ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)初の回顧展「フィギュアズ オブ スピーチ(Figures of Speech)」が、シカゴ現代美術館(Museum of Contemporary Art Chicago)で6月10日から9月22日まで開催される。
ヴァージルは、「カルチャーをスナップショットで切り取ったような展示だと思う。消費者とプロデューサー、もしくはヨーロッパとアメリカの間の部分を断面図にしたような、インターネットの全体を一部切り取ってみたら現実が垣間見えたというような内容だ。アートはもちろん、カルチャーのハイとローな部分、そしてスニーカーカルチャーについても触れている」と語る。
シカゴから車で90分ほどの町、ロックフォード出身のヴァージルは、自身を「何もない郊外育ちの子どもだった」と言うが、ウィスコンシン大学マディソン校で土木工学の学位を取得後、イリノイ工科大学で建築学の修士号を取得している。そして現在は、「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」のクリエイティブ・ディレクターと「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のメンズ アーティスティック・ディレクターを務め、デザイナーやDJ、建築家などのさまざまな顔を持っている。それに加えて、「パイオニア(PIONEER)」や「イケア(IKEA)」といった異業種とのコラボレーションを行ったり、ナイキ(NIKE)と新ブランドを発表したりと多忙を極めているが、ヴァージルはそれを「人類学者か何かのように世界中を回り、いろいろなものを見ては何かを作って発表する」日々だと表現する。
故郷で自身の大規模な回顧展が実現したことについては、「信じられない。シカゴはアートや建築、そしてデザインの歴史で知られる街だ。私のように世界中を回りながらコンテンポラリー・アーティストとして成長してきた人間にとって、シカゴ現代美術館が私の作品を展示して認めてくれることは、ある種一巡りしたように感じる」と述べた。
展示は「初期作品」「ファッション」「音楽」「間奏曲」「黒人の視点」「デザイン」「終わりに」という7つのセクションに分かれており、作品を通じてインクルージョン(包括・包摂性)や人種問題、そして公平性とは何かを問いかけてくると同時に、ヴァージルの幅広いキャリアを年代順に追えるようになっている。「私は38歳で、この仕事を15年以上してきている。作品は部分的に認知されているとは思うが、その全体像を世の中に提示したいと考えた。シカゴで工学と建築を学んでいた学生時代の作品なども展示しているので、それが現在の活動にどうつながっていったのか、そしてカルチャーに与えた影響についても俯瞰できるのではないかと思う」と説明した。またヴァージルは、「これは本当の意味での回顧展ではない」とも言う。「現在に至るまでのストーリーを伝えたいと思って“回顧展”を企画したが、私は常に新しいものを作っているので、それを含めると展示の20~30%は誰も見たことがない新作になるだろう。この展覧会はシカゴからボストン、ブルックリン、アトランタと巡回するので、それぞれ新しい作品が追加されていくと思う」。
同回顧展に先立ち、5月31日にはヴァージルとナイキ(NIKE)が若者育成のために設立した8週間のメンターシッププログラム「ナイキラボ シカゴ レクリエーションセンター(NikeLab Chicago Re-Creation Center)」がスタートし、そのオープニングにヴァージル本人も駆け付けた。同センターでは、ナイキによるシューズの再生プログラムも行われている。ヴァージルは、「新しいアイデアを見つけるため、私はアートにおいても言葉を使う。このレクリエーションセンターは創造の場であると同時に、再利用を進める場でもある」と、同プログラムに選出された地元の若者10人に語りかけた。彼らは建築や写真、ブランド戦略、グラフィック、ファブリックデザインなど、ヴァージルが選んだ各分野の専門家であるメンターと共に活動する。
同プログラムが開催される「ナイキラボ」が建つノースミシガン通りは、ヴァージルが友人のカニエ・ウェスト(Kanye West)と共に訪れた「ルイ・ヴィトン」の店舗があり、“ファッションを仕事にしたい”という夢が始まった場所でもある。「この通りはシカゴと外の世界が交差する場所だ。ここからたった1ブロック先に、『アップル(APPLE)』や『ナイキ』『ラルフ ローレン(RALPH LAUREN)』『ルイ・ヴィトン』などの世界的に有名なブランドや美術館がある。当時、私や友だちはみんなショーウィンドーをのぞき込んでは、そこに飛び込んで外の世界に行きたいと夢見ていたものだ」と思い出を語った。
ヴァージルはまた、同プログラムに選ばれた若者たちからの質問にも答えた。世界中を旅しながらどのようにして忙しいスケジュールをこなしているのかという問いには、「インスタグラムを見ると誰かの全てが分かったような気になってしまうものだが、そこに写っているのは私が実際にやっていることの0.00%にすぎない」と答え、旅先では現地のレストランで食事をして、その国の文化を吸収するように努めていると付け加えた。「アウトプットされた作品の裏には、膨大な量のインプットがある。私の人生は学びの旅であり、答えを見つけるべく自分の目で確かめに行く。その繰り返しなので、私は一度も行き詰まったことがないし、疲れたりもしない。仕事だと思っていないからね。もちろん睡眠は取るけれど、起きているのに3時間何もしないというのは好きじゃないんだ。常に何かを考え、何かをしていることがもう習慣になっている。回顧展では、私のそういう部分が分かると思うよ」。
幅広い活動で知られるヴァージルだが、さまざまな役割やプロジェクトのバランスをどう取っているのかについては、「簡単だよ。しっかり目を開いて周りを見ることが大切だ。例えば車の中にいる時でも、何をするかによって“学び”が変わってくる。携帯を見るのもいいけれど、窓の外に目を向ければさらに多くのことを学べる。私は自分がやっていることを楽しんでいて、仕事だとは思っていないんだ」と締めくくった。