東京のメンズブランド「キディル(KIDILL)」がパリで行なったショーの舞台裏に3日間密着した。1日目のキャスティングではモデルが決まり、ショーに携わる全ての人がそろった。
東京発「キディル」のパリコレデビューに密着1日目 モデルオーディションは70人相手にてんやわんや
ショー前日となる密着2日目は、デザイナーの末安弘明とスタイリストの島田辰哉が数カ月にわたり構成を練った演出を実際につくり込んでいくために、会場の設営やヘアメイクのテストが行われる。ヘアスタイリストやメイクアップアーティスト、設営スタッフなど、異国の地でのショー開催にあたりどのようにチームを構成したのか?また会場を決めるまでの過程は?約1000万円という限られた予算の中でショーを実現させた、末安デザイナーの動きを追った。
日本人で結成した“チーム キディル”
ショー会場に朝から「キディル」チームが集結した。末安デザイナーがパリ初のショー会場に選んだのは、マレ地区にあるギャラリー&イベントスペースのレオン・クール・マレ500(Leon Coeur Marais500)。大きな天窓から日差しが降り注ぐ、全面真っ白の明るい空間だ。会場費はショー前日と当日の2日間で約200万円。「モノトーンでミニマルな、何もない“箱”のような場所を探していた」と話す末安デザイナー。パリ在住の知人に現場の写真撮影を依頼するなどし、会場選びにはさほど時間がかからなかったという。会場が決まると島田と演出について打ち合わせを重ね、数カ月かけてイメージを固めていった。
そんな「キディル」のショーを具体化するのは、日本人チームだ。ヘアスタイリストはロンドンを拠点にする森元拓也、メイクアップも同じくロンドンが拠点のメグミ・マツノ(Megumi Matsuno)。ブッキング済みのモデル一人一人の写真を見ながら、ヘアとメイクの細かな部分までを決める。実際にプロのモデル1人を使って本番さながらにヘアとメイクを施し、実際のキャットウオークをイメージしながら最終決定が下された。ロンドンチームと組むのは今回が初めてだったが、多くを語らずとも順調に打ち合わせは進んでいった。彼らとは、ロンドンに留学していた際のルームメイトの紹介で知り合ったという。
椅子を八の字状に配置した独特な空間演出
末安デザイナーのショー演出にはこだわりがあった。八の字状に観客が座る椅子をセッティングし、2つの円の真ん中には1脚ずつ椅子を用意する。モデルは観客の前をウォーキングしたら、2脚の椅子に座ってそれぞれ4秒ずつポーズを取るというものだ。ショーが終わると、奥のスペースにある壁を背に1列にモデルが並び、その上にプロジェクターで映像を映し出すフィルムインスタレーションを45分間行う。ショーのディレクションは日本のプロダクションのボン、ライティングを担当したのは同じく日本のアートブレーンカンパニーで、両社ともに以前から付き合いがある顔なじみだ。末安デザイナーが実際に動きながら演出について説明し、会場の設営が始まった。バックステージにもサンプルが運び込まれて段取りよく会場がセッティングされ、いよいよショー本番を迎える準備が整った。
ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける