「サンローラン(SAINT LAURENT)」は6月6日、米国ロサンゼルス(LA)で2020年春夏メンズ・コレクションを発表した。パリを離れてのショーは1年前のニューヨークに続いて2回目。セレブ御用達の別荘地で知られるマリブビーチにランウエイを作り、ラグジュアリーかつリラックスしたショーを見せた。
ハリウッドスターの2世など若い富裕層が多いLAは、同ブランドにとっても売り上げ上位の重要マーケットである。それだけに9日には、パリのコレット跡地の直営店と同コンセプトの店をLAビバリーヒルズにも同時オープンした。
招待客は会場に着くと用意されたビーチサンダルへ履き替えて砂浜へ。まずは夕暮れの海を見ながらたき火のそばでシャンパンを楽しんだ。その中にはキアヌ・リーブス(Keanu Reeves)やヴィンセント・ギャロ(Vincent Gallo)といった俳優の姿も多く見られる。ショーの開始は日没に合わせた20時ぴったり。モデルが歩く場所は波打ち際から1メートルの距離で、音楽の切れ間に波の音が耳に入る。リラックスすると同時に、ある意味究極にぜいたくな空間だ。
パリとLAの2つの街の空気感を重ねるのは、アンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)=クリエイティブ・ディレクターの最近のお気に入りだ。19年春夏シーズンはパリ・エッフェル塔前の広場に実物大のパームツリーを並べてウィメンズのショーを行っている。
今季はローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)のミック・ジャガー(Mick Jagger)と、セルジュ・ゲンスブール(Serge Gainsbourg)のパリジャンスタイルからインスピレーションを得たという。特に1975年に行われたストーンズの伝説のコンサートツアーからディテールや色使いを取り入れボヘミアンムードを表現した。「ミック・ジャガーと次のコンサートツアーの打ち合わせをしたとき、彼がワードローブを見せてくれたのがきっかけでそのディテール、色使い、アティチュードに強く引き付けられた」とヴァカレロ。75年のストーンズと言えばLAでの5日間公演は伝説である。
長髪モデルたちは、ロックスターの色気が乗り移ったように歩く。細い腰を強調するパンツは、プリーツ加工を施したサテンやパープルのベルベットのボヘミアン風、そしてスタンダードアイテムである裾が切りっぱなしのスキニーなブラックデニムなど。トップスはクロップドのスペンサー&ナポレオンジャケットに加え、胸をはだけるシルクのシャツが印象的だが、これは73年に「アンジー」を歌うミック・ジャガーそのものだ。カフタンブラウスにはムッシュ・サンローランが別荘を構え、ストーンズも愛したモロッコ・マラケシュの要素が見られる。
スタッズや刺しゅうなどの装飾はアトリエを持つメゾンならでは。黒の花柄ジャカードのジャケットは極細のシルバーのチェーンでふちを飾っている。細いスカーフやエスニック調のシルバーのネックレスなどアクセサリーもしっかりつけてドレスアップ。足元は磨いた革靴かローテクスニーカーだ。
ウィメンズも一部登場。白のシリーズは71年に「サンローラン」を着て式を挙げたミック・ジャガーとビアンカ・ジャガー(Bianca Jagger)をほうふつとさせる。
音楽トレンドは今、ロックよりヒップホップが優勢だが、艶っぽいロックもやはりいい。ファッショントレンドがストリートからエレガントへシフトしているだけにミック・ジャガーみたいな色気をまとうロックスタイルがタイミングよく映る。何かと比較したくなるエディ・スリマン(Hedi Slimane)の「セリーヌ(CELINE)」とも路線の違いがクリアになってきた。