バーチャルメイクアプリ「ユーカムメイク(YOUCAM MAKEUP)」を展開する台湾のテック企業パーフェクト(PERFECT)は近年、美容業界で大きな存在感を見せている。パーフェクトが提供するのはAR(拡張現実)によるコスメのシミュレーションで、デバイスの前に立つだけで、画面の中でリップやアイシャドウの色をワンタップで変えることができる機能だ。アプリのほか、「イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT)」のショップや阪急うめだ本店の化粧品フロアなど導入先を広げている。そのエンゲージメントは高く、1度に平均12色ほどが試されるという。カウンターで実際に12色を試すのは心理的ハードルに加え、時間も多く費やす必要がある。しかしARであれば数秒で色を変えられ、思ってもみなかった色と出合うこともできるとニーズが高まっているのだ。
このARをさらに進化させるのがAI(人工知能)だ。パーフェクトはこの進化を“ビューティ 3.0”と定義している。先ほどの例を基にすれば、カウンターで実際にタッチアップするのが“ビューティ1.0”、ARでバーチャルトライを行えるようになった今が“ビューティ2.0”だ。“ビューティ3.0”ではAIが加わることでより効率よく提案を行うことが可能になる、というのがパーフェクトの考えだ。
パーフェクトはAI技術も用い、新しい機能を多く準備している。例えばモデルのメイクルックをバーチャルで試せる「AIルックトランスファー」はこれまで、用意されたメイクデータに沿って試せるという機能だった。しかし最近のアップデートでは、どんな広告モデルでも写真を撮るだけでAIが使用しているアイテムの色やテクスチャーを分析して再現することができるようになった。さらに「ユーカムメイク」内のデータから、そのメイクルックを再現するのに最適な商品の提案も行う。
また新機能「AIビューティアシスタント」は、ユーザー写真を基におすすめのスタイルを提案する。約5万点のセレブリティーの写真データからユーザーに近く、似合うメイクルックを抽出してバーチャル再現するというが、「AIはチューニングが難しいが、『ユーカムメイク』ではディープラーニングさせることでフィーリングも含めてユーザーに合った結果を導き出せる」と磯崎順信パーフェクト社長は説明する。提案にはより正確な分析が必要となるが、この点でも進化する。従来の4倍を超えるマッピングポイントにより、スムーズでより正確に顔をトラッキングすることが可能になった。
これらの進化でメイクアップからスキンケアまでより幅広いサービスを可能にしたパーフェクトだが、美容業界ではさらに一歩先の“ビューティ4.0”の構想が見え始めている。例えばロレアルは5月フランスで行われた「ビバ テクノロジー 2019(VIVA TECHNOLOGY 2019)」で、将来的にカスタマイズファンデーションの大量生産を可能にする技術「マイ リトル ファクトリー」を初紹介した。同社のブランド「ランコム(LANCOME)」はすでに海外の一部店舗でカスタマイズファンデーションを販売している。また資生堂もカスタマイズスキンケアデバイス「オプチューン(Optune)」を発表しており、そう遠くない将来、パーソナライズは“既存商品の提案”から“個人へのカスタマイズ商品の販売”まで拡大していくだろう。
この考えをアリス・チャン(Alice H. Chang)パーフェクト最高経営責任者(CEO)にぶつけると「プラットフォーム化されたテクノロジーにより精度の高い情報を提供することで、ブランドがカスタマイズ商品を作ることはできるし、そういったお声もいただく」とおおむね同意した。パーソナライズだけでなく、売り方までに影響を与えるテクノロジーだが、近い将来の発展としては「ガジェットやテックに寄ったものは好まれないだろう」と話す。「例えば、VRショッピングなどはまだ普及しそうにない。キュートなファッションを好む若い女性が、ショッピングのために大きなゴーグルをつけるのは現実的ではないからだ。日常に溶け込むようなテクノロジーを近い間は進めていきたいと思っている」と構想を語った。テクノロジーは美容をSF映画のように何もかも変えてしまうわけではなく、選択肢を広げる一つの手段だ。パーフェクトの機能の進化は、その幅をより広げていくことになるだろう。