ファッション

バイヤー本命の若手ブランド 「セリーヌ」出身の「ロク」がフィービーから学んだこと

 ロンドンを拠点にする「ロク(ROKH)」は、業界が今最も注目する若手ブランドの一つだ。アメリカ育ちの韓国人デザイナーロク・ファン(Rok Hwang)は、フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)の「セリーヌ(CELINE)」を経て、2018年度の「LVMHプライズ」では優勝した「ダブレット(DOUBLET)」の井野将之に次ぐ特別賞を受賞。今年3月にはパリで初のランウエイショーを開催した。

 「WWDジャパン」4月15日号の特集「2019-20年秋冬 バイヤー22人に聞く本命ブランド」では、「ジル サンダー(JIL SANDER)」と同率で1位のイチ押しブランドに選ばれ、「複雑そうでそうじゃない。1度着ただけでは理解できない不確実性に魅力を感じた」(ビオトープ)、「構築的でありながら女性らしいディテールが随所に施されていてエレガント。デイリーに着用できるアイテムが多い点が買い付けの決め手になった」(阪急うめだ本店ディー・エディット)と評価された。

 4月中旬には東京・六本木のセレクトショップのリステア(RESTIR)で、デザイナーのロク・ファンの来日イベントを開催し、これまでコレクションの制作過程で作ってきたアートワークを初披露した。

WWD:初披露したアートワークはどのように制作した?

ロク・ファン(以下、ファン):仕事を記録する手法の一つとして、2年半前にアートワークを作り始めました。キャスティングやフィッティングの休憩中にモデルたちがくつろいでいる様子を見て、女性が自然体でいる姿を興味深く感じました。彼女たちの仕草やアティチュードを記録しようと、スケッチのほか、写真や動画でとらえていきました。

WWD:ブランドのルック撮影も自身で行なっていそうだが?

ファン:全てではないですが、「ロク」を立ち上げてからほとんどのコレクションは自分で撮影するようにしています。カメラを集めていて、独学で撮影をするようになり、自分のフィルターで瞬間を切り取ることができることに魅力を感じています。リステアのマイコ(柴田麻衣子クリエイティブ・ディレクター)と話していたときに「誰が撮影しているの?」と写真に興味を持ってくれたことから、一緒にイベントを行うことが決まりました。リステアはブランド初期から取り扱ってくれている大事な卸先で、一緒に特別な企画ができてとてもうれしかったです。

チームはラグジュアリーブランドで
経験を積んだ10人で構成

WWD:現在のブランドのチーム構成は?

ファン:僕らはロンドンを拠点にパリでコレクション発表を行うインディペンデントブランドです。フランスのラグジュアリーブランドで経験を積んだ10人で構成されていて、小規模だけれど皆“小さなメゾン”で働いているという意識を持っています。妻のステラがマネジング・ディレクターとして一緒に経営を担っています。彼女は社内で唯一ファッションを学んでいませんが、演劇の世界で経験を積んでいて、表現者のプロ目線の意見を持っています。ブランドを構築する上で、ストーリーの組み立て方、素材やシルエットなど、彼女の意見が反映されています。

WWD:ラグジュアリーブランドでの経験はどのように生かされている?

ファン:「セリーヌ」でフィービーに教えてもらった “アティチュード”と“マナー”を大事にするということは今ブランドの基盤になっています。商品を美しく仕上げる方法や素材の選び方、扱い方、工場との付き合い方まで、細かいことだけれどプロフェッショナルの仕事を身に付けることができました。また、ブランドビジネスの構造やチームの築き方についてもメゾンで働きながら学びました。

WWD:今年2月にはパリで初のランウエイショーを行った。暗闇でのショーにはどのような意味を込めていた?

ファン:「ロク」では映画のようにブランドストーリーを表現していきたいと考えていて、初のショーでは映画や演劇を見ているような体感型にこだわりました。秋冬は「Teenage Nightmare(10代の悪夢)」をテーマに、見ている人を僕の幼少期の世界へ誘いたいと思い、1980年代後半〜90年代前半のテキサス・オースティンが着想源になっています。夜に外に出ると街の明かりが少なくて、懐中電灯を持って暗闇を歩いた記憶があって、ショー会場でもモデルたちに懐中電灯を持ってウォーキングしてもらいました。洋服はアメリカらしいカジュアルウエア、クラシカルな柄を掛け合わせています。

WWD:ブランドロゴについている“0000-0000”の数字の意味は?

ファン:数字にはシーズンレスでタイムレスな服を作りたいという思いを込めて付けています。僕は昔からデザイナーズのビンテージ服を集めるのが好きで、「シャネル(CHANEL)」やマドレーヌ・ヴィオネ(Madeleine Vionnet)、マダム・グレ(Madame Gres)によるコレクションピースなど、ビンテージショップで気に入ったものを少しずつ買い集めています。特に古いクチュールの服には、シーズン表記やシリアルナンバーのようなものが記されているものがあるけれど、そのシーズンが過ぎて古くなるものではなく、「ロク」は時代を超えて愛されるような服にしたい。

WWD:「LVMHプライズ」特別賞を受賞して、ブランドはどう変化している?賞金15万ユーロ(約1830万円)はどのように使った?

ファン:LVMHプライズのファイナリストたちはレベルが高いので、特別賞を受賞できて驚きました。今現在、LVMH社から1年間のメンターシップを受けていて、僕は「パトゥ(PATOU)」CEOであるソフィー・ブロカール(Sophie Brocart)LVMHグループ ファッション事業部シニア・バイス・プレジデントにアドバイスをもらっています。賞金は、ランウエイショーを開くのにあっという間に使い切りました。

インスピレーション源は朝の
通勤時に見るリアルな人たち

WWD:デザインのインスピレーション源は?

ファン:僕は人間観察をするのが好きで、リアルな人々が1番の着想源になっていると思います。朝起きて、散歩をして、朝通勤している人や働いている人たちを眺めているんです。

WWD:憧れのデザイナーは?

ファン:僕は特にクリスチャン・ディオール(Christian Dior)、マダム・グレ、マドレーヌ・ヴィオネ(Madeleine Vionnet)の作品に影響を受けています。また川久保玲の作る服も大好きで尊敬しています。

WWD:仲の良いデザイナーの友人は?

ファン:シモーネ・ロシャ(Simone Rocha)とはセント・マーチン美術大学時代の同級生で、今でもロンドンで会っていますね。また「ダブレット」の井野(将之)さんはLVMHプライズ後から親しくなり、連絡を取り合っています。

WWD:初来日して、日本のファッションについてどのような感想を持った?

ファン:少し派手なイメージを持っていたけれど、実際に来日してみるとエレガントで洗練された人が多いと感じました。街で観察していると、皆アクセサリーやジュエリーを身につけていて、細部まで気を使っている。今後は来日頻度を増やして、日本のことをもっと学びたいです。

WWD:今後のブランドの目標は?

ファン:パリでのランウエイショーを継続していきます。将来的にはメンズウエアも展開して、パリにアトリエを構え、店舗も設けたい。また、アートワークも継続してお客さまとのコミュニケーションツールにしていきたいですね。

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