韓国アパレル通販の「イチナナキログラム(17kg)」をご存じだろうか?17年6月にスタート後、若い女性を中心に人気を集め、現在のインスタグラムのフォロワーは48万を数える。同名のイチナナキログラム社を率いるのは、1992年生まれの塚原健司社長CEO(27)だ。アルバイトも含めた従業員数は80人で、平均年齢は23歳という。いったいどのような会社なのか。東京・南青山のマンションの一室にあるオフィスで塚原社長を直撃した。
WWDジャパン(以下、WWD):「イチナナキログラム」って変わった名前ですね。由来は?
塚原健司社長CEO(以下、塚原):一発で印象に残る名前がいいな、と。17は創業した年、kgはコリアンガールから来ていますが、キログラムと読んでいます。
WWD:「イチナナキログラム」の現状は?
塚原:フォロワー数は48万人です。イチナナキログラム社としては他に「ユードレッサー(U_DRESSER)」「ビープ(BEEP)」「ルル(RURU)」「リリーブティック(LILY BOUTIQUE)」「ベル(BELLED)」の合計6ブランドを展開していて、合計フォロワー数は100万を超えています。最多は「イチナナキログラム」ですが、他のブランドも10〜20万近くのフォロワー数を抱えています。全体の月商も非公開ですが、年商は2ケタ億円の規模になっています。月商はずっと前月比で110〜120%で推移していて、前年同月比だと5〜10倍。基本的に全ブランドが黒字です。
WWD:ブランドは17年6月にスタート。アパレルもコマースも未経験の中で、インスタ発ブランドで起業しようと思った理由は?
塚原:起業前にインスタグラムをめちゃくちゃ研究しました。投稿数や投稿内容、時間帯などとにかくありとあらゆることを研究しました。そうした中でアパレル企業はウェブの運用があまり上手くないと感じ、インスタを軸にしたアパレルブランドなら勝機があると感じました。
WWD:当時すでにインスタ発ブランドも誕生していたし、フォロワーを増やすためには資金が必要だったのでは?
塚原:いえ、当時はお金がなかったのでインフルエンサーの方にギャラは支払っていません。ひたすらインスタで「気に入ったのがあればご提供します。掲載もお任せします」という趣旨のDMをひたすら送って、その後も丁寧にコミュニケーションを取り続けました。実際に純粋に服を気に入ってくれたインフルエンサーの協力を得られたことが大きかった。そもそも僕らはベンチャーキャピタル(VC)などの外部資金を入れておらず、元手は最初にエンジェル投資家からお借りした450万円で、それ以降はずっと商売で得た資金だけで事業を運営してきました。ほぼゼロから起業して、資金調達なしでここまで実績を挙げられたことには自信を持っています。
WWD:なぜ外部からの資金調達をしないのか。
塚原:バイアウト(売却)する気がないからです。やるからには世界一の企業を目指していて、その途中で降りる気はないので。中期的な目標は、数年内に上場して時価総額1000億円。「17kg」は3年後に年商100億円を目指しています。
WWD:現在の社員数は?
塚原:アルバイトを含めて80人くらいです。
WWD:けっこう多いですね。
塚原:リモートワークをめちゃくちゃ推奨していて、完全な裁量労働制で、決まった時間もないし、オフィスに来る必要もなく、タスクをこなせればいいので社員の中には大学生も多いです。社員の平均年齢は23歳です。実際に「ユードレッサー」のマネジャーも20歳の“大学生社員”です。大学生といってもマネジャーは売り上げから仕入れ、世界観作り、カスタマーリレーションまで全てを統括しているのでかなり権限はあるし、給与も高いです。
WWD:塚原社長は週何回くらい出社を?
塚原:僕もこのオフィスにくるのは週2回くらい。打ち合わせがなければ基本的には家で仕事をしています。たまにオフィスに来ると見たことのない人がいてちょっとおびえます(笑)。
WWD:家では何を?
塚原:時間があればひたすらツイッターかインスタを見ています。僕の仕事は、ブランドの最初の骨格をつくってマーケティング戦略を考えること。これまで立ち上げた全てのブランドはターゲットからテイスト、戦略まで僕が全部つくっています。インスタやツイッターをひたすら見ていれば売れ筋や勝ち筋のあるブランド像が見えてくる。その意味で、うちの商品MDはかなりデータドリブンです(笑)。そういったコツみたいなものを全部ブランドマネジャーに伝授してブランドを運営してもらっていて、新ブランドの立ち上げやマーケティング戦略を考えることが僕の仕事になってます。
WWD:ブランドの立ち上げ方は?
塚原:立ち上げに掛かる費用は数百万円くらい。最初はひたすら知名度を上げるためにインスタのフォロワー数を増やして、その後に少しずつ商品を売っていく。だいたい2カ月目くらいから黒字になります。商品は仕入れもあれば、縫製工場に細かく指示を出して作ってもらうこともありますが、最初は数十着だけ在庫を積んで売れ行きを見て追加する、というやり方をしています。「イチナナキログラム」は毎日10商品を更新していますね。
WWD:外部資金を入れず、どのブランドも黒字。かなりもうかっているのでは?
塚原:今はとにかく会社を大きくすることに全力を注いでいるので、水面下では常に新ブランドの立ち上げ準備を進めていて、だいたい4カ月に1ブランドくらいのペースで立ち上げています。いまもコスメブランドを準備していて、これはかなりいいものができそうだと手応えを感じています。
WWD:塚原社長の収入は?
塚原:秘密です(笑)。ただ、趣味がないので仕事しかしていません。
WWD:家賃は?
塚原:やたら突っ込んできますね。非公表です(笑)。家にいることが多いのでここだけはちょっと贅沢させてもらっています。あとお金を使っているのは服です。月20〜30万円くらいは使っています。仕事柄、いろんな通販サイトのサービスや梱包、使いやすさなどを知るために服を買うことも多いですが。服がたまるとダッフルバッグに詰めて会社にもってきて社員にあげてます。会社には男性が少ないので、一部の男性社員はかなり僕の服をもらってるはずです(笑)。
WWD:ビジネス成功の理由をどう見る?
塚原:コマースやるならインスタだけだと売り上げのボリュームを取るのは難しい。インスタはあくまで知名度を獲得するもの。通販サイトへの流入がインスタ経由だけだと成り立ちません。「イチナナキログラム」の場合、インスタからの流入比率は3割を切っています。検索流入などの部分が大事です。4月26日にラフォーレ原宿にオープンした初のリアル店舗は、初月1000万円を達成できて、こちらもかなりの手応えを感じています。
“留年”が人生を変えた
WWD:大学在学中に起業。卒業後もすぐに「イチナナキログラム」を起業して、軌道にのせた。順風満帆ですね。
塚原:実は僕、高校生3年生に進学するときに単位が足りなくて留年してるんですよ。すごい挫折でした。高校生のときは、学校に朝来て教室のベランダで寝て起きたら夕方だったり、コンビニで一日中過ごしたり、めちゃくちゃでした。学校はそれなりの進学校で、しかも自由だったのですごく楽しくて、はしゃぎすぎたんです。学校からはずっと単位が足りてないよと言われてましたが、まさか本当に留年するとは思っておらず、3年生に進級の段階で「本当に留年だよ」と。
WWD:本当に留年するとは思ってなかったんですね。
塚原:はい。聞いたときは本当に目の前が真っ暗になりました。親に迷惑をかけてそれも悲しかったです。大学には行きたいと思っていたので、結局通信制の学校に転校して卒業資格を得て、法政大学に入学しました。
WWD:当時、高校の同級生はなんて言っていました?
塚原:そもそも僕が大学に入れたこと自体に驚いていました。高校時代には本当にペンすら持ったことがなくて、テストを白紙で普通に出したりしてので(笑)。通信高校に転校してからは猛勉強しましたし、大学の合格通知をもらったその日からプログラミングの勉強を始め、在学中はバイトもせず、奨学金をもらいながらずっとプログラムの勉強をしていました。実際に在学中に起業した会社では僕が社長兼開発責任者で、自分でプログラムを書いていました。今は経営戦略上、ほぼ外注していますが、僕自身はプログラミング言語を一通り使えます。
WWD:学生時代や起業前の生活費はどう稼いだ?
塚原:転売です(笑)。ファッションに限らず、ありとあらゆるものを転売して日銭を稼いでいました。あまりにも売り過ぎたので、ヤフオクやメルカリなどあらゆるオークションサイトから“垢バン”(アカウントが凍結されること)されてました(笑)。でも、そうした経験が今に生きているとも思っています。