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希代のシンガーSIRUP 気負わず描く青写真

 2017年9月に発表した「Synapse」で彗星のごとく現れた大阪出身のシンガー・ソングライターSIRUP(シラップ)が、日に日にその存在感を増している。SIRUPは、KYOtaro名義での10年間の活動を経て、2017年に「Sing」と「Rap」の造語である今のアーティスト名に改名。その名の通り歌うようにラップするボーカルスタイルと、R&BやHIP HOP、ソウルなどのブラックミュージックのテイストを融合させながらも雑多感を感じさせない心地よいメロディー、そして個性的な歌詞で、感度の高いリスナーを魅了してきた。

毎シリーズ起用する楽曲のセンスがいいと話題のホンダの「ヴェゼル」TVCM。SIRUP自身も出演している

 今年に入ってからは、ホンダのTVCMに「Do Well」が起用されたことでお茶の間にもその名を広め、5月には同楽曲が収録された自身初のフルアルバム「FEEL GOOD」をリリースするなど波に乗るSIRUP。そんな注目株の彼に、アーティストのルーツからアルバムに込める思い、そして大好きだと話すファッションについてまで話を聞いた。

WWD:SIRUPとして活動する以前はKYOtaro名義で活動していましたが、そもそもアーティストになったきっかけを教えてください。

SIRUP:10代の頃から趣味や遊び程度に音楽はやっていたんですが、「アーティスト一本で飯を食っていこう」と決意したのが20歳のときです。それから10年間KYOtaroとして活動し、2017年からSIRUPとしてスタートしました。

WWD:10代の頃に音楽をやっていたというのは?

SIRUP:中学・高校と吹奏楽部に入っていたんです。中学ではもともとソフトテニス部に入部したんですけど、うまい子しか生き残れない状況とルールでそれが面白くなかったんですよね。それで悩んでいたら周りの友達が吹奏楽部に入部していたのと、当時、宇多田ヒカルさんやMr.Childrenさんが好きだったので「じゃあ俺も」と。パートはトロンボーンで、中学の活動は遊びみたいな感じでしたけど、高校は部長になったりと本気でやってました。始発で行って学校が許す時間ギリギリまで練習する生活を3年間続けて、成長期なのに5〜6kg痩せたくらい(笑)。でもこの時に本気で音楽と向き合うことを知って、今もその基礎が生きています。

高校は兄と同じだったんですけど、兄の友達の吹奏楽部のOBがR&B好きでスティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)とアリシア・キーズ(Alicia Keys)を教えてくれたんです。音楽を一番吸収する高校時代の3年間は、毎日この2人を聴いてましたね。もちろんそのほかにも聴いてたんでしょうけど、その記憶がないくらい聴き込んでいて、今の僕の歌に影響を与えてくれています。大学時代はブラックミュージックを主軸にジャンルを問わずいろいろ聴いて、ネオソウルだったらミュージック・ソウルチャイルド(Musiq Soulchild)、エリカ・バドゥ(Erykah Badu)、ディアンジェロ(D'Angelo)、モス・デフ(Mos Def)、ジル・スコット(Jill Scott)とかですね。ゴリラズ(Gorillaz)やタヒチ80(TAHITI 80)なんかも聴いてました。

WWD:吹奏楽部でトロンボーンを吹いていたSIRUPさんが、なぜ歌うことに?

SIRUP:高校1年生のときに兄と行ったカラオケでスティーヴィー・ワンダーを歌ったら「お前めちゃくちゃうまいやん。絶対歌をやったほうがええで」って言われて、そこから歌うことを意識をするようになったんです。その後、高校を卒業するタイミングで兄がオーガナイズする音楽イベントがあって、「とりあえず出てみ?」って言われたので自分で曲を作って出たんです。

WWD:その頃は今のように音楽ソフトやアプリが気軽に手に入る時代ではありませんが、どうやって作曲したんですか?

SIRUP:兄に「作曲ってこういうもんだから」って、いろいろなレコードを聴いて好きなインストを見つけたら鼻歌でメロディーと詞をのせて作ったのは覚えてるんですけど、詳しいことは全然覚えてないです。作ったのは確か3曲で、R&B調でした。でも吹奏楽をやっていなかったら曲を作ろって気持ちも湧かなかったでしょうし、やっぱり吹奏楽は礎ですね。ただ言えることは、今はメロディーや歌詞をiPhoneでメモしたり録音したりするけど、当時は脳内だけでなんとかする原始的なやり方だったってことです(笑)。

WWD:お兄さんの存在は大きいようですね。

SIRUP:兄はラッパーをやりながらレゲエからエレクトロまでDJをやったり、音楽的な影響は受けていないんですが存在としては大きいですね。音楽的な影響でしいて言うなら、日本語ラップは兄の影響でいろいろ知りました。

WWD:その後、KYOtaroとして活動するまでは?

SIRUP:いろいろ中途半端に活動していたんですが、一念発起したんです。「本気でやろう。このままじゃ趣味で金を使ってるだけで無駄だ」って。関係も何もかもゼロにして、KYOtaroと名乗るようになったのが20歳のときです。

WWD:SIRUPに改名した経緯は?

SIRUP:10年間KYOtaroとしてやってきて、活動をやめようかと思っていたときに事務所が決まったんです。それまで事務所に入ったことがなかったし、KYOtaroって名前にも飽きていた。それにKYOtaroとして最後に出したミニアルバム「ROOM」がアコースティックのR&B系の歌モノで、そこから次に作りたかった曲が明らかに異質なものだったから、いろいろタイミングが重なったということで改名しました。

音楽的な話をすると、基本的にそのときに自分が好きな音楽性と気持ちで歌っているので、10年間KYOtaroとして活動する中で徐々にやりたいこともやり方も変わってきたんですよね。KYOtaroのときにトラックメーカーとやっていた作業は、自分の脳内にあるものをそのまま音にしてもらうことがメインだった。それがSIRUPになってからは、トラックメーカーの特質と自分の個性だったりやりたいことをミックスして、オリジナリティーを生んでるって感じです。

WWD:名前の由来は?

SIRUP:「Sing」と「Rap」の間って意味と、コーヒーとかに付いてくるシロップが由来です。音楽って誰かと一緒に完成させるもので、僕はこれからも自分だけで音楽を作り上げることはないと思っていて、誰かと一緒に作ることに良さを感じています。シロップってそのまま飲まないで、コーヒーに入れたり料理にかけたりするじゃないですか?その完成の意味合いとかけてるんです。

WWD:それまでのR&Bテイストにラップの要素が含まれるようになったのはいつごろから?

SIRUP:意識的に聴き出したのが3〜4年前で、それまではラップを聴いてるけどサウンドを重視して聴いてることが多かったんです。それに、自分自身が曲を作る時に詩を詰め込みがちなので削ることが多く、歌うときもグルーヴを意識しているのもあって、知り合いのラッパーには「めっちゃラップうまそう」って言われ続けてました(笑)。声質的にもラップのムードを持っていたり、いろいろなピースが徐々にハマったんだと思います。それで今の事務所に入って最初に言われたことが「一番好きなことをやってください」で、自然とやったのがラップのフロウだったんです。

WWD:KYOtaroからSIRUPへと改名し、しがらみが解けたと。

SIRUP:そうですね。音楽の流れ的にずっとラップの要素を持っていたのと、単純に今一番いい音楽が集まるジャンルがヒップホップというトレンドもあると思います。あとは、ずっと一緒にやってるトラックメーカーMori Zentaroのジャッジです。何か新しいことにチャレンジするときは彼のジャッジを信じているんですけど、それまでラップのデモを彼に送っても何も手応えがなかったのに、急に「めっちゃいい」って言われ始めた。こうやっていろいろな点が固まり、自分のスキルも追いつき、スタンスも確立し、自分のオリジナリティーにハマったのが“SIRUP”なんです。

WWD:作曲の流れは?

SIRUP:曲によりますけど、トラックがほとんど先でメロディを後からのせます。土台のイメージをトラックメーカーと一緒に作り、構成とか音色は任せて、言葉は最後にのせるイメージです。メロディーが思いつくのは圧倒的にシャワーを浴びているときが多くて、飛び出してボイスメモに録音したりするから部屋の床がよくビショビショになります(笑)。でも面白いのが、録音したりメモしたものは意外とあとで使わないんですよね。これって本当にいいモノは忘れないからなんだと思います。

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