえいない人にも、健康について知ってもらえるよう情報を伝えていけたらと思います。また昨年に娘を出産して、その経験から産後のパーソナルトレーナーとしての活動も始めました。幼い子どもがいてジムに行く余裕もないという人に向けて、赤ちゃんと一緒にできるトレーニングなどを考案しています。ほかにもビジネスライフ社が運営する疲労回復ジム「ゼロジム(ZERO GYM)」のオンラインサービスの開発に、アドバイザーとして携わっています。個人の活動だけでは範囲が限られるので、今後は企業の事業にも携わりつつより多くの人を健康に導いていければと思います。