SIRUP : 大阪府出身のシンガーソングライター。昨年リリースした「LOOP」はYouTubeで650万回再生を記録。今年は「サマーソニック」や「ロッキンジャパン」など多くの音楽フェスへの出演が決定しているほか、6月から全国ツアーをスタートさせた。所属レーベルはエイベックス下のA.S.A.B PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA / STYLING : TEPPEI / HAIR & MAKEUP : TADAKAZU KOTAKI ロングシャツ2万5000円、デニムパンツ2万6000円 / シュタイン(スタジオ・ファブワーク 03-6438-9575)、Tシャツ9000円 / アンデコレイテッド(アンデコレイテッド 03-3794-4037)、サイドゴアブーツ3万7000円 / サット&シルバ(スタジオ・ファブワーク 03-6438-9575)
2017年9月に発表した「Synapse」で彗星のごとく現れた大阪出身のシンガー・ソングライターSIRUP(シラップ)が、日に日にその存在感を増している。SIRUPは、KYOtaro名義での10年間の活動を経て、2017年に「Sing」と「Rap」の造語である今のアーティスト名に改名。その名の通り歌うようにラップするボーカルスタイルと、R&BやHIP HOP、ソウルなどのブラックミュージックのテイストを融合させながらも雑多感を感じさせない心地よいメロディー、そして個性的な歌詞で、感度の高いリスナーを魅了してきた。
VIDEO 毎シリーズ起用する楽曲のセンスがいいと話題のホンダの「ヴェゼル」TVCM。SIRUP自身も出演している
今年に入ってからは、ホンダのTVCMに「Do Well」が起用されたことでお茶の間にもその名を広め、5月には同楽曲が収録された自身初のフルアルバム「FEEL GOOD」をリリースするなど波に乗るSIRUP。そんな注目株の彼に、アーティストのルーツからアルバムに込める思い、そして大好きだと話すファッションについてまで話を聞いた。
WWD:SIRUPとして活動する以前はKYOtaro名義で活動していましたが、そもそもアーティストになったきっかけを教えてください。
SIRUP:10代の頃から趣味や遊び程度に音楽はやっていたんですが、「アーティスト一本で飯を食っていこう」と決意したのが20歳のときです。それから10年間KYOtaroとして活動し、2017年からSIRUPとしてスタートしました。
WWD:10代の頃に音楽をやっていたというのは?
SIRUP:中学・高校と吹奏楽部に入っていたんです。中学ではもともとソフトテニス部に入部したんですけど、うまい子しか生き残れない状況とルールでそれが面白くなかったんですよね。それで悩んでいたら周りの友達が吹奏楽部に入部していたのと、当時、宇多田ヒカルさんやMr.Childrenさんが好きだったので「じゃあ俺も」と。パートはトロンボーンで、中学の活動は遊びみたいな感じでしたけど、高校は部長になったりと本気でやってました。始発で行って学校が許す時間ギリギリまで練習する生活を3年間続けて、成長期なのに5〜6kg痩せたくらい(笑)。でもこの時に本気で音楽と向き合うことを知って、今もその基礎が生きています。
高校は兄と同じだったんですけど、兄の友達の吹奏楽部のOBがR&B好きでスティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)とアリシア・キーズ(Alicia Keys)を教えてくれたんです。音楽を一番吸収する高校時代の3年間は、毎日この2人を聴いてましたね。もちろんそのほかにも聴いてたんでしょうけど、その記憶がないくらい聴き込んでいて、今の僕の歌に影響を与えてくれています。大学時代はブラックミュージックを主軸にジャンルを問わずいろいろ聴いて、ネオソウルだったらミュージック・ソウルチャイルド(Musiq Soulchild)、エリカ・バドゥ(Erykah Badu)、ディアンジェロ(D'Angelo)、モス・デフ(Mos Def)、ジル・スコット(Jill Scott)とかですね。ゴリラズ(Gorillaz)やタヒチ80(TAHITI 80)なんかも聴いてました。
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WWD:吹奏楽部でトロンボーンを吹いていたSIRUPさんが、なぜ歌うことに?
SIRUP:高校1年生のときに兄と行ったカラオケでスティーヴィー・ワンダーを歌ったら「お前めちゃくちゃうまいやん。絶対歌をやったほうがええで」って言われて、そこから歌うことを意識をするようになったんです。その後、高校を卒業するタイミングで兄がオーガナイズする音楽イベントがあって、「とりあえず出てみ?」って言われたので自分で曲を作って出たんです。
WWD:その頃は今のように音楽ソフトやアプリが気軽に手に入る時代ではありませんが、どうやって作曲したんですか?
SIRUP:兄に「作曲ってこういうもんだから」って、いろいろなレコードを聴いて好きなインストを見つけたら鼻歌でメロディーと詞をのせて作ったのは覚えてるんですけど、詳しいことは全然覚えてないです。作ったのは確か3曲で、R&B調でした。でも吹奏楽をやっていなかったら曲を作ろって気持ちも湧かなかったでしょうし、やっぱり吹奏楽は礎ですね。ただ言えることは、今はメロディーや歌詞をiPhoneでメモしたり録音したりするけど、当時は脳内だけでなんとかする原始的なやり方だったってことです(笑)。
WWD:お兄さんの存在は大きいようですね。
SIRUP:兄はラッパーをやりながらレゲエからエレクトロまでDJをやったり、音楽的な影響は受けていないんですが存在としては大きいですね。音楽的な影響でしいて言うなら、日本語ラップは兄の影響でいろいろ知りました。
WWD:その後、KYOtaroとして活動するまでは?
SIRUP:いろいろ中途半端に活動していたんですが、一念発起したんです。「本気でやろう。このままじゃ趣味で金を使ってるだけで無駄だ」って。関係も何もかもゼロにして、KYOtaroと名乗るようになったのが20歳のときです。
PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA / STYLING : TEPPEI / HAIR & MAKEUP : TADAKAZU KOTAKI
WWD:SIRUPに改名した経緯は?
SIRUP:10年間KYOtaroとしてやってきて、活動をやめようかと思っていたときに事務所が決まったんです。それまで事務所に入ったことがなかったし、KYOtaroって名前にも飽きていた。それにKYOtaroとして最後に出したミニアルバム「ROOM」がアコースティックのR&B系の歌モノで、そこから次に作りたかった曲が明らかに異質なものだったから、いろいろタイミングが重なったということで改名しました。
音楽的な話をすると、基本的にそのときに自分が好きな音楽性と気持ちで歌っているので、10年間KYOtaroとして活動する中で徐々にやりたいこともやり方も変わってきたんですよね。KYOtaroのときにトラックメーカーとやっていた作業は、自分の脳内にあるものをそのまま音にしてもらうことがメインだった。それがSIRUPになってからは、トラックメーカーの特質と自分の個性だったりやりたいことをミックスして、オリジナリティーを生んでるって感じです。
WWD:名前の由来は?
SIRUP:「Sing」と「Rap」の間って意味と、コーヒーとかに付いてくるシロップが由来です。音楽って誰かと一緒に完成させるもので、僕はこれからも自分だけで音楽を作り上げることはないと思っていて、誰かと一緒に作ることに良さを感じています。シロップってそのまま飲まないで、コーヒーに入れたり料理にかけたりするじゃないですか?その完成の意味合いとかけてるんです。
WWD:それまでのR&Bテイストにラップの要素が含まれるようになったのはいつごろから?
SIRUP:意識的に聴き出したのが3〜4年前で、それまではラップを聴いてるけどサウンドを重視して聴いてることが多かったんです。それに、自分自身が曲を作る時に詩を詰め込みがちなので削ることが多く、歌うときもグルーヴを意識しているのもあって、知り合いのラッパーには「めっちゃラップうまそう」って言われ続けてました(笑)。声質的にもラップのムードを持っていたり、いろいろなピースが徐々にハマったんだと思います。それで今の事務所に入って最初に言われたことが「一番好きなことをやってください」で、自然とやったのがラップのフロウだったんです。
WWD:KYOtaroからSIRUPへと改名し、しがらみが解けたと。
SIRUP:そうですね。音楽の流れ的にずっとラップの要素を持っていたのと、単純に今一番いい音楽が集まるジャンルがヒップホップというトレンドもあると思います。あとは、ずっと一緒にやってるトラックメーカーMori Zentaroのジャッジです。何か新しいことにチャレンジするときは彼のジャッジを信じているんですけど、それまでラップのデモを彼に送っても何も手応えがなかったのに、急に「めっちゃいい」って言われ始めた。こうやっていろいろな点が固まり、自分のスキルも追いつき、スタンスも確立し、自分のオリジナリティーにハマったのが“SIRUP”なんです。
WWD:作曲の流れは?
SIRUP:曲によりますけど、トラックがほとんど先でメロディを後からのせます。土台のイメージをトラックメーカーと一緒に作り、構成とか音色は任せて、言葉は最後にのせるイメージです。メロディーが思いつくのは圧倒的にシャワーを浴びているときが多くて、飛び出してボイスメモに録音したりするから部屋の床がよくビショビショになります(笑)。でも面白いのが、録音したりメモしたものは意外とあとで使わないんですよね。これって本当にいいモノは忘れないからなんだと思います。
「Do Well」や「Slow Dance」など全12曲が収録された「FEEL GOOD」。2800円(A.S.A.B / Suppage Records)
WWD:これまでのEPは「SIRUP EP1」と「SIRUP EP2」と、セルフタイトルを冠したシンプルなものでした。初のフルアルバムを「FEEL GOOD」とした意味は?
SIRUP:コンセプチュアルだったり難しい単語を使いたくなくてわかりやすいタイトルにしました。曲を書くときは“陰”のエネルギーなんですけど、僕が体質的に“陽”のエネルギーを持っているから、歌うことで僕の“陽”が曲を“陰”だけにしない。これが聴きやすい雰囲気につながっていると思っていて、「気分が落ちているときに聴いて元気になってほしい」というよりも、「なんかわからんけど聴いてたら気分がよくなるし体も動くわ〜」みたいな気持ちで聴いてほしいという意味を込めてます。
WWD:ジャケットのコンセプトは?
SIRUP:ビジュアルイメージがなんとなくあって、本当はソファに座っているようなものになる予定だったんですけど、思いつきで現場にあった椅子で撮ったら力が入っていない僕らしいものが撮れたので、現状のものになりました。
VIDEO 「Do Well」のMV
WWD:アルバムには、TVCMに起用されてヒットのきっかけにもなった「Do Well」が収録されていますね。
SIURP:曲っていうのは、イメージを伝えたいものとメッセージを伝えたいものの2種類あって、「Do Well」は前者です。僕はメロディーをつけるときに適当な英語を載せるんですけど、「Do Well」は「なに言ってるかハッキリはわからないけど、全体ではこういうことを言ってるんだろうな」ってイメージとエネルギーが伝わってくれればいいなって。「メッセージがいい」じゃなくて「あーもうどうでもいいわ〜!」ってなってほしいんです(笑)。
VIDEO 「Say That」のMY
WWD:「Do Well」はMVがシュールという点でも話題ですが。
SIRUP:サビも「Da…Do Well」ってよく分からないから、緩くてふざけてる雰囲気のMVが作りたくて出来上がりました。トロ・イ・モア(Toro y Moi、アメリカのミュージシャン)の「Say That」のMVが、めちゃめちゃ引いた画からズームインしてクイクイ動くトロ・イ・モアを映すって内容なんですけど、それが好きすぎて同じようなことをやりたいと密かに思っていたら、MVを撮る前に監督さんから「こんなのどう?」って「Say That」を提案されて震えましたね(笑)。
VIDEO 「Synapse 」のMV
WWD:代表曲の1つ、「Synapse」はMori Zentaroさんとではなく小袋成彬さん主宰のTokyo Recordingsとの楽曲ですね。
SIRUP:Mori ZentaroとはKYOtaroのときからずっと一緒にやってきているので、イメージの共有もすぐにできて、同じ脳内でやってる感じなんです。でも小袋さんとは初めてということもあって、どんな楽曲になるんだろう?っていうワクワクが制作していく中で常にある感じでした。それを考えている時に、僕が好きなアニメ「攻殻機動隊」のプラグインすることで一瞬で脳内を共有できるシーンを思い出して、「これができたら早いのに」って思って詩を書いたんです。「Synapse」はSIRUPとして初めての楽曲で、それまでのKYOtaroとは全くの別物を作ることができたので制作は本当に楽しかったですね。
WWD:どの楽曲でも英語が流ちょうに聞こえますが、海外留学の経験などはあるのでしょうか?
SIRUP:留学経験はなくて、とにかく聞いてまねした感じです。大学の時に発音の勉強はしたんですけど、それが役立ったかと聞かれると微妙ですね(笑)。ライブでよく外国人の方にしゃべりかけてもらえるので、勉強中です。
WWD:ライブでは、音源とかなり違った印象を受けます。
SIRUP:ライブは音源とは楽しみ方を変えてるんです。わかりやすく言うと、耳だけで聴くものから体で聴くものにしているって感じで、音源だと大きすぎるグルーヴやアレンジも「ライブのこの流れなら足したらよくなる」とかあるので。
WWD:英語を勉強されているとのことですが、世界進出は考えていますか?
SIRUP:ラッパーのBIMとの「Slow Dance」はドイツ人のトラックメーカーを迎えていたり、すでに海外の方と仕事は一緒にしてるんですが、「世界、行くぞ!」とかはないです。でも純粋に僕の音楽のメインストリームは海外にあると思っていて、トラックを作ってほしい人も海外に多いので、自然と海外にいけたらなと思っています。でも夢を追って曲を作ると、それが理由になってしまうんですよね。例えば「『コーチェラ』に数年以内に出る!」って目標を立てちゃうと、「コーチェラ」に出るためのライブをやったり、それっぽい見せ方を勉強したりする。そうなるとそれはもう僕じゃないので、変に意識せずナチュラルに目指したいですね。
VIDEO DEANを代表する楽曲「love」。ジ・インターネットのシドが参加している
WWD:個人的にですが、SIRUPさんにはDEAN(韓国のR&Bシンガー)に似たものを感じます。
SIRUP:YonYon(ソウル生まれ東京育ちのDJ)にも同じことを言われました。アルバムを1枚しか出していないDEANがなんで世界で評価されてるかって、他のアーティストみたいにアメリカナイズされたモノではない、自分のオリジナリティーを明確に持っているからだと思っています。そういう点でDEANはめちゃくちゃ指標になっていますね。ただ気合いを入れると音楽が楽しくなくなってしまうので、YonYonには「楽しい状況で音楽を作りたいから自分のペースでやるわ」って返しました(笑)。
PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA / STYLING : TEPPEI / HAIR & MAKEUP : TADAKAZU KOTAKI
WWD:ライブは私服が多いそうですね。
SIRUP:基本的に私服ですが、力を抜きすぎることもあるので最近はスタイリストの方にお願いすることも増えてきました。
WWD:そもそもファッションは好きですか?
SIRUP:絶対に好きな人間だと思ってたんですけど、今日のスタイリングをしてくれたTEPPEIさんをはじめ、最近は僕よりも全然好きな人が周りにいすぎて、わからなくなってきました(笑)。
WWD:好きなブランドは?
SIRUP:「アディダス(ADIDAS)」は小さい頃から好きですね。「リーバイス(LEVI’S)」はもともと着てたんですけど、この間協業させてもらった際に会社の理念とかを全て教えてもらっていっそう好きになりました。あとは「シーイー(C.E)」も好きで、いいなと思ったら「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」のパターンも多いです。
4月13日の「レコードストア・デイ」に「リーバイス」店舗を訪れると、SIRUPとのコラボトードバッグをカスタマイズすることができた。写真はカスタマイズを楽しむSIRUP
WWD:コラボしたいブランドなどはありますか?
SIRUP:コラボ7inchレコードをリリースさせてもらったりした「リーバイス」のように、歴史や理念をしっかり理解した上でご一緒できるブランドがあればうれしいですね。
PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA / STYLING : TEPPEI / HAIR & MAKEUP : TADAKAZU KOTAKI
WWD:最後に、SIRUPさんが描く青写真を教えてください。
SIRUP:このまま単純に自分がやりたい音楽をやり続けて、それがそのまま国境を超えて広がっていけばいいなと。アメリカであろうが、ヨーロッパであろうが、自分の音楽を表現し続ければどこにだって届くと思っています。アバウトだけどこれが一番明確な目標で、そのための努力は全然惜しまないつもりです。あとは飛び級しない感じで、今やっている仲間から、その仲間の仲間と仲が良くなって曲を作って広がっていくのがベストですね。仲良くならなければ取って付けたようなサウンドになるから、たとえ一緒にやりたかったプロデューサーでも、仲良くならなければやらないと思います。時間はかかるだろうけど、時間をかけないとダメなんです。……文字にすると気合が入りすぎてるように伝わっちゃうかもですが、要はゆるく自分らしくってことですね(笑)。