挑発的で、一度見たら忘れられなくなるような広告はファッション業界からなくなってしまったのだろうか。下に掲げたインパクトのある広告を目にする機会は格段に減っている。時には物議を醸しながらも、エッジの利いた広告を許容してきた業界が、近年ではすっかり保守的になってしまった。
多くのブランドが商品そのものをフィーチャーした広告を発表するが、築き上げてきたイメージを守りたい一心で、無難な広告ヴィジュアルに走ってしまいがちだ。ここ十数年で、不況や深刻な国際問題を経験し、なるべく見る者を挑発してはいけないという意識がファッション・広告業界の中でも働いているようだ。「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」の広告を手掛けてきたニール・クラフトは、「見る者が不快な感情を抱く可能性が最も低いヴィジュアルが選ばれるので、凡庸で似通った広告が業界に溢れるのだ」と話す。
ネット媒体の普及も広告が変化した理由としてあげられる。大量の画像、映像が絶え間なく行き来する現代において、見る者にとって、一つひとつの情報の価値が薄れ、印象に残らなくなってしまった。以前であれば衝撃的に映った広告にも驚かなくなったことが広告制作者を悩ませている。
スキャンダラスな広告で知られる「ユナイテッド カラーズ オブ ベネトン(UNITED COLORS OF BENETTON)」の広告ヴィジュアルを80年〜00年代まで手掛けたイタリアの写真家、オリビエロ・トスカーニは「挑発とは、見る者の世界観と想像力を揺さぶることである。挑発的でない広告など金の無駄だ」と言う。最近ではアメリカのオバマ大統領とベネズエラのウゴ・チャベス元大統領のキスシーンを描いた広告が物議を醸した。ファッションとは直接関わりのないヴィジュアルだが、敵対する国や文化が互いを受け入れる寛容性を訴えるブランドのDNAを表現している。
発信側の自主規制と、受け手の「ショッキングなもの」への免疫が、無難で代わり映えのない広告が溢れる時代に導いた。だが、衝撃的で、強いメッセージ性を放つ広告が完全になくなってしまったわけではない。「時代は繰り返す。人々のインスピレーション源となるようなファッション広告は再び出現するだろう」と前出のクラフト。