「ザラ(ZARA)」や「ベルシュカ(BERSHKA)」などを擁するインディテックス(INDITEX)が年次株主総会を7月16日に開催し、サステイナビリティーをいっそう推進することを宣言した。
パブロ・イスラ(Pablo Isla)会長兼最高経営責任者(CEO)は、「グループ内だけではなく、業界全体に変化を起こす存在でありたい」と語った。
同氏はまた、「ザラ」はファストファッションの定義には当てはまらないと説明した。「当社は原材料をローカルで調達し、自社でパターンを起こし、自社工場で生産することで在庫を抑制している。そして店舗では値引きせずに販売している。いわゆるファストファッションの対極にあると言っていいだろう。さまざまなことに柔軟に対応し、製品の一つひとつに注意を払っている」。インディテックスのサステイナビリティーに関する取り組みが、現在の消費者にとって先進的すぎるかどうかはあまり気にしないと同氏は語る。「われわれは正しい道を歩んでいるし、今後も迷うことなく突き進んでいきたい」。
インディテックスはテキスタイル分野における循環型経済を推進するため、マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)や研究施設などと提携しており、関連した技術開発に対して20年までに350万ドル(約3億7800万円)を投じる予定だ。2015年にスタートした環境に配慮したラインの“ジョイン ライフ(JOIN LIFE)”は、生産工程での水やエネルギーの使用量を削減することを目的に、オーガニックコットンや再生ポリエステル、再生セルロース繊維の一つであるテンセル・リヨセルなどの持続可能な素材から作られている。現在、インディテックス傘下のブランドでは製品のおよそ20%がそうした持続可能な素材で作られており、20年にはそれが25%に、25年までには100%に達するという。
「ザラ」の生産工場や配送センターは主にスペイン、ポルトガル、トルコ、モロッコにあるが、柔軟な対応ができる生産体制を整えることで在庫を最小限に抑えている。余剰品は認定したサードパーティーを通じて販売されるか、リサイクル技術の研究開発のためチャリティー団体に寄付されており、廃棄率は限りなくゼロに近いという。また出荷や配送に使用される箱は全て再生段ボールで作られているほか、プラスチック製のレジ袋も順次紙製に切り替えられている。ハンガーは繰り返し使用され、最終的には細かく刻まれて再びハンガーに生まれ変わる。
同社では生産工程の透明性も重視しており、18年は「ザラ」に納入する1万2000のサプライヤーや製造業者が監査を受けている。ブラジルでは、「ザラ」の製品にサプライヤーと製造業者の情報が入ったQRコードが付けられ、消費者はそれらの情報に手軽にアクセスできるようになっている。また同社は、20年までに「ザラ」の全製品の全ての生産段階において有害化学物質をいっさい排出しないことを目標に掲げているが、これも達成できる見込みだという。
「ザラ」が15年に開始した古着回収プログラムは現在、日本を含む24の市場にある834店で実施されており、今までに3万4000トンの衣類が回収された。20年末までには、世界中の全店舗にコンテナを設置する。またECで購入した顧客向けに、スペイン、北京、上海では自宅での引き取りサービスも実施しており、19年下期にはこのサービスをロンドン、パリ、ニューヨークにも拡大する。回収した古着は、赤十字やカリタス(CARITAS)、オックスファム(OXFAM)などの非営利団体を通じて寄付もしくはリサイクルされている。
「ザラ」のカジュアルラインである“ザラ・トラファ(ZARA TRF)”のデザイン部門ヘッドを務めているエヴァ・ヴィダル(Eva Vidal)は、「顧客に対し、店内やSNSなどでサステイナビリティーやリサイクルの重要性について話しているが、『ザラ』の店舗に古着を返すことを恥ずかしがる人が多い。しかし回収プログラムを粘り強く続け、定着させていきたい」と話した。
インディテックスが取り組んでいるのは、製品のサステイナビリティーだけではない。25年までには、本社などのオフィスや配送センター、そして世界中で展開しているおよそ7500の店舗で使用するエネルギーの80%を再生エネルギーでまかなう予定だ。新しくオープンした環境効率のよい店舗では、従来の店舗と比べてエネルギー使用量が20%少なく、水の使用量も40%少ないという。店舗の照明システムは本社で監督できるようになっており、エネルギー効率を測定するソフトウエアなども使用されている。イスラ会長兼CEOと、「ザラ」の従業員のボーナスの一部は、こうしたサステイナビリティーに関する達成度が反映される仕組みになっているという。
同社が掲げているこうした数値目標は、発祥の地であるスペインや世界各国の政府が設定した環境に関する目標より厳しい場合が多い。インディテックスの19年1月期決算は売上高が前期比3.1%増の261億4500万ユーロ(約3兆1896億円)、純利益が同2.2%増の34億4400万ユーロ(約4201億円)の増収増益だった。その売上高の70%を「ザラ」が占めているが、その他のブランドもサステイナビリティーに関して同様の数値目標を掲げている。イスラ会長兼CEOは、「インディテックスはグローバルな企業であり、世界のさまざまな国におけるサステイナビリティー関連の議論や懸念に関係している。各国の政策とは関係なく、独自のアプローチをしている」と述べた。
「ザラ」は実店舗とECの融合などで、オムニチャネル化やIT技術の活用に関してアパレル業界の先頭を走っているが、サステイナビリティーに熱心なイメージはあまりないかもしれない。しかし、金融市場指数を幅広く提供しているS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(S&P DOW JONES INDICES)が選定する世界的なESG(環境、社会、ガバナンス)株価指数であるダウ・ジョーンズ・サステイナビリティー・インデックス(DOW JONES SUSTAINABILITY INDEX)で、インディテックスは16~18年の3年連続で小売業界のトップにランキングされている。
一般にファストファッションの顧客層は、ラグジュアリーブランドの顧客層と比べて環境問題に対する関心が低いといわれている。高価格帯の製品は気軽に買えない分、価格に見合ったクラフツマンシップやストーリーが求められ、サステイナビリティーもそうしたストーリーの一部として要求される。一方で、ファストファッションは“気軽に買ってすぐ捨てる”ことが多い。そのため、消費者の要求に応えるべく環境保護へと動き出すハイブランドが多い中、ファストファッションでは逆にメーカー側が先に動き出して消費者を啓発する形となっている。
英コンサルタント会社センサスワイド(CENSUSWIDE)の調査によれば、英国内では年間27億ポンド(約3645億円)相当、もしくは5000万点の夏物衣類が購入され、リサイクルされずに捨てられるという。また小売業界を専門とする英コンサルタント会社カート・サーモン(KURT SALMON)が英国に住む18~24歳の若者2000人を対象として17年に実施した調査では、半数以上が購入した服を1年未満で捨てると回答し、同じく4分の1は半年未満で捨てると回答した。また対象者の大多数が、不用となった衣服は捨てるか友人に譲ると回答した。
イスラ会長兼CEOは今回の株主総会で、「少ないことは、より豊かなことだ」というフレーズや、「量より質」という言葉を何度も繰り返した。将来的には、ワンシーズンで終わらない、長く着用される服の取り扱いをさらに増やしていくという。「持続可能な方法で事業を発展させていきたいと考えている。当社には素材の調達、サプライヤーやサプライチェーン、物流などの面でサステイナビリティーを実現するだけのリソースがあるので、仮に当社が1000万点の商品を販売した場合、10社が100万点ずつ販売するよりずっとサステイナブルだと思う」と語った。
なお今回の年次株主総会では、イスラ会長兼CEOが次期CEOとして指名した48歳のカルロス・クレスポ(Carlos Crespo)最高執行責任者(COO)の就任が正式に決定した。これに伴い、今後イスラ会長兼CEOは会長職に専念する。