「プラダ(PRADA)」は6月6日、中国・上海で2020年春夏メンズコレクションを発表した。長らくミラノメンズの顔として君臨してきた同ブランドだが、デザイナーのミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)が今シーズンの舞台に選んだのは、ミラノから約9000km離れた上海だった。
舞台は、麦などの農産物を貯蔵するサイロとして使用されていた施設。8万トンの収蔵が可能なサイロとしてはアジア最大級の規模で、長年使用されてきた汚れはそのまま残されている。そんな歴史が刻まれた場所を、「プラダ」はカラフルなライトやネオンサインによって、一夜限りの近未来的空間に生まれ変わらせた。会場には多くの中国人ゲストをはじめ、アメリカ人俳優のデイン・デハーン(Dane Dehaan)や日本からは俳優の竜星涼ら約800人が訪れた。
ブルーのライトに照らされたショースペースに登場したのは、クラシックなアイテム軸にしたコレクションだった。超コンパクトなブルゾンとクラシックなテーラードジャケットをレイヤードしたり、丈が極端に短いジャケットとロングシャツを合わせつつボトムは膝上丈のショーツだったりと、縦にも横にもプロポーションを多彩に変化させることで童心に帰るような無邪気さを加えた。中盤から後半にかけてはスポーティーなムードがぐっと強まった。胸元には巨大な三角プレードのロゴが光るカラフルなマウンテンパーカや、ピッチが太いボーダーのポロシャツやニットベストで快活なスタイルを提案する。
キャッチーなアクセサリーも豊富だった。バッグは小ぶりのフェミニンなタイプは継続し、グラフィカルにアレンジしたロゴが主張するボストンや、アウトドアライクな巨大なバックパックなど、さまざまなバリエーションをそろえた。シューズも武骨なミリタリーブーツからタッセル付きのカジュアルシューズ、極太ベルクロが付くスニーカーまで、汎用性の高いモデルが多数登場した。
昨今のメンズシーンはストリートムーブメントが最盛期に達しており、「プラダ」もここ数シーズンはストリートの要素を取り入れたり、またはあえて真逆のフォーマルに舵を切ったりと、流行のスタイルとどう向き合っていくかというメッセージが感じられた。しかし発表の場を変えた今シーズンは自由な感覚を取り戻し、無邪気だけどモードで、アートだけどカジュアルな「プラダ」らしさが発揮されたコレクションだった。
ブランドを擁するプラダ グループは現在アジアのビジネスが順調で、18年度の増収に大きく貢献している。同社に限らず、あらゆるブランドが中国市場を拡大するためにさまざまな施策を打っている。「プラダ」の前日に20年プレ・スプリングのランウエイショーを開催した「クロエ(CHLOE)」や、6日前に19-20年秋冬の男女合同ショーを行なった「フェンディ(FENDI)」もその一つだ。しかし“ミラノの顔”である「プラダ」が、シーズンのコレクションを最初に上海で発表するのは異例中の異例。これを機に、中国の市場をさらに拡大させることが目的なのは間違いない。ショー後のアフターパーティーに真っ赤なコートをまとったミウッチャが登場し、大勢の中国人ゲストに囲まれて歓迎を受けていた。