アメリカファッション協議会(COUNCIL OF FASHION DESIGNERS OF AMERICA、以下CFDA)は、香港最大手デベロッパー新世界発展(NEW WORLD DEVELOPMENT)の創業家3代目で起業家のエイドリアン・チェン(Adrian Cheng)を初のグローバルアンバサダーに任命した。任期は4年でCFDAの教育プログラムをサポートし、米デザイナーの中国およびアジア全体での活動を支援する重要な役割を担うという。「僕の野望はアート、文化、建築、デザイン、伝統、職人技、そしてサステイナビリティーを通じて変革的な影響を与えるコミュニティーの形成だ。CFDA初のグローバルアンバサダーになって、グローバルな視点で米ファッションの次世代の才能を育成し、加速するために働けることは光栄だ」とチェン氏はコメントした。
アジアとの架け橋にもなる同氏とのプログラムは4つ。学生デザイナーを対象とした「エイドリアン チェン フェローシップ(ADRIAN CHENG FELLOWSHIP)」、チェン氏が展開する事業を通して中国や香港でのビジネスが経験できるプログラム「ザ エイドリアン チェン アプレンティスシップ(THE ADRIAN CHENG APPRENTICESHIP)」、23週間のニューヨークでのクリエイティブ プログラムが用意される「エライン ゴールド ローンチ パッド(ELAINE GOLD LAUNCH PAD)」、定評のあるデザイナー4人を選出し香港のK11ミュジア(K11 MUSEA)でポップアップショップを開催する「CFDA X K11 リテール ラボ(CFDA X K11 RETAIL LAB)」を主軸に、国境を越えた革新的なビジネスモデルとアプローチの創出を目的とした一連のプログラムや制度、奨学金を展開する。
選考条件の設定から選考委員会や特別アドバイザーなどで包括的に携わるチェン氏は「アジア市場を理解するためには市場に没頭する必要がある。中国は世界最大のリテールマーケットだ。デザイナーにはミレニアルズとジェネレーションZ、そして その下のアルファ世代を理解することも求められる。市場とビジネスモデル、消費者像、若い世代の思考を理解し、技術を真に磨く経験となるだろう。私のビジョンはイノベーション、クリエイティビティーと文化を通じて消費者の日常生活を真に豊かにし、東と西の架け橋となってCFDAのためにより大きなプラットフォームを築くこと。そうすることで才能ある人々がグローバルな基盤を持つことができる」と語った。
チェン氏は2008年に投資会社などを含む多角的企業K11グループ(K11 GROUP)を創業。同社は“香港のハドソンヤード”と呼ばれ米メディアも注目する巨大複合施設のビクトリア ドックサイド(VICTORIA DOCKSIDE)や、世界有数のアートコレクションをそろえ、インターナショナルブランドの多くがフラッグシップを構える予定のミュージアムリテール施設K11ミュジアなど24年までに中国の9つの主要都市で36のプロジェクトの展開を控える。また17年に立ち上げた投資会社Cベンチャーズ(C VENTURES)では、ミレニアル世代とジェネレーションZに強いブランドやプラットフォームの買収を目指すという戦略の下、ライフスタイルやテクノロジー、メディアといったブランドの分散的な買収と投資で活発な動きを見せ、EC企業のモーダ・オペランディ(MODA OPERANDI)やヨーホー(YOHO!)、デイズド(DAZED)、そしてビューティコン(BEAUTYCON)などを投資のポートフォリオに加えてきた。同氏は新世界発展の副主席と、一族が経営するジュエリーグループ周大福(CHOU TAI FOOK)のエグゼクティブ・ディレクターも務める。
スティーブン・コルブ(Steven Kolb)CFDAプレジデント兼最高経営責任者(CEO)は、今回のアンバサダー任命を「われわれにとって大規模で主軸になるプロジェクトであり関係性だ。アジアは米デザイナーにとって最も案内役が必要な市場だ」と語る。「グローバリゼーションとビジネス能力の重要性は理解しており、この決定は地に足のついた人材や知識と経験の獲得、そして米国デザイナーとの仕事への興味を喚起する一助になるだろう。われわれは学生からブランド設立までデザイナーのライフライン
とキャリアを支援する。チェンはそういった面でわれわれを助けてくれるだろう」と期待を寄せる。
大根田杏(Anzu Oneda):1992年東京生まれ。横浜国立大学在学中にスウェーデンへ1年交換留学、その後「WWD ジャパン」でインターンを経験し、ファッション系PR会社に入社。編集&PRコミュニケーションとして日本企業の海外PR戦略立案や編集・制作、海外ブランドの日本進出サポート、メディア事業の立ち上げ・取材・執筆などを担当。現在はフリーランスでファッション・ビューティ・ライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を行う。