突然ですが、みなさん喪服持ってますか?大人なら、マナーとして少なくとも1着は持っていると思います。私ももちろん持っています。百貨店で買ったフォーマル専業ブランドのもので、ワンピースとジャケットのアンサンブル。深い黒で肌の露出は極力少なく、どんなお葬式に出ても失礼になりません。非常に重宝しています。
ただし、ファッションの世界で働いていると、「ああ、違うタイプの喪服を持っておくべきだった…」と後悔する時があります。それは、ファッション業界でお世話になった方のお通夜や告別式に参列する時。もちろん、前述したようなフォーマルブランドの喪服で参列してもマナー的には全く問題ありません。ですが、「おしゃれなあの人を見送る際には、もっとふさわしい装いがあったんじゃないか」と感じるんです。
数年前、ファッションジャーナリストの大先輩が亡くなりました。「ランバン(LANVIN)」のスーツをサラリと着こなす粋な人だったんですが、私はアンサンブルタイプの喪服しか持っておらず、それで参列しました。一方で、喪主を務められた奥さまが着ていらしたのは「ヴァレンティノ(VALENTINO)」の黒いケープ。亡くなられた大先輩の右腕だったロンドン在住のジャーナリストさんは、「プラダ(PRADA)」のウエストコンシャスなジャケットスタイルでした。2人とも猛烈にエレガント。喪服は女を美しく見せるという不謹慎な言説は本当だ。悲しくてぼうっとした頭でそんな風に思ったことを覚えています。そして「ああ、あれだけファッションが好きだった人を送るなら、私ももっとしゃれ込んで来るのが礼儀だった」と猛烈に反省しました。
とはいえ、なかなかおしゃれな喪服ってないんですよね。単にデザイン面だけを追求すると、セレモニーの場にふさわしい“品”が足りない。ただし、近年は嗜好の多様化を受けて、かゆいところに手が届く喪服が少しずつではあるものの出てきてはいます。先日もまさに展示会でそんな商品に出合いました。「ミカコ ナカムラ(MIKAKO NAKAMURA)」が2019-20年秋冬に立ち上げる、ブラックフォーマルの商品群“シェードライン”がそれです。
地厚なシルクのノースリーブドレスにリバーレースのケープの組み合わせ、シルクシフォンのドレスなど、どれも非常にエレガント。「肌の露出を抑える」といった、一般的な日本のお葬式マナーからいったら明らかにNGですが、私も経験したようにこういったドレスこそが求められるお葬式も時にはあります。
「ミカコ ナカムラ」ではこれまでもブラックフォーマルを企画していて、好反応だったためにラインを別にしてより分かりやすく伝えていくことにしたそうです。「喪服は前もって用意しておこうという意識を喚起しないとなかなか買ってもらえない。今の日本ではこういったタイプの喪服はなかなか受け入れられないかもしれないが、おしゃれな服装で亡くなられた方に敬意を表すという考え方を広めていきたい」と広報担当者は語っていました。
同ブランドはオーダーなので、仕立てに3カ月ほどかかります。価格はシフォンドレスで18万円ほど。金額、オーダー制という仕組み共に心理的ハードルが高いですが、ファッションコンシャスな大人にとっては買えないものではないのでは。ブラックドレスはお葬式以外にも、各種セレモニーでも重宝します。
蛇足ですが、「ミカコ ナカムラ」の広報は、「ヨーロッパだと、喪服に対する考え方が日本と全く違って、参列者はよりおしゃれな装いですよね」とも話されていました。私がヨーロッパの喪服と聞いて思い出すのは、映画「007 スペクター」でのイタリア人女優モニカ・ベルッチ(Monica Belluci)の装いと、「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」。「ミカコ ナカムラ」同様、日本の一般的な葬儀にはなかなかそぐわないのかもしれませんが、美しく装うことが故人を弔うことになる場合がある、という点で参考になります。