ファッション

無名の新人モデル佐藤凜汰朗が語る パリコレデビューの波乱万丈

 ツテもコネも実績もない全く無名の新人モデルが、念願のパリコレデビューを果たした。モデルの佐藤凜汰朗は、6月に行われた2020年春夏パリ・メンズ・コレクションで「メゾン キツネ(MAISON KITSUNE)」「リック・オウエンス(RICK OWENS)」「ヘド メイナー(HED MEYNER)」のショーに登場した。しかし、そこまでの道のりは険しく、東京ファッション・ウイークの参加ブランドに応募したモデルオーディションは全滅、モデル事務所も決まらず、5月に青山学院大学を休学してパリに人生で初めて乗り込み、背水の陣で臨んだモデル挑戦だった。苦境の中で、パリコレモデルの座をどのようにつかんだのか。佐藤に悪戦苦闘ぶりを聞いた。

WWD:モデルを目指したきっかけは?

佐藤凜汰朗(以下、佐藤):父(佐藤健二郎・旭化成パフォーマンスプロダクツ事業本部企画管理部繊維マーケティング室チーフコーディネーター)の影響で、小さいころからファッションに興味がありました。何かを教えられたわけではないですが、服にこだわりがある父のスタイルを近くで見ているうちに自然と関心を抱くようになりました。高校のころから海外コレクションの話題をファッション誌で読むようになり、「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」と「イッセイ ミヤケ メン(ISSEY MIYAKE MEN)」にあこがれました。大学1年生のとき、渋谷ロフトの前で、東京ファッション・ウイークに参加している「アクオド バイ チャヌ(ACUOD BY CHANU)」の李燦雨(チャヌ)デザイナーに声をかけられ、モデルをやってみたらと言われたのです。それから東京ファッション・ウイークのモデルを目指して、モデル事務所のオーディションを受けましたが全滅。それでもあきらめずに、日本モデルエージェンシー協会のサポートを得て数ブランドのオーディションを受けましたが、声を掛けてくれた「アクオド バイ チャヌ」を含め、全て不合格でした。やっとモデル事務所は決まったものの仕事に恵まれず、気持ちばかりが焦る日々が続きました。

WWD:東京でのモデル経験を経ずにパリコレ挑戦を決めた理由は?

佐藤:フランスに以前からあこがれがありました。ファッションはもちろん、とりわけ映画が好きで、ジャン・ユスターシュ(Jean Eustache)とレオス・カラックス(Leos Carax)の作品に感銘を受け、いつかフランスに行き芸術や文化に触れたいと思っていました。

WWD:大学を休学したのは、フランスでのモデル活動をするため?

佐藤:それもありますが、大学3年生になったとき、就職活動の時期を迎える中で自分は何をやりたいのか今後に不安がよぎり、自分を見つめ直し、将来を考えるために違う世界を見てみたいと思ったのが休学の理由です。父に打ち明けたのは、パリに出発するわずか1週間前でした。

WWD:フランスのモデル事務所は、どのように探した?

佐藤:インターネットでヨーロッパのモデル事務所を探して、主だった事務所にはすべてオーディションを申し込みました。しかしレスポンスがなく、唯一返信が届いたのがドイツのモデル事務所。6月初旬、20年春夏パリ・メンズ・コレクションの時期が近づいてきたので、まずパリに向かい、ドイツのモデル事務所のオーディションを受けようと思ったのですが、飛行機のトランジットで降りた中国でメールを見ると、「不合格です」という断わりの連絡が届きました。パリに着いたものの、コネもアテもない状況です。街を歩いていたモデルの後ろにくっついて、いくつかのブランドのオーディション会場に潜り込みました。世界から集まったモデルたちの中だと私の身長(184cm)は低い方で、みんな私よりスタイルがよく、個性豊かで圧倒されましたが、一方で“私は私。落ち込むことはない。自分らしさを出して勝負するしかない。ベストを尽くしてダメなら仕方がない”と強い気持ちになりました。最初のオーディション会場で、ドリス・ヴァン・ノッテン(Dries van Noten)に声を掛けられたことに勇気づけられ、“自分もできる”という自信につながりました。あらかじめリストアップしていたモデル事務所数カ所に飛び込み訪問を始めました。もともと所持金は航空チケット代も含めて30万円で、ダメならすぐ帰国しようと思っていましたが、その1軒目に向かったバナナモデルズ(BANANAS MODELS)が希望者が誰でもオーディションを受けられる“オープンコール”の日で、そこで思いがけず契約できました。複数のモデル事務所を回る覚悟だったので、1軒目で契約できたことは幸運でした。翌日からオーディションを受けまくって、6ブランドを訪問した日もあり、全部で30ブランドほど回りました。

WWD:ウオーキングなどモデルとしての訓練は?

佐藤;受けていません。ただ、これまでバレエ、水泳、サッカー、ボクシングなど、体を鍛えることとスポーツが得意だったことが役に立っています。

WWD:その結果、「メゾン キツネ」「リック・オウエンス」「ヘド メイナー」の3ブランドで採用が決まった。

佐藤:「ヘド メイナー」のファーストルックでデビューできたことは幸運でした。また、ショーのスタイリストの紹介で、パリのファッション誌「アンサンス・マガジン(ENCENS MAGAZINE)」の撮影にも起用され活動が広がりました。これまでメディアの情報でしか知らなかった華やかなファッションの舞台裏を体感できたのはいい経験でした。誰もが夢を必死で追いかけて、多くの人が苦労や情熱で乗り越えていることを知ることができました。

WWD:自分が合格できた理由は何だと思う?

佐藤:一つは、ロングのヘアスタイルかもしれません。最近のアジア人モデルは、坊主頭が多いので。

WWD:ちなみにギャラは?

佐藤:今回かかった渡航費などの費用約30万円を相殺できる程度。自分の所持金ですべてまかなうことができたので、両親にお金の迷惑をかけずにすみました。

WWD:今後の目標は?

佐藤:今回のパリ・メンズコレ後、ミラノのモデル事務所のオーディションを受けて契約できたので、来年1月の2020-21年秋冬シーズンはミラノ・メンズコレにも挑戦します。やれるだけモデルを続けたい。次の目標は、あこがれのブランドである「コム デ ギャルソン」と「イッセイ ミヤケ メン」のショーに出ること。来年は大学に復学します。将来は、映画監督を目指したいです。

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