アマゾン(AMAZON)は7月11日、2025年までに全従業員のおよそ3分の1に当たる10万人にトレーニングプログラムを提供すると発表した。費用は7億ドル(約756億円)程度を見込んでいるという。
現在、米国の失業率は3.7%と過去60年間で最低レベルであり、小売業界では人材確保が急務となっている。またテクノロジーの進化によって従業員に求められるスキルが変化しているため、必要とする人材を自社内で確保することも同社がトレーニングを実施する理由の一つだ。
トレーニングプログラムは、非IT系の職種に就いている従業員がソフトウエアエンジニアリングに必要なスキルを学べる「アマゾンテクニカルアカデミー(Amazon Technical Academy)」や、物流センターの従業員がIT職に就けるよう訓練する「アソシエイトツーテック(Associate2Tech)」などを含めて多岐にわたっている。アマゾンの本社業務やIT職への社内転職が可能となるように各人の能力を高めることを狙いとしているが、受講後に他社に転職しても構わない。
ベス・ガレッティ(Beth Galetti)=アマゾン人事部門シニア・バイス・プレジデントは、「従業員がスキルや能力を伸ばす機会を提供することは、ほんの始まりにすぎない。アマゾンでキャリアを積みたいと考えている従業員はもちろん、ここでの経験を生かして次の目標に向かう従業員のことも応援したい。人材に投資し、彼らがより専門的な職種に就けるようにすることはとても重要だ。当社は10万人の従業員にトレーニングを提供し、彼らがステップアップできるように支援することを約束する」と語った。
アマゾンが従業員を支援するために今回の施策を打ち出していることは間違いないが、事業上の優位性を確保するためでもあるだろう。求人情報サイトを運営する米インディード(INDEED)のジェド・コルコ(Jed Kolko)=チーフ・エコノミストは、「労働市場の逼迫によって人材の採用や定着が難しくなっており、アマゾンを始めとする多くの企業でトレーニングや再トレーニングに力を入れている。それによって会社が必要としているスキルを従業員につけてもらうことは、人材確保の上で有効な戦略の一つだろう」と述べた。
アマゾンが行っている施策はトレーニングだけではない。18年11月には、米国内で働く全従業員の最低賃金を時給15ドル(約1620円)に引き上げた。これは同国の最低賃金である同7.25ドル(約783円)の2倍強となる。米小売最大手のウォルマート(WALMART)はやはり昨年に同11ドル(約1188円)に、ターゲット(TARGET)は19年6月に同13ドル(約1404円)に引き上げた。なお、ウォルマートも従業員のトレーニングに力を入れており、17年に「ウォルマートアカデミー(WALMART ACADEMY)」を発表し、18年9月時点で45の研修プログラムを用意している。