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東レのサステナ担当に聞く「素材の未来」

 東レは、石油ではなく植物由来のポリエステルの量産に向けて取り組んでいる。すでに30%植物由来のポリエステルの量産に成功しているが、100%植物由来は世界初の試みだ。

 その背景には、2050年に約100億人に達すると予測される人口増加、広範な国々で進展する高齢化、気候変動、水不足、資源の枯渇といった課題が深刻化していることがある。同社はその少子高齢化と環境問題を成長戦略として取り組み、”持続可能な循環型社会“の実現に向けた事業を推進している。植物由来のポリエステルのほかにも、リサイクルポリエステルなどさまざまに取り組む繊維部門の進捗について、寺井秀徳・繊維GR・LI事業推進室長兼地球環境事業戦略推進室主幹に話を聞いた。

WWDジャパン(以下、WWD):石油を原料にしない植物由来のポリエステルを開発しているとか。

寺井秀徳・繊維GR・LI事業推進室長兼地球環境事業戦略推進室主幹(以下、寺井):ポリエステルを構成するのはエチレングリコールとテレフタル酸だが、エチレングリコールはすでに植物由来の原料で生産できており、現在すでに30%植物由来のポリエステルとして量産できている。一方、植物由来のテレフタル酸は世の中にはなく、その生成は非常にハードルが高い。現在、アメリカのベンチャー企業バイレント(VIRENT)と組んで、植物由来のテレフタル酸の生成に取り組んでおり、試作品はできた。数年以内に量産化を目指しているが、原料のパートナー次第という状態だ。

WWD:植物由来のポリエステルの原料は?

寺井:サトウキビだが、白砂糖や甘味料にならない廃糖蜜を用いている。廃糖蜜は食用として用いられず肥料などに用いられている部分だ。

WWD:価格はどうなるのか。

寺井:石油由来のものに比べて高くなる。まずは、自動車用途、スポーツ衣料、官公庁や学校のユニホームなど、環境意識が高い分野をターゲットにする。その後コストが下がれば、さらなる世の中の環境意識の高まりに合わせて一般衣料やカジュアル衣料にも普及させていきたい。昨今、環境意識が高まってきているのでビジネスチャンスが広がっている。

SDGsを盛り込んだサステイナビリティー・ビジョンを発表

WWD:昨年、SDGs(国連で採択された世界共通の17の目標)を盛り込んだサステイナビリティー・ビジョンを発表したことでの反応は?

寺井:特にこれをきっかけに商売が増えたという話は聞いていないが、日本政策投資銀行の環境格付けに適合し、調達金利はしやすくなった。企業価値として環境にどれだけ貢献しているかが評価項目になるためだが、われわれが行うのは金融市場向けのリップサービスではなく、取り組むべきこと地道に行う本来の企業活動だ。そもそも日本の企業はもともとしていたことだ。

WWD:繊維部門での具体的な取り組みは?

寺井:省エネ素材、植物由来の素材、リサイクル素材、環境低負荷素材が主だ。省エネ素材は、例えば機能性インナーでは、綿のインナーと比べて暖房温度を1度下げても体感温度は同じという結果も出ている。環境低負荷素材とは、例えば有機溶剤を使わない、難燃加工にハロゲンを使用しない、はっ水加工にフッ素を使用しないなど環境低負荷の素材などだ。今の主力は省エネ素材や環境低負荷素材が中心だが、今後伸ばしていくのは先ほど話した植物由来の素材やリサイクル素材だ。

WWD:ほかに取り組んでいることは?

寺井:伸縮性素材“プライムフレックス”も一部植物由来のポリマーを使用したものを提案している。これまでスポーツ衣料として展開していたが、婦人衣料にも拡大している。海洋マイクロプラスチック問題で注目度が高まるリサイクル素材は、廃ペットボトルを原料にしたものをすでに提案しているがさらなる拡大を狙い、東レにしか作れない品質が高く付加価値の高い素材に取り組んでいる。

植物由来の素材と同時に強化するのはリサイクル素材

WWD:リサイクル素材を作る方が石油を多く使うという説もあるが。

寺井:比較するのは難しい。というのは、LCA(=Life Cycle Assessment、資源採取―原料生産―製品生産―流通・消費―廃棄・リサイクルという製品のライフスタイル全体、またはその特定段階における環境負荷を定量的に評価する手法)を評価すると、そもそも破棄される予定だったペットボトルは、温室効果ガスがゼロの原料となる。ペットボトルを作るときに一定の温室効果ガスが出ると聞くが、再利用する時はそんなに温室効果ガスが出ないのでその差はあるだろう。輸送や洗浄、その他の工程でも環境に負荷をかけるが、それでも新たにヴァージンポリエステルを作るよりも環境負荷は低いのではないか。

WWD:価格はリサイクルポリエステルの方が高くなる?

寺井:理屈でいうと高い。現在、日本での1年間の廃棄ペットボトルは65万トン。そのうち約30万トンは家庭ゴミとして市町村に回収され、スーパーや自動販売機などの事業系は約23万トン回収されているといわれている。廃ペットボトルをペレットにする処理業者が、市町村系は容器リサイクル協会を経由して半年に1回入札し、事業系は処理業者が直接契約している。その、入札のときのペットボトルの質がピンキリで、いいものは高いが、異物が混ざっているものもありは値段が付かない。一昨年までは悪いものは中国を中心に輸出されていたが、中国で輸入が規制されて行き場がなくなっている。昨今のリサイクルブームで、良質のペットボトルは引く手あまたで価格も高くなっている。ちなみに19年2月末に入札された廃ペットボトルの価格は、キレイなものは54.7円/kg、汚いものは-118円/kg。つまり汚いものはお金を払って引き取ってもらっていることになる。リサイクルしたものは、容器やペットボトル、繊維になるが、一番品質的に難しいのが繊維だ。質が悪いものは高くないが、繊維で使うレベルの良質のものは高くなっている。

WWD:海洋マイクロプラスチック問題への対応は?

寺井:東レの工場からマイクロプラスチックを放出しないことに取り組んでいる。この問題では、使い捨て容器や合成繊維が悪者にされがちだが、誤解もあると思う。放置している行政にも責任がある。業界、行政、消費者も含めて考えるべき問題ではないか。合成繊維が悪いかというと違う。重宝するから広がっているわけだから。ただし、無駄を省いたり、地球環境への配慮はしっかり行っていく必要はある。マイクロプラスチックで問題になる排出されるマイクロファイバーも、東レだけ、繊維業界だけで対応できる問題ではない。洗濯機のフィルター、排水処理場など社会全体で考えていかなければいけない問題だ。

WWD:海洋マイクロプラスチックゴミに関して何から始めるべきか。

寺井:まずは不法投棄、ポイ捨てをなくしていくことが重要だ。いろんな説があり、調査している段階だが、海洋ゴミのほとんどは東南アジアや中国、インドから出ているとか、マイクロプラスチック繊維はマイクロプラスチック全体の0.2%という説もあったりする。しかし、だからといって関係ないわけではなく、それぞれの立場で対策を取るべきである。

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