「モデルは何歳以上であるべきか?」がファッション業界で議題に上がっています。「グッチ(GUCCI)」や「バレンシアガ(BALENCIAGA)」などを擁するケリング(KERING)が5月に、傘下ブランドのファッションショーや撮影に18歳未満のモデルを起用しないことを表明したことが発端でした。
それに対して「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「ディオール(DIOR)」の親会社であるLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(以下、LVMH)は「16〜18歳のモデルを起用することは問題ない」とケリングに異を唱えて、今後も16歳以上のモデルを起用することを発表しています。
そもそも16歳、18歳のボーダーラインはどこからきたのでしょう?それは2年前の2017年に、ケリングとLVMHが共同でモデルのウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好で幸福な状態)確保のための憲章を共同で策定したことです。ライバルである両社が共に憲章を出すのは史上初めてで、業界で大きな話題になりました。
これによって決まったのは、16歳未満のモデルをファッションショーや撮影に起用しないこと、16〜18歳のモデルに22時〜翌6時の勤務をさせないこと、エージェンシーが指定する監督者または保護者が立ち会うこと、18歳未満のモデルは監督者または保護者と同じ施設に宿泊すること、モデルが就学義務を確実に履行することをエージェンシーに要求することなど。未成年モデルの労働環境を改善する策が明確になりました。
この憲章では、“痩せすぎモデル”の起用の全面禁止も定めました。そして、ファッションショー開催前の6カ月以内に発行された健康診断書の提出を各モデルに要請すること、サイズ34(フランスのサイズ基準)以上の女性モデル、サイズ44以上の男性モデルを斡旋することなどを求めることが決められました。
ケリングのフランソワ・アンリ・ピノー(Francois Henri Pinault)=会長兼最高経営責任者(CEO)はこれを定めた際に「この憲章は業界にはびこるモデルの痩せすぎ問題と、特に拒食症問題を終わらせる大きな一歩だ」と語っていたのです。
ケリングはなぜ、
18歳以上を起用するの?
モデルを取り巻く環境は、ランウエイショーや広告ビジュアルで見る華やかなものだけではありません。フォトグラファーらによるセクハラや、キャスティングでの不当な扱い、不健康なほどの痩身など、ファッション業界におけるモデルの就労環境やモラリティーの観点からも批判の声が上がっています。
特に若年層のモデルは被害に遭いやすい傾向にあります。とある国内のモデル事務所のマネジャーが「モデルは常にプレッシャーとの闘いです。オーディションでは廊下に並べられて、指でさされて選ばれることもあり『とても傷ついた』と泣いて帰ってくるモデルもいます。撮影やショーでは待ち時間が長く、早朝の撮影があれば、深夜までフィッティングにも参加します。今やSNSでは、容姿や体形をはじめさまざまなことで誹謗中傷を受けることもあります。それがストレスとなり、若いうちからアルコールやタバコ、ドラッグにまで染まってしまう子もいるのも問題視されています」と語っていたのが頭に残っています。
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業界のプロの声は?
「モデルの起用は18歳以上」というケリングの表明に対して、業界の人たちはどのような意見を持っているのでしょうか?TBSのバラエティー番組「林先生の初耳学」内の人気コーナー「アンミカ先生のパリコレ学」に出演する、元パリコレモデルのアンミカをはじめ、17歳でニューヨーク・コレクションデビューを果たし、ラグジュアリーブランドのファッションショーの出演や広告撮影を数多くこなす冨永愛、東京コレクションを経て、現在はパリコレを発表の場にするファッションブランド「ビューティフルピープル(BEAUTIFUL PEOPLE)」の熊切秀典デザイナーの3人に聞きました。
アンミカ/タレント、モデル
「実際に、ラグジュアリーブランドの服をリアルに身にまとう年齢を考えた時に、18歳未満のモデルが着ているというのはリアリティーがないとは思っていました。"モデルは若いほどよい"という価値観を排除し、モデルの年相応の美を認めるという意味でも前向きな一歩かと思います。モデルの雇用、労働環境を守るためにも精神的、身体的に少しでも大人になってからの活動の方がいいと思います」といいます。またマイナスの影響について「モデルの個性によっても旬があるため、18歳未満で美や個性の旬があった人はチャンスを失うかもしれません。でも、マイナスよりプラスの影響の方があると思います。ファッション界最高峰のパリコレだからこそ、大きな影響があり、たくさんの人の目に触れます。18歳未満の子が春夏コレクションで、それなりに肌の露出が多い服が当たってもプロ意識として断ることは難しい。そのあたりの心身の影響なども心配していました。今の子は成熟が早く、18歳以下で体が出来上がっているモデルも多いですが、精神的には成熟していないところもあるので、関わる全ての人に大きなプレッシャーがかかるパリコレでの仕事は心配でもあります。コレクションの中で多様性を表現するときに、18歳未満のモデルをあえて1人、2人、スポットで起用することでストーリーを作って、表現したいショーもあると思います。モデルの年齢制限は、そういったデザイナーの表現にも制限をかけてしまうこともあるのが懸念点です」。(※アンミカさんの個人的な意見であって、番組「林先生の初耳学」の意見ではありません)
冨永愛/モデル
「私の経験上、モデルの労働環境は決してよいといえるものではなかったこともあるので、自己判断能力が成熟していない若年のモデルを起用しないことは、権利を守るための一つの解決策ではあると思います。しかし、10代の表現者としての活動の場が狭くなってしまうのではないかと思う側面もあります。18歳未満16歳以上のモデルに関して、労働環境を保護できるような規定を設けるということも一つの案だと思います」。
熊切秀典/
「ビューティフルピープル」
デザイナー
「東京でコレクションを発表していたときは『この子は18歳になったら東京には来ないいいモデルだよ』と聞くことがあり、その頃からすでにヨーロッパでは18歳未満のモデルの仕事は少ないから、東京に若いモデルさんが集まるということは聞いていました。実際、3年前にパリで発表を始めてからは、18歳未満のモデルさんは拘束時間に制限があったり、21時以降の撮影はNGだったり、 キャスティングディレクターからは『あまり起用しない方がいい』という雰囲気が当たり前だったので、今後もパリでは変わることはないかと思っています」という熊切デザイナー。一方で「今年久しぶりに東京で発表した際、東京にいるモデルがストリート系の若いモデルばかりで、未熟なモデルが集まっているような感じで、なかなかいいモデルがそろいませんでした。今後東京で発表する場合にはダイレクトブッキングで呼ばなければならないと思いましたが……、ラグジュアリーブランドが18歳未満のモデルを使用禁止にしたら、東京にさらに若いモデルが集まってくるのではないかと危惧しています」と明かした。
読者の回答は?
「WWDジャパン」の公式インスタグラムとツイッターでは、モデルの起用適正年齢についてアンケートを行いました。インスタグラムでは「ランウエイモデルは何歳以上だったらOK?」の質問に対して、16歳以上が61%、18歳以上が39%。一方でツイッターでは16歳以上31%、18歳以上が37%、20歳以上が18%と、18歳以上と回答する人が多く、意見が分かれました。
自由回答で集まった意見は以下の通り
【18歳以上】
「ケリングがこの宣言を出したのは近年の未成年モデルたちの未来に少なからず悪影響があったからではないでしょうか。16歳と18歳では思考、判断能力に大きな違いがあります。早くから芸能活動・モデル活動をすることにより、周りのプレッシャーや注目、批判に耐えられるかどうか、また学業は疎かにならないか、未然に防ぐために年齢を引き上げるのだとしたら18歳以上であるべきだと思います。ただ、日本では16歳から非正規労働者(アルバイトや派遣)として働くことはできるので、『なぜモデルは18歳以上から?』ということに異議を唱えざるを得ないでしょう。発展途上国からのモデルの中には家族のサポートをするためにモデルとして働く子もいます。そういった子たちの夢が先延ばしになってしまうのは残念な気がします」
「18歳以上であるべきだと考えます。理由は肉体的、精神的にも思考や身体が成長途中であるからです。しかし家庭環境や生活状況により働くことを余儀なくされ、またモデルとしての職業を熱望する人が、採用される場合は保護され、整った環境の中で働くことはいいと思います」
「いろいろ問題があるならば18歳以上でいいと思う。どうしても16歳以上でなければいけない理由は見当たらない」
「18歳未満では低年齢から高級ブランドに手を出していいと世間に言っているようなもの。教育上よくないと思う」
「若すぎるモデルの起用は“美しい=若い”の固定観念につながってしまうと思う」
「ケリングの決断はファッション業界を健全なものにしようとする精神の表れだと思う」
「身に着けるモデルの年齢と実際に購入する人の年齢が近くなることはいいことだと思う」
【16歳以上】
「18歳以上にしたところで何が変わるのだろうか。モデルの環境は今まで通り変わらない」
「過度なスタイル維持を求めなければ16歳以上でもいい」
「オリンピック出場と一緒で16歳でも構わない。金メダルが取れて、世界を制する力があるということなのでは?」
「若い才能が活躍できる場が広がるので、LVMHの考えに賛同する」
「16歳以上、ただしアフターパーティーなどお酒の出る場への入場はNG」
「多様性を重視する世の中で夢を持った18歳未満のモデルが起用されないのはおかしい」
「BMI(肥満度を表す指数)で健康上の管理をするなら年齢規則は必要ない。若いモデルの貴重な機会を奪うことになる」
「18歳未満は夜中の仕事はさせない、露出の多い服は着用させないなどのルールは必要だと思う」
「18歳で成人を迎える国も多いから。モデルの職業のチャンスをつぶさないでほしい」
【その他】
「32歳。キャリアを積んで若々しくもなく、ベテラン過ぎでもないベストな状態だから」
「19歳以上であるべきだと思う。18歳まではモデルもしっかりと教育を受けるべき」
「いくつであろうと制限はなくていいのでは。逆に老人が出てもいいと思う」
「若い才能はどの業界にもある。その才能を守る仕組みを作るのが大人の役割なのかもしれない」
「一つ一つのブランドのコンセプトに基づいて、自由であるべき」
「すごみがあれば何歳でもいい」
「10代から舞台に立つバレリーナたちと同じように、表現者として考えれば問題はない」
「若いうちの経験は本当に大事。成功も失敗も早い方がいい」
「若いモデルを守ることも大切だが、若いうちにキャリアを積みたいというモデルたちの意思も尊重したい」
「年齢制限を定める意味が分からない」
「ファッションに年齢は関係ない」
「年齢ではなく、その人個人のレベルで選んでほしい」
「年齢で判断されるのは悲しい。実力で判断するべき。認められることを恐れてはいけない」