ファッション

未知の可能性を秘めたアフリカの若手2ブランド LVMHも認めたモダンアフリカンの体現者

 米コンデナスト(CONDENAST)主催の、世界のラグジュアリーやファッション市場について検証するカンファレンスに参加するため、4月に初めてアフリカ大陸を訪れた。今回の開催地は、アフリカの中で最も経済成長を遂げる南アフリカの都市ケープタウン。2000年以降、低所得者層・中間層の所得水準、GDPなどの経済指標、富裕層の伸び率はいずれも急成長で推移している。そんな社会環境で育った若年層は、新時代の前途多望な世代として高い期待が寄せられている。

 滞在先のホテルのレセプショニストやタクシードライバーなど20~30代前半の南アフリカ出身者に国の変化をどう感じているかについて尋ねると「若年層には仕事の選択肢が明らかに増えている。ファッションデザイナーという職種が生まれたのも、ここ20年くらいのこと。アフリカ人は自身のルーツに誇りを持っているため若者も伝統の衣装を好んで着用するが、世界のトレンドや他国の伝統衣装にも高い関心がある。最近は選択肢も自由度も増している」といったポジティブな回答ばかりだった。

 アフリカ出身のファッションデザイナーといえば、かつては独特なアフリカンプリントを用いた装飾を好む傾向があった。しかし今は、伝統を踏襲しながら見た目は控えめで洗練されたデザインも多く見られる。今回は、ケープタウンで出会った南アフリカ出身の2人の若手デザイナーを紹介する。

「LVMHプライズ」ファイナリストの25歳
THEBE MAGUGU

 アフリカの若手デザイナーの中で突出しているのが南アフリカ出身の25歳、テべ・マググ(Thebe Magugu)だ。19年の「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ」のファイナリストに「アンリアレイジ(ANREALAGE)」の森永邦彦デザイナーらとともに名を連ねて注目を集めている。

 マググがファッションデザイナーを志したのは、母親の一言がきっかけだった。「幼少期に僕が描いたウィメンズウエアの落書きを母が見つけて、スケッチブックとファッション雑誌を買ってきた。『本気でやりたいなら毎日練習しなさい』と言われたときが、僕がファッションの世界に入った瞬間だった」。キンバリーという小さな町で育った後に首都ヨハネスブルグに移り「LISOF ファッション スクール(LISOF FASHION SCHOOL)」でファッションデザインの修士号を得た。複数のブランドでインターンを経験した後、自身の名を冠したブランドを立ち上げた。

 マググが「アフリカのデザインは固定観念を持たれがちだ。多くの人が思うよりも、シルエットやカッティングが実験的で巧妙だということを、僕の作品を通じて伝えていきたい」と語る通り、彼の作品にはアフリカ独特の華やかなプリントは見られない。しかしアフリカのランドスケープの柄を用いたり、部族が着用するネックレスをベルトに引用したり、立体裁断と平面裁断を組み合わせた複雑なパターンを使ったりするなど、ディテールでアフリカを感じさせるのが新鮮だ。

 マググは「資源や生産の面で、先進国より劣る点は多い。小売店や顧客との接点が少ないのも大きな課題だ」としながら、「南アフリカの若者にとって未来は明るい」と断言する。「グローバリズムが進む中で、僕らのルーツである南アフリカとは何かという議論がよく行われる。独自の伝統と文化に根ざすと同時に、テクノロジーと世界基準も組み合わせた新時代を生きる僕らの世代が新しい創造性を生み出し、アフリカの魅力を世界へ発信していくだろう」。

ニットで描くアフリカのカルチャー
MAXHOSA BY LADUMA

 マググが尊敬するというのが、南アフリカを代表するファッションデザイナーの一人であるラデュマ・ノゴロ(Laduma Ngxokolo)だ。彼は南アフリカのコサ族の伝統衣装と文化をニットウエアで表現するブランド「マコサ バイ ラデュマ(MAXHOSA BY LADUMA)」を2010年に立ち上げた。国内外のファッション誌のカバーを飾ったり、伊フィレンツェのメンズ見本市「ピッティ イマージネ ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)」でコレクションを発表したり、米ニューヨークの近代美術館MOMAで企画展示を行うなど世界で活躍している。

 彼は南端の都市ポートエリザベス出身で、ファッションには特段関心が高かったわけではないという。「10歳の頃に初めてテレビを買うために家族で街中へ出かけたが、予算オーバーで買えなかった。母親がテレビの代わりにミシンを買ったとき、僕ら兄弟は崖の上から突き落とされたくらい落胆し、ミシンを憎らしく思ったほどだ。でも結果的にそのミシンとの出合いが服作りやテキスタイル製作の楽しさという、人生の喜びを見つけることになったのだけれど」。

 高校からテキスタイルデザインを専門的に学び始め、大学進学中にモヘアを使ったデザインを始めた。大きな転機となったのは、2010年に南アフリカのデザインコンペで勝ち抜き、ロンドンでコレクション発表の機会を得たことだった。「その時に初めて海外へ行った。アフリカの文化は多くのラグジュアリーブランドのデザイナーに影響を与えてきたが、アフリカ発のラグジュアリーブランドはどこにも見当たらなかったことが衝撃だった。アフリカは世界と肩を並べてラグジュアリーな製品を生み出すことができるのを証明するため、僕が発信していくと決心した」。

 その後奨学金を獲得してロンドンのセント・マーチン美術大学(CENTRAL SAINT MARTINS)に留学し、少しずつブランドの内容も広げていった。商品はモヘアやウール、リネンを使用したニットウエアがメインで、約2万6000~8万円という価格帯。昨年ヨハネスブルグの中心街にあるニット工場を買収して全ての工程を自社で行なうなど、ビジネスは成長を続けているようだ。今後の課題については「ファッションに限らず、アフリカは輸出がまだまだ少ない。国際的な信頼を築き、販売経路をグローバルに拡大することが重要だ。自身のブランドでは、伝統を時代に合わせた形でデザインすることが永遠の課題」と語った。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

リーダーたちに聞く「最強のファッション ✕ DX」

「WWDJAPAN」11月18日号の特集は、毎年恒例の「DX特集」です。今回はDXの先進企業&キーパーソンたちに「リテール」「サプライチェーン」「AI」そして「中国」の4つのテーマで迫ります。「シーイン」「TEMU」などメガ越境EC企業の台頭する一方、1992年には世界一だった日本企業の競争力は直近では38位にまで後退。その理由は生産性の低さです。DXは多くの日本企業の経営者にとって待ったなしの課…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

@icloud.com/@me.com/@mac.com 以外のアドレスでご登録ください。 ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。