「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」の価格を抑えた新ライン、「ザ マーク ジェイコブス(THE MARC JACOBS)」が5月30日に発売された。価格はTシャツが1万4000~2万1000円、メンズシャツが4万3000円など。同ブランドを率いるデザイナーのマークは、「シンプルな服を上質な素材で美しく作ったものか、独特なセンスのものがほしい。私は両極端なものが好きなんだ」と自身のファッション観を語る。
「ザ マーク ジェイコブス」は、ガーリーなスリップドレスや両脚の色が違うタイツ、ビンテージ品のようなレオパード柄のコート、ドイツ南部の民族衣装を思わせるスカート、そして「ピーナッツ(PEANUTS)」のキャラクターがプリントされたトレーナーなど、かつての「マーク BY マーク ジェイコブス(MARC BY MARC JACOBS)」が本来目指したであろう方向性のアイテムであふれている。マーク本人に米WWDがインタビューした。
WWD:「ザ マーク ジェイコブス」が発売になったが、どこで入手できる?
マーク・ジェイコブス(以下、マーク):オンラインストアとマディソンアベニュー店、百貨店などの卸先で5月30日に発売した。6月4日にはニューヨーク・ソーホーにポップアップストアがオープンしたし、同12日に発売記念パーティーを行う予定だ。
WWD:「ザ マーク ジェイコブス」を立ち上げた理由は?
マーク:昔から、コレクションラインは価格を度外視して自由に作りたいと考えていた。その一方では、手の届く価格帯でファッショナブルな洋服を提供したいという思いがあった。ランウエイのドレスはもちろん、25ドル(約2700円)のビーチサンダルでも「マーク ジェイコブス」らしさやクリエイティビティーを保ったものを出したかったんだ。かつての「マーク BY マーク ジェイコブス」や、(長年のビジネスパートナーである)ロバート・ダフィー(Robert Duffy)が手掛けた「スペシャル アイテムズ(SPECIAL ITEMS)」がそうであったようにね。つまり、「ザ マーク ジェイコブス」はそれらのブランドをリニューアル、もしくは再始動したようなものだと言える。
WWD:コレクションラインと「ザ マーク ジェイコブス」という新ラインアップは、以前の「マーク ジェイコブス」と「マーク BY マーク ジェイコブス」という構成にそっくりだと感じる。これは当時の構成も悪くなかったと思っているからか。
マーク:その通り。私は当時のブランド構成は悪くなかったと思っている。誰のせいで失敗したのかをここで言うつもりはないが、「マーク BY マーク ジェイコブス」は正しい方向性だったと思っているし、特にまだ“汚染”されていなかった初期の頃は素晴らしい出来だったと思う。もうかったからあれは正しかったと言っているわけではなく、私たちの信念が形になったという意味でね。
私はブランド物のコートとジャージーを合わせるような着こなしが好きだけれど、ジャージーはジャージーらしい値段であってほしいんだ。カシミヤ製じゃなくて、プリントが付いたようなコットン製のジャージーの話だよ。イブニングドレスと、ビーチサンダルやスニーカーを合わせるようなファッションが昔から大好きで、ロバートもそれを支持してくれた。
もともと、「マーク ジェイコブス」「マーク」そして「MJ」というラインアップを整えて、さまざまなコラボレーションをして、幅広い価格帯で商品を提供しようと考えていた。カシミヤのコートやイブニングドレスを作りつつ、デニムジャケットやなどのカジュアルウエア、そしてUSBスティックやコンパクトなどのアパレル以外のものも好きなように作れる体制があれば本当に自由でいいだろうなと思ったんだ。
WWD:それを今こうして実現できて、エキサイティングだと思うか。
マーク:これまでエキサイティングじゃなかったことはないよ。とはいえ、「マーク BY マーク ジェイコブス」を始めた頃はそのコンセプトをあまり理解してもらえず、何回も説明したり擁護したりする必要があったが、現在はすんなり受け入れてもらえるのではないかと期待している。そして、当時はマーチャンダイザーなどが次第に「この百貨店のためにこういうものを作ったほうがいい」と指示するようになり、私たちがやりたいこととかけ離れていってしまった。
WWD:プレスリリースでは、“ザ クローズ”や“ザ シューズ”などのさまざまなカテゴリーで展開されるとある。これは自由にアイテムを選んでほしいという意図があるのか。
マーク:その通り。シーズンをどう分けるかの詳細はまだ決まっていないが、毎年5シーズンに新製品を発表する予定だ。ブランドが軌道に乗ってきたら、メインの5シーズンに加えてマンスリーや2週間ごとのドロップもやるかもしれない。基本的には、コラボレーションを含めたメインコレクションを2回発表したいと考えている。最初のコレクションでは、ショット モーターサイクル(SCHOTT MOTORCYCLE)や「ピーナッツ」、そして(フランスの高級リネンメーカーの)デ・ポルトー(D. PORTHAULT)とコラボしている。
WWD:ソフィア・コッポラ(Sophia Coppola)や「ニューヨーク・マガジン(NEW YORK MAGAZINE)」などとのコラボもある。
マーク:そうだね、コラボはいろいろやっている。私は2シーズン制でやる必要はないと思っていて、新製品を毎月出してもいいと思う。ただ、現状では市場の枠組みががっちりと出来上がってしまっていて、新たな製造、販売、流通の方法が出てくるか、オンラインのみでの販売でない限り、その枠組みを壊すのはとても難しいんだ。私はオンラインで買い物をしたことがないのでECについてはよく分からないのだが、素晴らしいチームが“ザ ウェブストア”をリニューアルしてくれていて、より使いやすい――“ナビゲート”しやすい、という言葉で合っているだろうか?
WWD:“ナビゲート”で合っています。
マーク:私はあまり使わない言葉だけれど、そのナビゲートしやすく、オンラインで買い物をする人にとって快適で楽しい体験となるようにサイトを作り変えている。
コレクションはアイテムの集合体だが、全てのアイテムに共通するテーマがあるわけではない。アイテム同士を組み合わせるのはもちろん、単品でも着られるものばかりだ。初期の「マーク BY マーク ジェイコブス」にあった、違うものを組み合わせていく興奮が「ザ マーク ジェイコブス」にはある。コレクションラインのスピリットを受け継いだ、しかし手が届く価格帯のデザイナーズジャケットとジーンズのスカートを組み合わせていくという楽しみが味わえるんだ。
WWD:“ザ ブラウス”や“ザ ロマンティックブラウス”、“ザ メンズシャツ”、“ザ サーマル(保温)”などのあらゆるアイテムがあるが、これらはシーズンを越えて販売されるものか?
マーク:そうだ。ブラウスやフーディーなど、常にコレクションに含まれているアイテムはシーズンを越えて継続的に販売しようと考えた。また、「マーク ジェイコブス」では1940年代風のドレスもシーズンごとに少しずつ形を変えながら出しているので、“ザ フォーティーズドレス”というカテゴリーも作っている。定番としてそのまま残していくものもあれば、顧客の反応を見ながら少しずつ変えて、新鮮味を加えて続けていこうと考えているものもある。
WWD:“ザ マーカイブス(THE M•Archives)”について。アーカイブから復活させるアイテムをどのように選んだのか。
マーク:直感的に選んでいて、決まった基準はない。仕事中にふと、「あのプリントはよかったから、もう一度やろう」とか、たまたま引っ張り出してきた古いツイードのジャケットを見て「これはいいね。フレッシュに作り変えよう」という思いつきだったりするんだ。時代とともに人の体形は変化しているので、丈などの調整が必要だけれどね。過去に見たアイテムと全く同じに見えても、実はそうして細かくアップデートされている。
WWD:“ザ マーカイブス”では、自社製品ではないビンテージ品をベースにしたアイテムも出している。その理由は?
マーク:そうするのが正直なことだと思ったから。私は「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」が大好きで敬意を抱いているのだが、その理由の一つがリプロダクションをやっていたこと。商品のラベルに、のみの市で見つけたアイテムを再現したと表記されているんだ。作品のインスピレーションを得るため、誰もがのみの市に行くし、オンラインなどでビンテージ品を眺めたりする。それが着想源になって、最終的に全く違う作品になることもあれば、「これは素晴らしい。より多くの人々が楽しめるように再現して、さまざまなサイズで発売したらいいのでは」と思うこともあるということだ。
WWD:「ザ マーク ジェイコブス」のリリースには、とても情熱的な言葉がつづられている。「『ザ マーク ジェイコブス』は思いつき、直感、そして愛に基づいて行動し、それに耽溺することを探求する」「『ザ マーク ジェイコブス』は再発売し、再訪し、再定義する」「『ザ マーク ジェイコブス』は過去を探索し、未来に目を向け、現在にある」などだが、あなたとファッションの関係性を語っているようにも見える。
マーク:実際、そうだからね。これはマニフェストだという人もいたが、そうではない。私の考えをつらつらと書いたものだけれど、好きなように解釈してくれて構わないんだ。とても分かりやすい内容だと自分では思うのだが、「マーク ジェイコブス」の創成期から一緒にいないと難しいかもしれないね。「マーク ジェイコブス」を全く知らないとか、ロバートと私が共に歩んできた30年間の旅に関わっていない人には伝わりにくいかもしれないが、「ザ マーク ジェイコブス」とは何かということをよく表している文章だと思ったんだ。かつてファッショナブルだったもので、私が好きなもの、再訪したいもの、常に私たちの世界観の一部であるものを組み合わせていくことについて、意見を表明したかった。
WWD:「『ザ マーク ジェイコブス』は、私たちをインスパイアしてくれるような、正直で誠実、そして本物である全てのものを思い出させる、そんな存在なのだ」ともある。あなたの意見表明が心に響くのは、「マーク ジェイコブス」の歴史を知っているかどうかではなく、ファッションが感情を動かすパワーを信じているかどうかにかかっているのではないか。
マーク:これはとても重要なことだと思う。以前も同じ発言をして批判されたのだが、人々が欲しいものが何か私は分からない。自分が好きなものは分かるさ。私は店に行って買い物をするのが好きで、シンプルな服を上質な素材で美しく作ったものか、独特なセンスのものが好きだ。私はファッションが好きで、さまざまなものを交ぜるのが好き。デザインや価格、素材、そしてもの作りの考えが誠実で、そうして作られた“本物”が好きだ。それは昔から変わらない。
だがいわゆるZ世代など、何かアルファベットで示される世代のこととなるともう分からないね。昔からそうだったように、私は自分がいいと思うものを作っていく。これまでも、直感を信じて物事を進めた時に一番いい結果が出ているしね。私の直観が果たしてタイムリーなのか、現在の顧客に訴えかけるのかは、やってみないことには分からない。
WWD:今、最もわくわくしていることは?
マーク:「ザ マーク ジェイコブス」の発表と、みんなの反応がとても楽しみだ。この新ブランドについて話したり、世界観を伝える写真を公開したりしてコミュニケーションを取ることにわくわくしているよ。人々はビジュアルに反応するので、写真や動画はとても重要。どれだけ話しても相手が聞いていなければ伝わらないが、ビジュアルのアピール力は非常に強い。ビジュアルに引きつけられた人であれば、こちらの話を聞いてくれる可能性が高いし、啓発のチャンスがある。でもそのためには、まずビジュアルで誘惑して引きつける必要があるんだ。