フェイスブック(FACEBOOK)は6月18日、ブロックチェーン技術を利用した仮想通貨リブラ(LIBRA)を2020年に提供することを発表した。
リブラは現実の通貨と一定比率で交換できる「ステーブルコイン(Stablecoin)」であるため、ユーザーは資金をリブラに替えて「フェイスブックメッセンジャー(Facebook Messenger)」や「ワッツアップ(WhatsApp)」などのフェイスブックアプリで簡単に送金できる。またそうした特徴から、銀行口座を持たない層にも金融サービスを提供できるという。
現在は開発の初期段階にあるが、リリース後の運営は独立した非営利団体のリブラ協会(Libra Association)が担う。同協会の創設メンバーには、フェイスブックのほかにもイーベイ(EBAY)やボーダフォン・グループ(VODAFONE GROUP)、スポティファイ・テクノロジー(SPOTIFY TECHNOLOGY)、ウーバー(UBER)などのテック系企業と、ビザ(VISA)やマスターカード(MASTER CARD)、ペイパル(PAYPAL)などのクレジットカード会社や決済サービス会社に加えて、ラグジュアリーEC大手のファーフェッチ(FARFETCH)などの約30社が参画している。
ステファニー・フェア(Stephanie Phair)=ファーフェッチ最高戦略責任者(CSO)は、「フェイスブックは、安定していて拡張性のあるブロックチェーン・プラットフォームとして成功する条件を備えていると感じた。創設メンバーはそれぞれの分野のリーディングカンパニーであり、ぜひ参画したいと思った。当社もファッション業界をけん引するテック企業と目されていると思う」と語った。
リブラは銀行口座を持たないユーザー同士の送金や決済を可能にするため、国際的な送金ネットワークとなり得ることを考えると、金融業界に大きな変革をもたらす可能性もある。しかしラグジュアリー業界が注目するのは、そのスムーズなEC決済機能だ。
フェアCSOは、「リブラ協会は、世界に何百万人といる銀行口座を持たない人々にも金融サービスを提供することを理念の一つに掲げており、当社もそれに賛同している。また当社は国境を越えて事業を展開しているため、常に新たな決済システムやテクノロジーに注目している。リブラのように、スマートフォン内にある“財布”から国境を越えて決済できるのは面白いアイデアだと思った」と説明した。
ラグジュアリー業界は必ずしも新しいテクノロジーに適応するのが早いわけではないが、仮想通貨などのブロックチェーン技術に関しては消費者からの要望が高まることが予想されるため、小売りやファッションブランドも対応せざるを得ないだろうとフェアCSOは語る。「ファッション業界は以前より消費者主導になっているため、その需要に迅速に対応する必要がある。取引や決済手数料を安く抑えたいという消費者の要望によって、仮想通貨システムへの適応が進む可能性がある」。
仮想通貨の運営には強固な情報保護が求められるが、情報流出が続くフェイスブックが関わっていることで不安に思う消費者もいるだろう。しかしフェアCSOは、「運営を担うリブラ協会において、データへのアクセス権や投票権など、フェイスブックもほかのメンバーと同様の権限しか持たない。当社は情報保護を最重視している」と話した。
ジョゼ・ネヴェス(Jose Neves)=ファーフェッチ創業者兼最高経営責任者は、「ブロックチェーン技術を活用することで、知的財産権の保護や製造工程の透明性を高めることが可能になるなど、ラグジュアリー業界にも大いに利点がある。また仮想通貨リブラの導入は、グローバルなEC決済をスムーズにしてくれるだろう。創設メンバーとして携わることでいろいろと学び、ほかのブロックチェーン関連プロジェクトも推進していきたい」と語った。
フェアCSOも、ブロックチェーン技術によってサプライチェーンの追跡や真贋の確認が可能になる点に着目しているという。「製造工程の記録を正確に追跡できるようになれば、より倫理的な選択が可能になる。またファッション業界にとって偽造品の流通は利益を損なう大きな問題である上に、偽造品の製造に投入される資金は人身売買や組織犯罪などの深刻な犯罪とつながっている場合が多い。テクノロジーの進化によって製品の真贋が確認できるようになれば、偽造品の市場を縮小できる。それに加えて、今はまだ誰も気づいていないさまざまな用途があるかもしれない」と述べた。
LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)や、コンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT)が擁する高級ウオッチブランド「ヴァシュロン・コンスタンタン(VACHERON CONSTANTIN)」も、真贋の確認や製造工程の追跡にブロックチェーン技術を利用した仕組みを導入することを5月に発表している。