オランダのスタートアップ企業ネッファ(NEFFA)はキノコの菌から服を作り、2018年にH&Mファンデーションが主催するグローバルチェンジアワード(GCA)を受賞して、注目を集める会社だ。ネッファのアニエラ・ホイティンク(Aniela Hoitink)代表はもともとファッションデザインを学び、「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」などで10年間ファッションデザイナーとして従事した。なぜ、彼女は新しい素材開発の道を選んだのか。4月にスウェーデン・ストックホルムで行われた19年度のGCA授賞式に出席したホイティンクに話を聞いた。
WWD:ファッションデザイナーから研究開発の道へ――なぜ?
アニエラ・ホイティンク(以下、ホイティンク):デザイナーとしてキャリアをスタートしたのはファッション業界をまず理解したかったからです。それから11年にネッファを設立しましたが、“NEFFA”とはオランダ語の略で「少し違うように」という意味。私にとって多様性はとても大切で、私にとっての多様性は服を意味します。服は自分が何者でどこから来たのかなどを反映してくれるから。けれど、毎シーズンたくさんの服をデザインしてきて、もういいかな、と思いました。新しいものが作れなくなっていた。それで自分がクリエイティブになれて熱中できるものを探し始めました。そこでテクノロジーに注目したのです。
WWD:突然できるものではないと思うが?
ホイティンク:出身校であるユトレヒト大学の協力もあります。私の研究テーマの根幹にはパーソナライゼーションがあります。革新的でクリエイティブなものを提案して人々の生活をよりよいものにしたい。古代から使用されてきた菌と現代の技術を融合させることで可能性があるのではと感じていました。
WWD:キノコの菌から繊維はどのようにして作るのか?
ホイティンク:台湾から持ち込んだ天然のキノコ菌を増殖させて菌糸の集合体を作ります。増殖させるには栄養が必要で、主に糖分ですが、ゆでたイモやそのゆで汁なんかも使えます。スポイトで1滴程度の菌が1週間で5cm四方に増殖します。もちろん、もっと多くの菌があればもっと速く増殖します。それを乾かすとパリっとした繊維ができるのです。粘着力があり乾かす過程でそれらを重ねればくっつくので縫製いらず。今、質感や色を研究していて、天然染めやバクテリアによる染色についても研究中です。
WWD:プロセス自体、環境への負荷は少なそうだが。
ホイティンク:例えば水の使用量に目を向けると、一般的に1枚のTシャツで2700リットルの水を使用しますが、このキノコの菌からドレスを作るのに使用した水は12リットル程度。それよりも、ほかのイノベーションとの一番の違いはサプライチェーンそのものを変えたことだと思います。一般的なサプライチェーンの、糸を紡いで、生地を織って、縫製して……という、それらのステップをすべて取り払いました。自分で素材を作り、自分で立体モデルに張り付けて服を作るのですから、廃棄物もかなり減らすことができます。自分に必要な分だけ育てるのですから。
WWD:時間も環境負荷も削減できる。
ホイティンク:コットンを使用すれば土壌が回復するまでに時間もかかるし、保管場所も要る。それが必要ないですからね。2週間前に100着分のオーダーが来てもその期間で準備ができます。服1着の生産サイクルは1年と言われていますが、これなら1カ月に短縮できます。さらに加速させて3週間まで縮めたい。よりローカルな生産が期待できるし、広い土地も必要ありません。牛革のように大量のエサも必要ありません。
WWD:透明性も確保できる。量産化は可能なのか。
ホイティンク:可能です。菌自体の大量生産は初めてではありません。例えばペニシリンは、カビ菌から採取して大量に薬剤を生産してきました。量産に向けて今、ビジネスパートナーを探しています。