「ジョルジオ アルマーニ」は5月24日、東京・上野の東京国立博物館で2020年プレ・スプリング・コレクションのショーを開催した。今年3月にアルマーニ / 銀座タワーがリニューアルオープンしたことを記念し、ブランド初となるランウエイショー形式での発表となった。ショーのフィナーレでは、アルマーニ自身がランウエイを最後まで歩いて、ゲストに挨拶した。現在84歳。生まれながらの美的感覚と先見の明、妥協を許さぬ完璧主義で第一線を走り続けてきた帝王の存在感は、まだ衰えることを知らない。
集まる夢の一夜
ショー会場に選ばれたのは、博物館の敷地内にある表慶館の重厚な回廊。美しいドーム屋根をいただくその洋風建築は、日本で初めての本格的な美術館として知られ、重要文化財に指定されている。ゲストの入り口となった歴史ある博物館の黒門にはブランドロゴが飾られ、表慶館に続く中庭の通路はライトアップされた。ショーには、建築家の安藤忠雄や女優のユマ・サーマン、同ブランドの「メイド トゥ メジャー」のイメージモデルを務める西島秀俊ら、国内外で活躍する文化人やセレブといったそうそうたるゲストが来場し、帝王アルマーニにふさわしい華やかな一夜となった。
凝縮したコレクション
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発表された2020年プレ・スプリング・コレクションは、ウィメンズでは流れるようなしなやかなシルエットを主軸に、洗練されたエフォートレスなスタイルを披露。一方、メンズはニット素材を用いたダブルブレストジャケットを筆頭に、体にフィットするソフトなテーラリングで、従来よりもカジュアルな雰囲気。女性らしさと男性らしさの融合、堅苦しさを排除したソフトなジャケット、エレガントなフォルムに潜む着心地という機能性、これ見よがしでない神秘的な官能美…デザイナーとして頭角を現した1970年代に提案し、ファッション界に革命を起こしたそれらのスタイルは、時代を超越し、今もなお人々を魅了している。
それぞれの「アルマーニ」
著名な文化人や国内外の芸能関係者など、そうそうたる顔ぶれがそろったショー会場。来場した3人のゲストに、ショーの感想を語ってもらった。
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込めたコレクション
12年ぶりに来日したデザイナーのジョルジオ・アルマーニは「日本はブランドにとって特別な国。日本との間には“insularity(島国性)”という大きな共通点がある。孤立しているという意味ではなく、独自性を発展させるために自身の価値を大切に育み、貫いてきたという点だ」と日本への思いを語った。
───2020年プレ・スプリング・コレクションを初のショー形式で発表する場に、東京を選んだ理由は?
ジョルジオ・アルマーニ=デザイナー(以下、アルマー二):東京は驚くほどエネルギーに満ち溢れた都市だ。1980年代後半、「ジョルジオ アルマーニ」のブティックを3店舗オープンした際、初めて東京を訪れ「何とモダンな街なんだ」と衝撃を受けた。2007年には、私が手掛ける数多くのアルマーニブランドを一堂に集結させるという最新コンセプトのアルマーニ / 銀座タワーをオープンし、そして今年3月、リニューアルすることができた。リニューアルにあたり、ブティックでは私が常々賞賛してやまない日本の文化と価値観に対するリスペクトを表現した。この機会に、再び東京に戻ってくることができてうれしい。東京は新しきものと古きものが矛盾なく混じり合い、共存するほかに類を見ない刺激的な都市。東京以外考えられなかった。
───今回のショーに、日本にインスパイアされた要素は入っているか?
アルマーニ:私の創り出すコレクションには、日本との結びつきや、日本への愛を感じさせる要素がたくさん反映されている。モダニティーと伝統が見事に共存する日本の文化は、つかの間のトレンドではなく、私が生み出すタイムレスでスタイリッシュな世界観とリンクしている。今回のコレクションでは、その“コード”をデイウエアに自然な形で落とし込んだ。
───デザインする際、最重要視していることは?
アルマーニ:移ろいゆくトレンドを追求することよりも、エレガントで洗練された、タイムレスなスタイルを追求するのが信念だ。一方で、自分らしさや快適さを無視せず、革新していくことも大切にしている。キャリアをスタートさせた頃、時代は明らかに新しいタイプの洋服を求めていた。そこで私は、従来のジャケットを解体することで、フォーマルな堅苦しさや窮屈さを取り除き、身に着ける人の身体をいきいきと蘇らせた。着る人に体の自然な美しさを気付かせ、自分らしくいられる自信を与えたいという私の思いから生まれた。まさに“ジャケット革命”だった。
───“変わらないこと”に対する思いとは?
アルマーニ:時の経過やテクノロジーの進化がもたらすライフスタイルの変化の中で“、変わらないこと”というのはひとつの選択肢だ。進化を受け入れつつ、時代を超えた真実を維持させる。ファッションにおいて、私は過度にドラマチックなものよりも、エフォートレスなスタイルを大切にしている。私の仕事はシーズンごとにどこかに変化をもたらすという側面はあるが、エレガントで洗練されている点は決して変わることがない。
───自分らしいスタイルを作り上げるために大切なことは?
アルマーニ:キャラクターとパーソナリティーこそ、真のスタイルを生み出すものだ。ワードローブはあなた自身を偽るためのものではなく、自分らしさを表現するためのものだ。ファッションとは、ランウエイや雑誌の中だけに存在するものではなく、皆が心から楽しめるものであるべき。そしてエレガントでシンプルであることも心にとどめてほしい。
───クリエイション面で日本から受けた影響はあるか?
アルマーニ:日本の驚くような色使い、版画や彫刻、非対称の魅力、厳しく研ぎ澄まされた優美さを愛している。アルマーニ / カーザのインテリアコレクションは、オリエンタル・アールデコの影響をはっきりと受けている。また1981年には、日本の絵師・歌麿と、黒澤明の映画『影武者』にインスパイアされたコレクションを発表した。それ以来、私は日本に高く関心を持つようになり、01年にはミラノにアルマーニ/テアトロをオープンする際、日本の建築家・安藤忠雄氏とコラボレーションを行った。さらに11年には、洗練された独特な美的感性を持つ日本という国へのオマージュを込めた「アルマーニ プリヴェ」のクチュールコレクションを発表した。
───東京の伝統文化で惹かれるものは?
アルマーニ:今でも街で見ることができる、女性たちのエレガントな着物姿。厳しく精緻に研ぎ澄まされたものを感じる盆栽の美。また、開運の縁起物で飾り付けた“福笹(ふくざさ)”と呼ばれる竹の枝を、商売人たちがこぞって買い求める地元の風習にも興味をかき立てられる。私は竹という素材が、アルマーニ / 銀座タワーの外装に様式化して取り入れたくらい好きだ。
───あなたが尊敬する日本人クリエイターは?
アルマーニ:安藤忠雄氏。彼は自身の個性をしっかりと貫きながら、相手のニーズに応じて、アイデアを柔軟に変化させバランスを取る能力がある。安藤氏の建築作品の中では、現代美術館とホテルを複合した「ベネッセハウス」が特に好きだ。この建築プロジェクトは、芸術、建築、そして自然という3つの要素を、調和のとれた、人々の心に訴える形で融合したもの。長年、人々に“不自然なもの”と見なされてきた鉄筋コンクリートを素材に用いながら、完全に自然と調和して見せた。また、仏教寺院の修復プロジェクト「光明寺」にも魅了された。現代の建築技術を用いて建造した木造構造が、日本の伝統建築の本質を表現している。光が生み出す非日常空間に心を奪われた。
───次なるゴールは?
アルマーニ:これまで掲げてきた目標と変わらない。私にとって仕事とは自身を表現し、絶え間なく創造性を発揮すること。日々仕事に向き合ってよく働き、その成果を楽しんでいる。デザインとは異なる領域だが、ビジネス面でも自分を表現する機会を得られた。私はファッション以外にも、デザインを広げることを存分に楽しんでいる。この先も更なる機会を生み出していくだろうし、私にとって心地よいものであれば力強く追い求めていくつもりだ。
ジョルジオ アルマーニ ジャパン
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