米ランジェリーブランド「ヴィクトリアズ・シークレット(VICTORIA'S SECRET)」の名物イベントである豪華なファッションショーが、今後は開催されないかもしれない。同ブランドを擁するLブランズ(L BRANDS)のレスリー・ウェックスナー(Leslie Wexner)会長兼最高経営責任者は、「ファッションは変化するビジネスだ。成長するためには変化し、進化する必要がある。これを踏まえて、長らく続けてきたファッションショーの開催やテレビでの放映を見直すことにした」と社内に通達し、開催を取りやめる可能性を示唆した。
“エンジェル”と呼ばれる世界のトップモデルが集結し、ランジェリーをまとってランウエイを闊歩する毎年恒例の同イベントはテレビでも高視聴率を保ってきた。しかし近年はそれも下降気味で、2018年のショーはジジ・ハディッド(Gigi Hadid)と妹のベラ・ハディッド(Bella Hadid)、ケンダル・ジェンナー(Kendall Jenner)、ウィニー・ハーロウ(Winnie Harlow)などの超人気モデルをそろえたにもかかわらず、視聴率は前年に届かなかった。
その原因の一つとして、「#MeToo」運動が盛り上がり、多様性やインクルージョン(包括性)が推進されている現代において、痩身でセクシーなモデルばかりが登場する「ヴィクトリアズ・シークレット」のショーに魅力を感じなくなった消費者が増えたことがあるという。それを反映するように、同ブランドはアメリカンイーグル アウトフィッターズ(AMERICAN EAGLE OUTFITTERS)の「エアリー(AERIE)」や、リアーナ(Rihanna)が手掛ける「サヴェージ×フェンティ(SAVAGE X FENTY)」など、さまざまなサイズを展開して体形の多様性に応えるアンダーウエアブランドに市場シェアを奪われている。
また18年11月には、エド・ラゼック(Ed Razek)Lブランズ チーフ・マーケティング・オフィサーが、「プラスサイズやトランスジェンダーのモデルには全く興味がない」と発言したことが物議を醸し、インスタグラムで謝罪文を発表する結果となった。これに対し、AAからGカップサイズまでをそろえるアンダーウエアブランドの「サードラブ(THIRDLOVE)」は、「『ヴィクトリアズ・シークレット』のショーは男性向けの“ファンタジー”だが、女性は現実を生きている。何がセクシーなのかを女性に押し付ける時代はもう終わりだ」と「ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)」に1ページの公開書簡型の広告を打って批判した。
しかし、こうした逆風の中でも「ヴィクトリアズ・シークレット」は米国内外のランジェリー市場でトップシェアを維持しており、華やかなファッションショーがそれを支えていると見る関係者も多い。同ブランドの代名詞とも言うべきイベントが今後どうなるのかは不透明だが、米証券ウェルズ ファーゴ(WELLS FARGO)のアイク・ボルーチョウ(Ike Boruchow)=アナリストによれば、ファッションショーの開催には1000万~2000万ドル(約11億~22億円)の費用がかかっているという。なお、Lブランズの18年8〜10月期決算は純損失が4275万ドル(約47億円)の赤字という結果になっており、株価は1年間でおよそ25%下落している。