メンズファッションの楽しみの一つに、アマノジャクがあると思う。例えばジーンズ。スキニーが流行ればワイドを選んでみたくなり、“真っ紺”が人気と言われればアイスブルーをチョイスしたくなる。大きな流れに身を任せるのもよいが、“逆張り”するのも一興というわけだ。
さて眼鏡の話である。僕は遺伝的に近視(と少しの乱視)で小学3年生から眼鏡を掛けていた。高校で色気づきコンタクトレンズデビューしたが、補完的に眼鏡も欠かせず、30歳でレーシック手術を受けるまで20年間、眼鏡は親兄弟以上の相棒だった。
だから眼鏡フリーになったときの開放感はハンパなく、そのころはちょうどフリーランスで海外リゾートを取材することが多かったので、砂(ビーチ)や水(海やプール)を恐れなくていいというのが、とにかくうれしかった。少し補足すると、乱視がある場合のコンタクトレンズはハードタイプの一択で砂や水は天敵!コンタクトと眼球の間に砂粒が入ったときの痛みたるや……だし、水に入ればコンタクトが流れ落ちてしまう危険性があるのだ。コンタクトケア用品や予備の眼鏡が要らない、ほんの少しの荷物のコンパクト化も、心情的にはスーツケースを持っていかないくらいの違いがあった。
20年越しで眼鏡のない生活が始まったわけだが、皮肉にもレーシック手術の影響で光がこれまで以上にまぶしく感じられ、サングラスが欠かせなくなった。10数年の間に国内外のさまざまなブランドのアイテムを30本ほど掛けてみた結果、「エイチフュージョン(H-FUSION)」の跳ね上げ式モデル“903”に落ち着いた。
「エイチフュージョン」は世界に名だたる眼鏡生産の聖地、福井県鯖江市に本社を置くオプトデュオが手掛ける、国産にこだわるブランドだ。デビューは2002年。デザイナーの山岸誉さんは根っからの鯖江っ子で、父の作ったオプトデュオを引き継ぐ形で11年に社長となった。
跳ね上げ式とは、子どものときに見た“おじいちゃんの掛けているアレ”だ。現在これを作れる工場は国内に1つしかない。それほど需要が減っているのだ。そして、ここでアマノジャクが働く。生産数が少ない=他人とかぶらない、という図式だ。「エイチフュージョン」は、昭和初期に日本で開発された合金サンプラチナを使い、いっそうレトロ感を高めている。そして日本人のために作られた日本の眼鏡ブランドだから、フィット感も申し分ない。顔の動きや汗でずり落ちてくる眼鏡は、ストレス以外のなにものでもない。眼鏡を高め位置でキープできるので、アジア人にありがちな眉毛丸見えの“ごはんですよ!状態”の心配もない。
僕にとってのサングラスはまぶしさを軽減するための道具だが、会う人にいちいちそれを伝えるわけにもいかず、同時に日本にはまだ「サングラス=格好つけ」の偏見がある。だから、跳ね上げ式なのだ。目が見えていれば失礼に当たらない(と僕は勝手に決めている)し、そもそも上空にある太陽の光を遮りたいだけなので、跳ね上げたレンズがひさしの代わりをしてくれればよい。
購入から4年。常にバッグに入れて携行している。そしてこのほど、「エイチフュージョン」のサーモントタイプ“902”(3万3000円)を購入した。黒×シルバーの配色は、映画「JFK」のケビン・コスナー(Kevin Costner)を意識したつもりだが、あらためて見てみると劇中の眼鏡は黒×ゴールドだった……。いずれは薄いブラックのレンズを入れてもいいかなと思っているが、しばらくは“素通し”によるクリアな世界を楽しみたい。Tシャツにジーンズのシンプルスタイルも、跳ね上げ式眼鏡を合わせれば、とたんに昭和チックでオリジナルなものになるのではないだろうか。