ロエベ財団(LOEWE FOUNDATION)は6月25日、東京・草月会館で同財団が主催する「インターナショナル クラフト プライズ 2019(International Craft Prize 2019以下、ロエベ クラフト プライズ)」の表彰式を行った。表彰式の開催場所は、第1回のスペイン・マドリード、第2回の英国ロンドンに次いで3回目の今回は東京が選ばれた。
グランプリを受賞したのは、1982年京都生まれで京都を拠点に活動する石塚源太さんで、アレックス・ブログデン(Alex Brogden)が手掛けたトロフィーと賞金5万ユーロ(約610万円)が贈られた。日本人がグランプリを受賞するのは今回が初めて。受賞作品は、何層にも塗り重ねられた漆の深みと透明感が引き立つオブジェで、球体を連ねたような愛嬌のあるフォルムが魅力的だ。
“漆の長い歴史に参加できる作品を”
石塚さんは「漆の艶を強調しながら奥行きを出した」と言う。ポコポコとした形状のインスピレーション源は、「スーパーマーケットのメッシュ袋入りのオレンジ」だそうだ。作品は球体の発泡スチロールを布でくるみ、その上から麻を重ねてさらに漆を何層にも塗って作った。「7世紀から続く漆の技法を2018年(作品に取り組んだ年)のタイムラインで表現した。漆の長い歴史に参加できる作品にしたい」と語った。また賞金については「アトリエが手狭になってきたので引っ越し費用にする」という。
“今、この時代に何が起きているかを伝える作品”
このプライズを16年に発案したジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)=「ロエベ」クリエイティブ・ディレクターは、授賞理由を「歴史ある漆の知識が深く、それを次世代の作品として作り出していた点がすばらしい。審査員の間でも彼の作品は、今この時代に何が起きているかを伝えるものだと評価された。次世代のクリエイションとは、タイムレスなシェイプであり作品だということ。1000年前、あるいは1000年後、どの時代に存在していても不思議ではない作品だった。アーティストの課題の一つは、過去をどのように現代や未来に持ち込み表現していくかだと思うが、彼はそれを上手に見せていたと思う」と称賛した。
このプライズは今日の文化におけるクラフト (工芸) の重要性を認識することと、未来の新たなスタンダードを創出する革新的な才能やビジョン、意志を有するアーティストを評価することを目的としている。今回は、100カ国以上の2500を超える作品の中から29人のファイナリストが選ばれ、そのうち日本人は過去最多の10人が選出された。応募作品数は前年に比べ44%増え、国別では日本からの応募が最も多かったという。
“クラフトとは人間が自己を表現する基本的なこと”
アンダーソンは、「クラフトとは人間が自己を表現する基本的なこと。みんなが持っている才能だし、料理するときも、服を作るときも、陶器を作るときにもクラフト心があると思っているよ。みんなが何かを作りたいと思っているし、それに関わりたいと思っている。クラフトはもっとサポートされるべきで、『ロエベ』のような大きなブランドが、人々がクラフトについて対話するためのプラットフォームを作ることが大切だと思いこのプライズを立ち上げた」と語った。
ファイナリストを選ぶ審査は、スペインの大手新聞「エル・パイス(El Pais)」の建築とデザイン担当評論家のアナツ・サバルベルコア(Anatxu Zabalbeascoa)選考委員長をはじめとする9人の専門家で構成される委員会が、マドリードで2日間にわたり全ての応募作品を審査して選出。その選考過程では、技術的成果、革新性および芸術観という点が重視されたという。
その後、深澤直人デザイナー兼日本民藝館館長、建築家でプリツカー賞審査員のベネデッタ・タグリアブエ(Benedetta Tagliabue)氏、デザイン・ミュージアム(ロンドン)館長でエッセイストのディヤン・スジック(Deyan Sudjic)氏、アンダーソン=クリエティブ・ディレクターらによって25日朝に「白熱した会議が行われ」(深澤直人氏)、優勝者が決定した。特別賞には、1990年英国マンチェスター生まれのハリー・モーガン(Hurry Morgan)さんと、72年名古屋生まれの高樋一人さんが選ばれた。受賞作品とファイナリストの作品は、6月26日~7月22に同会館のイサム・ノグチが手掛けた石庭「天国」で展示される。
■インターナショナル クラフト プライズ
日程:2019年6月26日~7月22日(無休)
時間:10:00~19:00(金曜のみ20時まで)
会場:草月会館
住所:東京都港区赤坂7-2-21
入場料:無料