2020年春夏シーズンのロンドン・メンズ・コレクション初日に「ジョン ローレンス サリバン(JOHN LAWRENCE SULLIVAN)」がショーを開催した。会場は昨シーズンと同じく高架下のイベントスペース、カシェット(Kachette)で、ショー開始1時間前からバックステージに入り、取材撮影を行った。正直なところ、筆者としてはバックステージが散らかり、ドタバタ劇があればあるほど記事にしやすいのだが、「ジョン ローレンス サリバン」はほぼ完璧と言っていい程準備万端に事が進められていた。見る限り、日本から来た数名のスタッフが指示を出し、ほとんどは現地ロンドンのスタッフが動いている。ロンドンでショーを開催するのは今季で6シーズン目となり、チームワークも高まっているようだ。
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バックステージでルックを着用したモデル達に負けず劣らずスタイリッシュだったのが、柳川荒士デザイナーだ。最後のリハーサルを終えるとスタッフと最終確認に余念がない様子で、バックステージ内を歩き回っていた。緊張感はあるものの、カメラを向けると笑顔を見せるなど、今までの経験が糧になっているのか、余裕が感じられた。もしくはプロボクサー時代に命をかけて試合に臨んでいた経験が、彼の強いメンタルを築いたのかもしれない。特に印象に残っているのは、ショー直前にモデル数名にバンデージを丁寧に巻く柳川デザイナーの姿だ。真剣な眼差しからは、深い愛情と情熱を持ってブランドを愛し、デザイナーとしてファッションに真摯に向き合うストイックな一面が見えた。
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ショーはロンドンを拠点に活動するEBM(エレクトロニック・ボディ・ミュージック)バンド、ダイスピープル(DICEPEOPLE)の生演奏とともにスタートした。“Deeper Than Night”と題したコレクションは、得意とするテーラードを軸に、大ぶりなシルバーネックレスやレザーハンドカフといったアクセサリーでパンキッシュに仕上げた。座席もスタンディングも観客でいっぱいになる盛況ぶりで、熱狂の中でショーは閉幕した。
「独自のスタイルを貫く覚悟を持てば、数字は後からついてくる」
バックステージにはロンドンの友人らが引っ切りなしにつめかけ、柳川デザイナーを祝福していた。柳川デザイナーはロンドンを発表の場として選び続ける理由について「友人も多いし文化的にも通ずるものを感じる。好きな雑誌もロンドン発のものが多い。以前から、PRとセールスがロンドンをベースにしたショールームだったという理由も大きい」と語る。過去5シーズンでどのような変化があったかを聞くと「ロンドンをはじめとするヨーロッパの雑誌にエディトリアルで扱われる機会が格段に増えた。自分の好きな雑誌に自分の洋服が使われることが嬉しいし、その機会が増えたのはランウエイショーの効果だろう」と答えた。一方でビジネス面については「良い時もあれば悪い時もある、アップダウンがあって当たり前。商業的な面よりも、ファッションの世界で文化を含んだ洋服を表現していきたい。トレンドを意識するだけではなく、自分に正直な服づくりをして独自のスタイルを貫く覚悟を持てば、数字は後からついてくるものだ」と、この上なく潔い答えだった。
筆者は「ジョン ローレンス サリバン」のロンドンでのショーをほぼ毎シーズン見てきたが、特にここ3シーズンは常に新たなチャンレンジを行っている印象だ。ルールにとらわれないデザインやスタイリングといったブランドの魅力は、ますます磨きがかかっている。それは若手デザイナーが多いロンドンという街に刺激を受けていることも一つの理由だろう。柳川デザイナーはファッションというリングの上では決して守りに入らず、攻め続ける強い人物なのだ。経験と自信、そしてセコンドには信頼の置けるロンドンと日本のチームを従えて、これからも「ジョン ローレンス サリバン」の戦いは続いていく。
ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける