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「ノア」創業者ブレンドンインタビュー前編 「選択は自由。『ノア』を選ばない人がいたとしても、僕はそれで構わない」

 東京の裏原宿に「ノア クラブ ハウス(NOAH CLUB HOUSE)」がオープンしたのが2017年9月。それから1年数カ月を経て、「ノア(NOAH)」が東京では初めて、2019-20年秋冬コレクションを関係者向けに披露した。創業者であるブレンドン・バベンジン(Brendon Babenzien)の“元「シュプリーム(SUPREME)」クリエイティブ・ディレクター”という経歴が、否応にもブランドの注目度を高めるきっかけになったが、最近の「ノア」の動向を追うと、環境問題や社会情勢といった、スケートボードカルチャーにとどまらないモノ作りの姿勢に注目が集まっているように感じる。あらためて、「ノア」とは何か?「『シュプリーム』のことを聞かれるのには飽きたよ」と笑う来日中のブレンドンが「ノア クラブ ハウス」で話してくれた。今回は、その前編。

WWD:来シーズンのコレクションのコンセプトは?

ブレンドン・バベンジン(以下、ブレンドン):実はシーズンごとのコンセプトは作らないんだ。自分たちのことをファッションブランドだと思っていないからね。昔ながらの考え方かも知れないけど、服は長く着るものだと思っているから、“今”ではなく、常に同じものがある。シーズンごとに解釈は変わっても、全て僕が子どものころからなじんできたようなスポーツや音楽をベースにしていて、そこから離れた製品は作らない。僕はいわゆるトレンドの洋服には興味がなくて、長く残ってきたものが好きなんだ。

WWD:ではインスピレーション源は何ですか?

ブレンドン:伝統的なプレッピースタイルとか、ニューウェーブやパンクとかの音楽、それにスケートボードやサーフィンといったアクティビティーからインスピレーションを受けている。「ノア」にはシーズンごとのテーマもなければ年齢での区切りもない。僕は今47歳だけど、音楽やサーフィン、スケートボードなんかは子供どものころからやってきたわけで、そうしたものはずっと僕とともにある。今でも若い気がしているし(笑)。つまり同じカルチャーを共有している若者と大人の両方が着られる服という感じだね。僕は今もスケートボードやサーフィンもするし、ランニングもするし、新しい音楽も聴く。僕の日常はティーンエージャーの日常と変わらないときがあるんだ。そういう人たちに向けた服を作っている。

WWD:スケートボードに興味を持った理由は?

ブレンドン:世界で最も素晴らしいことだから!今となってはスケートボードよりもサーフィンを多くやっているけれど……そうだな、1950~60年代までさかのぼってみると、スケートボードはさまざまなものの進化にものすごく貢献しているんだ。僕は、スケートボードやスケーターは最もクリエイティブな存在だと思っている。誰かが新しい技のやり方を教えてくれるわけじゃないし、街の造りもそもそもスケートボード向きじゃないのに、みんな自分たちで遊びながら発明していった。それはとてもクリエイティブなプロセスだよね。スケートボードを通して、さまざまな人種の子どもたちが一緒に遊んでいたりする。現在のユースカルチャーやポップカルチャーにとても大きく貢献していると思うよ。

WWD:スケートボードは若さの象徴ですよね。出身はNYのロングアイランドだとか。

ブレンドン:そう。家がビーチの近くにあったからサーフィンが好きなんだ。今ここ(ノア クラブ ハウス)に展示されているモノの多くは、当時のことがルーツになっている。たくさんサーフィンをして、スケートボードをして、ライブに行ったりしていたころの記憶をベースに作られているんだ。

WWD:スーツも作っていますよね。スーツはスケートボードと相反する感じがしませんか?

ブレンドン:でも、実は相反していないんだよ。そこがポイントなんだ。何かが好きだからって、何を着るべきかを誰かに指図されるなんて嫌じゃないか。スケートボードをするときにジャケットを着たいならそうするべきだよ。スケートボードカルチャーでは、誰かに「こうするべき」だなんて言ったりしないし、みんな何でも好きなものを着ればいい。何かのカルチャーに制服があるなんて考えはばかげているよ。それに市場のニーズもあるんだ。一般的なスーツはひどい出来だからね。退屈だし、生地やパターンで気に入るものがない。僕らは、そういうものとは一線を画したスーツを作っている。人間にはいろんな側面があるし、君もそうだろう?ニューウェーブもクラシック音楽もヒップホップも好きだったりする。人は何か一つのものだけが好きだったりはしないものだけど、ブランドはそれを決めたがる。ランニングが好きなら、こういう服装をするべし!みたいな。僕なんかは、時々フランネルシャツを着てランニングしていたりするよ。外が寒い時はその方が快適だし、エネルギーバーや鍵をポケットに入れておけて便利だし。どのみち、そのシャツの下に着ているアンダーシャツが機能性の部分を満たしてくれているわけだしね。だからランニング後にコーヒーを買うために近所のベーカリーに寄っても、ごく普通の服装をしているように見える。それが僕のやり方で、それは僕の選択なんだ。別の人には別の選択肢があって、そのどれもが間違っていないんだけど、ファッション業界は勝手に正解を決めて押し付けてくる。個性をはぎとろうとしているんだ。

WWD:今回のコレクションで特に思い入れの多いものは?

ブレンドン:たくさんありすぎるな(笑)。思い入れやストーリーがないものは、ここには1つもないからね。例えば、あそこにあるレコードのグラフィックは、80年代にマルコム・マクラーレン(Malcolm McLaren)が手掛けたヴォーギング(80年代にゲイ・クラブシーンで流行したクラブダンス)のためのアルバム「Waltz Darling」のジャケット用に作られたものなんだ。ティーンエージャーの頃、ニューヨークで夜遊びをしたりクラブカルチャーに触れたりし始めて、当然のようにゲイカルチャーと出合った。僕自身はゲイじゃないけど、ゲイコミュニティーがファッションや音楽、エンターテインメントなどのクリエイティブな分野に大きな貢献をしていることにとても敬意を抱いている。だから、そのアルバムには特別な思い入れがあるし、今聞いても古びていない。その下にある「Buy American(アメリカ製品を買おう)」のグラフィックは、アメリカ文化に対する批判的なものだね。景気もよくて、みんなハッピーで、アメリカが一番よかった時代だとされる50年代の風景が描かれているんだけど、よく見るとタバコと砂糖という非常に中毒性が高い製品も描かれている。現代人もニコチンやタバコ、砂糖の奴隷となっているわけで……。どれも本当に中毒性が高いものだから、そういう視点で見るとあれは皮肉でパンクなものなんだ。ここにあるものはみんな、何かしらストーリーがあるんだよ。

WWD:あのハエが描かれたTシャツも面白いですね。

ブレンドン:ああ、「Live now, die later(今を生きろ、どうせいつかは死ぬ)」のTシャツだね。とてもパンクだけど、考え方によってはとてもポジティブなメッセージなんだ。ハエは寿命がとても短くて、80年代のスケート関係のグラフィックには、ハエや虫がよく使われていた。いろんな意味が込められているんだよ。この中から何か1つ選ぶとしたら、ラグビー関係の製品かな。僕らが最初にビジネスを立ち上げた頃、誰もラグビーシャツを作っていなかったけど、僕にとっては子どもの頃からなじみのあるものだし、着る人や着こなしによって全然違う雰囲気になるTシャツのようなアイテムだね。ラグビーシャツの素材はとても耐久性があるんだけど、洋服を長く着るには生地も大切なんだ。ほかにも、ラグビーショーツやジャケット、帽子なんかもこのラグビークロス(生地)で作った。

WWD:グラフィックへの考え方を教えてください。

ブレンドン:グラフィックは、本当に興味深くて面白いよね。「ノア」では、これは人気が出るなという感じのグラフィックは扱っていない。もちろん、そうなったらいいなとは思っているけど(笑)。例えば、先ほどの「Buy American」というグラフィックのTシャツが売れるかどうかは分からないけど、僕にとっては大切なメッセージ。ただ面白いからという理由で使っているグラフィックもあるし、本当にメッセージを伝えたくて使っているものもある。たとえそのメッセージがほとんどの人に分かってもらえなくてもね。いずれにしても、ポイントはそれが特別だということと、ひどく商業的ではないということ。グラフィックに何らかの目的があることが重要だよ。そして、スケートボードや政治、アート、音楽と、あらゆるところからインスパイアされている。

WWD:あのクジラのイラストは(写真参照)?

ブレンドン:それは「Save the whales(クジラを救え)」という、いわゆるヒッピーっぽいメッセージだけど、ジョークなんかじゃない(ヒッピーのメッセージはあまりに消費されてしまって、もはやジョークみたいな扱いをされる)。クジラは今でも毎日、腹に大量のプラスチックが詰まった状態で砂浜に打ち上げられている。でも、ヒッピーみたいな感じでメッセージを発するのは、僕たちらしくないから、日本の本を参考にした。そこには、昔はクジラのいろんな部位を無駄なく使っていたと解説されているんだ。あと、これは牡蠣のキャラクター(オイスターヘッド)なんだけど、ニューヨーク港では牡蠣をよみがえらせようとしている。昔はたくさん採れて、ローワーニューヨークでは山盛りの牡蠣が1ペニーで買えた。今では港が汚染されてしまってもう育たないけれど、海をきれいにして10億個の牡蠣を育てようというプロジェクトがある。これは、そのプロジェクトについて会話のきっかけにしてほしいと思って作ったんだ。支援のために寄付もする予定だよ。だから、純粋に面白いだけのグラフィックもあれば、シリアスなものもあるし、スケートボードのためのものもあるし、いろいろだね。でも、どれも僕らが本当に関心ある事柄に基づいているし、何も知らないことについてはグラフィックを作ったりはしない。

WWD:環境問題にもとても積極的に取り組んでいますよね。

ブレンドン:環境保護や企業の社会的責任はもちろん重要だと考えている。環境保護を重視しているブランドと聞いてみんなが思い浮かべるのは、たぶん「パタゴニア(PATAGONIA)」だと思うんだ。オーガニックコットンを使っているとか、そういう話でね。それはそれで素晴らしいことなんだけど、「ノア」が自力でそこまでするにはブランド規模が小さすぎる。そこで、ブランドを立ち上げたときに考えたのは、とにかく品質の高い製品を作って、“より良い製品を買う、より良い消費者”となるよう顧客を啓発しようということだった。有名ブランドを着て、「『グッチ』を着ている私を見て」とブランド名で自分を語るのではなく、個人のスタイルに従って自分らしいルックを作ってほしいと思った。服のブランド自体は誰も知らないようなものでも、着る人がクリエイティブだったら、ちゃんとクールなルックになるんだよと示したかった。将来的には、もっと社会的に責任のあるテキスタイルや生産工程を導入することができるようになると思う。オーガニックコットンや再生コットン製のTシャツは今でも作っているし、ブランドの定番だからその分野をさらに拡大していきたい。ただ、現状では全ての製品がサステイナブルな素材で出来ているわけではない。「ノア」の将来は、“何を買うか”ということについて消費者がよりスマートになれるかどうかにかかっている。

WWD:最終的な決定権は消費者が持っていると。

ブレンドン:そう、消費者こそがパワーを持っているのに、そのことを忘れてしまっているんだ。広告やマーケティングを通じて、大企業や有名ブランドが僕らの生活をものすごくコントロールしてしまっているから、自ら「こういうものがほしいんだ」と意思表示できること忘れてしまっているんだよね。ただし、それにはものの考え方を根本から見直す必要がある。まず、自分自身の価値をどこに置くか。さっきも言ったけど、人は何を着ているかに価値を置いたりするだろう?(ブランド物を着ていると)いい気分になったり、周囲からも価値のある人間として扱われたり、みたいな。でも周囲からどう思われるかを気にせず、自分自身や自分の選択に自信を持つようにしないといけない。そして、より“個人”として立たなくちゃいけない。……でも、そうした“個人”として立っている人は、まだとても少ない。ほとんどの人は、まだ“フォロワー”なんだ。「ノア」は、そうした“フォロワー”ではなく“リーダー”となるよう、顧客をエンパワメントしたいと考えている。もちろん顧客は、僕らに対して「失せろ!」と言う権利も持っている。僕らのブランドを選ばないという自由があるし、そうした個人の自由を大事にした態度を推奨したい。僕らはみんな、巨大な企業の犠牲者だと思うから。僕たちは、そうした選択肢があることを人々に伝えたいし、ほかの人たちが話さないようなこうしたことを声に出すだけでも意義があると思っている。その結果として「ノア」を選ばない消費者がいたとしても、僕はそれで構わないと思うんだ。

WWD:NY店をオープンして約3年半経ちますが、考えに変化はない?

ブレンドン:立ち上げたときから変わっていない。みんな本当に“パンクは死んだ”と思っているけど、それは音楽のことだけを指しているから。物事に対するアティチュードやその理念は死んでいない。パンクとは、正しい選択をすること、そして自分らしくあることだと思う。人々に対して不当な行為をしている相手と戦うことなんだ。だから、僕にとってパンクは全然死んでいないよ。

(後編はこちら)

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