セシル・バンセン:1984年2月15日生まれ、デンマーク・コペンハーゲン出身。コペンハーゲンの大学でファッションを学んだ後、「ジョン・ガリアーノ」でインターンを経て、アシスタント・プリントデザイナーを務める。その後、ロンドンの王立美術大学(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)でウィメンズウエアMAを修了。「アーデム」のデザインチームで3年間経験を積み、2015年に「セシル バンセン」を立ち上げる。17年度のLVMHプライズのファイナリストに選ばれる。日本ではドーバー ストリート マーケット ギンザ、伊勢丹新宿本店、ユナイテッドアローズ、トゥモローランド、ビームス、ビオトープなどで取り扱いがある PHOTO : KAZUSHI TOYOTA
ふわっとしたエアリーなドレス、花柄のキルティングスカートやお菓子のようなビーズ刺しゅうを施したトップスなど、大人に向けたガーリーな世界観を提案するのがデンマーク・コペンハーゲン発の「セシル バンセン(CECILIE BAHNSEN)」だ。甘くドリーミーな世界観を持ちながらも、大胆に背中を開いたデザインや透け感のある素材を用いた、抜け感のあるスタイルが大人の心をつかんでいる。
ドーバー ストリート マーケット ギンザの限定アイテムとして販売したクッションカバーやピローケース PHOTO : KAZUSHI TOYOTA
ドーバー ストリート マーケット ギンザ限定で取り扱ったカーテン。ウエアと同素材を使用している PHOTO : KAZUSHI TOYOTA
スタートから3年半と若いブランドだが、世界に86アカウントの卸先を持ち、日本国内ではドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA以下、DSMG)、伊勢丹新宿本店、ユナイテッドアローズ、トゥモローランド、ビームスなどの有力店で販売。ロンドンの「シモーネ ロシャ(SIMONE ROCHA)」や「モリー ゴダード(MOLLY GODDARD)」などの大人ガーリー層に並び、日本でもじわじわとファンを増やしている。2017年にはLVMHプライズのファイナリストに選ばれたほか、ショーを発表しているコペンハーゲン・ファッション・ウイーク(以下、CFW)では目玉ブランドの一つで、「セシル バンセン」目当てにウィークを訪れるバイヤーやジャーナリストも多いという。
4月上旬、デザイナーのセシル・バンセンがDSMGのイベント「OPEN HOUSE」に合わせて来日した。イベントでは特別にコレクションの生地を使ったクッションカバーやミニカーテンを販売したなか、店頭に立って顧客と触れ合う時間を過ごした。
WWD:どのようにブランドをスタートさせた?
セシル・バンセン(以下、バンセン):ずっと自分のブランドを持つことを夢見ていたんだけれど、まずは経験を積むことが大切だと思って、コペンハーゲンでファッションを学んだ後、パリの「ジョン・ガリアーノ(JOHN GALLIANO)」でプリントとテキスタイルを担当した。その後、ロンドンでウィメンズウエアの勉強をして、ロンドンの「アーデム(ERDEM)」ではデザインチームで経験を積んだの。そうしてデンマークに帰ってブランドを立ち上げて、軌道に乗ったところ。コペンハーゲンはカジュアルな服を着る人が多いけれど、あえてフェミニンとクチュール的な要素を合わせたユニークな服を作りたいと思ったの。
ビーズ刺しゅうを施したウエア PHOTO : KAZUSHI TOYOTA
「スイコック」とのコラボレーションサンダル PHOTO : KAZUSHI TOYOTA
「スイコック」とのコラボレーションサンダル PHOTO : KAZUSHI TOYOTA
「スイコック」とのコラボレーションサンダル PHOTO : KAZUSHI TOYOTA
WWD:現在、販売中の19年春夏について教えてほしい。
セシル:子どもの頃の思い出や友情が着想源になっているの。幼い頃に友人に “友だちの印”としてプレゼントするビーズで手作りした“フレンドシップ・ブレスレット”(友情のブレスレッド)をイメージして、ビーズ刺しゅうを随所に施したのがポイント。イノセントな白を使いエアリーな印象に遊び心を加えたわ。
WWD:「スイコック(SUICOKE)」とのコラボレーションサンダルも発表した。スポーティーなサンダルにビーズ刺しゅうを施した理由は?
セシル:フェミニンな中に気軽な雰囲気も必要だと思ったから。ブランドとして靴を出すことも初めてだったし、他のブランドとのコラボレーションも初めてで、いいスタートを切れたと思う。「スイコック」のサンダルはビブラムソールを使った本格的なスポーツサンダルで、とても丈夫で気に入っているの。前にボーイフレンドとハイキングに出かけたときに早速このサンダルを履いていったの。彼には「その靴で大丈夫?」と聞かれたけど(笑)、山道もスイスイ歩くことができたわ。
毎シーズン登場するフィルクッペのテキスタイル PHOTO : KAZUSHI TOYOTA
ハリのある強撚のコットンを用いた軽やかなドレスなど PHOTO : KAZUSHI TOYOTA
WWD:エアリーなドレスは、ハリのあるコットンでふんわりとしたシルエットを出すなど、生地に触れると驚きがある。素材へのこだわりは?
セシル:100%コットンなんだけど、とても軽いでしょう?コットンでこういう形を作れることに誰もが驚くわ。私の大好きなフィルクッペ(カットジャカードの一種)は必ず毎シーズン使っているの。カットした部分が透明になってとてもきれいで気に入っているわ。
WWD:生産はどこで行っている?
セシル:生地はイタリアやスイスで、サンプルはデンマーク、商品はヨーロッパで作っている。生産工場とはとても緊密に連携していて、私も訪問して一緒に作業をしている。キルティングは全て手縫いで、ビーズも一つ一つ手で刺しゅうしていて、作るには愛情がいるから、素材やその生産国もとても慎重に選んでいるわ。最近パッチワークのドレスを作るプロジェクトをスタートして、今までだったら捨ててしまっていたような切れ端を活用しながら、一つだけのパーソナルな商品を生み出せることが気に入っているところ。今、サステイナビリティーについて考えることが重要だけれど、私の場合は生産の過程で自然にそうなっていると思う。
「セシル バンセン」2019年春夏コペンハーゲン・コレクションのバックステージ
「セシル バンセン」2019年春夏コペンハーゲン・コレクションのバックステージ
「セシル バンセン」2019年春夏コペンハーゲン・コレクションのバックステージ
「セシル バンセン」2019年春夏コペンハーゲン・コレクションのバックステージ
「セシル バンセン」2019年春夏コペンハーゲン・コレクションのバックステージ
「セシル バンセン」2019年春夏コペンハーゲン・コレクションのバックステージ
WWD:卸先も増えて急成長しているが、現在ブランドのチームの人数は?
セシル: 1年前は3人だったけれど、現在は7人にまで増えてとてもうれしく思っているわ。営業や物流、生産チームができて、ここ半年でメンバーが強固になってきたの。これまでは私がデザインと生産の両方を見てきたけれど、今はデザインに集中できるようになったわ。
WWD:今後はオリジナルのシューズやバッグなどのアクセサリーも展開していく予定はあるか?
セシル:その必要性があると感じているわ。「セシル バンセン」でワードローブが完成するようにしていきたい。今はドレスがメインだけれど、今後はジャケットやアウターなどのアイテムを増やして、シューズやバッグも見せられるようにしていきたい。
WWD:白くてピュアな春夏コレクションから一転、最新の19-20年秋冬は黒が基調でダークなイメージに転換したのはなぜ?
セシル:春夏がとてもイノセントな雰囲気だから、よりダークで成熟したものにしたかったし、皆の予想を裏切るものを出したいと思ったの。コレクションで描いている女性が自分を見つけて大人になっていくというようなストーリーがあって、映画監督のデヴィッド・リンチ(David Lynch)の映画作品に出てくるような、森の中で迷子になっているような雰囲気を出したかった。あとは、デンマークの冬はとても暗くて寒いから、デザインしているときに私がそういう気分だったのかもしれない。
「セシル バンセン」2019-20年秋冬コペンハーゲン・コレクションのバックステージ
「セシル バンセン」2019-20年秋冬コペンハーゲン・コレクションのバックステージ
「セシル バンセン」2019-20年秋冬コペンハーゲン・コレクションのバックステージ
「セシル バンセン」2019-20年秋冬コペンハーゲン・コレクションのバックステージ
WWD:現在の販売先は?
セシル:卸では世界の86アカウントで販売しているわ。デンマーク、イギリス、アメリカ、日本、韓国、中国などでよく売れていて、日本はアメリカに次ぐ2番目に大きなマーケットになっている。最近、オンラインストアもオープンさせたの。将来的には、コペンハーゲンに小さなお店を開きたいと思っている。例えばドレスは6着だけ展示しているような、世界観を伝えるためのお店で、新たなストーリーを伝えるために展示内容をこまめに変えて見せていきたい。でも、いつになるか分からないから、今はまだ夢の段階の話よ(笑)。
WWD:現在はCFWで発表を続けているが、他の都市でショーを開くことも考えている?
セシル:今のところ、コペンハーゲンでうまくいっているから継続したいと思っているわ。私のコレクションを見るためにわざわざCFWに来てくれる方が多く、その注目度や関心の高さに今でも少し驚いているわ。次の春夏シーズンは8月の開催で、9月上旬に行われるニューヨーク・ファッション・ウイークよりも早い時期にやっているのにと思うと、なおさらね。インスタグラムで掲載した写真の反響もいつも大きくて、皆新作を待ち望んでいると感じる。だからいち早くコレクションを披露できるコペンハーゲンがあっているんだと思う。また、展示会はパリコレ中にも行っていて、バイヤーたちがコレクション画像をチェックした上で内容を把握して見に来てくれるのもメリットね。
「セシル バンセン」2019年春夏キャンペーンビジュアル
「セシル バンセン」2019年春夏キャンペーンビジュアル
「セシル バンセン」2019年春夏キャンペーンビジュアル
「セシル バンセン」2019年春夏キャンペーンビジュアル
「セシル バンセン」2019年春夏キャンペーンビジュアル
「セシル バンセン」2019年春夏キャンペーンビジュアル
「セシル バンセン」2019年春夏キャンペーンビジュアル
「セシル バンセン」2019年春夏キャンペーンビジュアル
「セシル バンセン」2019年春夏キャンペーンビジュアル
「セシル バンセン」2019年春夏キャンペーンビジュアル
WWD:コペンハーゲンにはデザイナーを支援するシステムがあるのか?
セシル:私はデンマーク・アーツ・カウンシルからアート部門の資金援助を3回受けられたから、とても助かったわ。年2回応募することができて、奨学金もしくは特定のプロジェクトへの資金援助が受けられる仕組みなの。例えば、ランウエイショーを行いたい時に出願できる。本来は、ファッションというよりアート寄りの財団なんだけどね。コペンハーゲンは、パリやロンドンなどと比べてまだファッション都市としては新しいから、若いデザイナーが参加しやすく、費用が比較的安くすむのでショーを開きやすい都市だと思うわ。あとは、アパレル企業や別の投資ファンドから投資を受けようと思えばそれも可能だと思うけれど、私の場合はブランドを立ち上げて3年半だからまだ早いかもしれない。今はブランドの方向性やDNAをしっかりと確立することにフォーカスしているの。将来的にはそういうこともあるかもしれないけれどね。
WWD:デザインスクールで教師を務めた経験もあると聞いたが、どのようなことを教えていた?
セシル:ブランドを立ち上げた頃は、デンマークのデザインスクールでファッションイラストレーションを教えていたわ。私自身も生徒から学ぶことが多くてとても楽しかったわ。
ファッションの生産や営業は 学校では教えてもらえない
WWD:教師の経験や、実際にブランドを立ち上げてみて、デザイナーの道を志す人へアドバイスはあるか?
セシル:2つあるわ。まず、自分のアイデアを信じて、他人が言うことにあまり惑わされないようにすること。2つ目は先輩ブランドで経験を積んで知識を身につけること。学校ではファッションの生産や営業については教えてもらえないので、私は別のブランドで仕事をして学んだことがたくさんあった。ブランドを運営するのは本当に大変だし努力を要することだから、デザインなどのクリエイティブな能力以外にも必要なことを事前に知るのは大切ね。
セシル・バンセン PHOTO : KAZUSHI TOYOTA
WWD:憧れのデザイナーを挙げるとしたら?
セシル:クリストバル・バレンシアガ(Cristobal Balenciaga)と川久保玲ね。特に1950年代の「バレンシアガ」が大好きで、構築的で透明感のあるドレス、独特なプリントがその時代に特有なものなんだけど、現代でも色あせない美しさがある。2人のクリエイションには時代を超える魅力があると思う。
WWD:日本のファッションについてどう思う?デンマークとの違いは?
セシル:日本は殻を破った画期的なアイデアを持つデザイナーがたくさんいて、私にとって最もインスパイアされる国の一つ。道を歩いているだけでも、スタイリングや服の着方がユニークな人を多く見かけて、皆と同じ格好をしたがるデンマークの人々よりもファッションに冒険心があると思うわ。デンマークのファッションシーンは規模がとても小さいし、そもそもブランドの数も少なくて、スタイリングのパターンも1~2種類しかないのよ。日本には選択肢がたくさんあって、いろんな影響を受けられるんだと思う。それに日本人からはいつもファッションへの愛情を感じるの。どんな服を作り、どんな服を買い、それをどう着こなすかということにみんな関心やこだわりがあって、誰かが着ている服を見てどのブランドか分かっても、その人らしく着こなしていていいなって思うわ。
WWD:3度目の来日と聞いたが、今回はどこを訪れた?
セシル:春に来日するのは初めてで、桜を見ることができてとてもうれしかったわ。先日、ずっと行ってみたかった直島と京都に行くこともできたの。直島では3日間あったからアートを見て堪能する時間がたっぷりあったし、静かで美しいところだったわ。京都は豊かな歴史や信じられないぐらい美しい建物があって壮大な街だった。あと、京都で食べた豆腐とスープが本当においしくて、作れるようになりたい。