米デトロイト発のブランド「シャイノラ(SHINOLA)」が閉店や解雇などを行っており、経営不振に陥っているようだ。
同ブランドは、フォッシル(FOSSIL)の創業者であるトム・カーツォティス(Tom Kartsotis)が2011年にミシガン州デトロイトで設立した。時計をはじめバッグ、レザーグッズ、ステーショナリーなどを企画・生産しており、米国製へのこだわりがブランドのアイデンティティーとなっている。米国内とカナダ、イギリスで28の直営店を構えているほか、米百貨店ニーマン・マーカス(NEIMAN MARCUS)やノードストロム(NORDSTROM)などに卸している。
トム・ルワンド(Tom Lewand)=シャイノラ最高経営責任者(CEO)によれば、オレゴン州ポートランド、マイアミ、ロサンゼルスの直営店と、ソーホーなどにある複数のポップアップを閉店したという。「当社はスタートアップの段階からより成熟した企業へと成長する時期に差し掛かっており、閉店はその表れだ」と語った。同氏は売上高については明かさなかったが、同社のECサイトの売り上げは2ケタ増となっており、現在の厳しい小売り環境の中でも店舗や卸の業績は非常に好調だと述べた。また1月にオープンした同社初のホテルについても、「ブランド価値を大いに高めた上に、毛布や枕などの新製品を手掛けるきっかけとなった」と成功を収めていることを強調した。
一方で、同社はおよそ30人の従業員を解雇している。情報筋によれば、解雇されたのは生産や人事、デザイン部門などで働いていた、比較的給与の高い人が多かったという。同社はこれについて、「将来的な成長に向けて全従業員の5%未満程度の人数を減らすことにした。難しい決断だったが、利益を伴う成長をするために必要なことだった」と声明を発表した。同社は、「これ以上新しい店舗をオープンしないことを決断した」18年後半から解雇を実施したという。
なお、18年には何人かの主要なデザイナーが同社を離れている。ジュエリー部門のコンサルタントとして起用されたパメラ・ラブ(Pamela Love)は自身のブランドに専念するため、シャイノラとの契約を更新しなかった。レザーグッズとハンドバッグ部門を立ち上げたリチャード・ランバートソン(Richard Lambertson)とジョン・トルークス(John Truex)も同様の理由で18年5月に退任しているが、いずれのポジションも空いたままだ。ルワンドCEOは、「いずれの役職についても後任を採用する予定はない。彼らが訓練したチームメンバーや若手デザイナーが育っているので、今後はそうした若手が力を発揮してくれるだろう」と述べた。
ルワンドCEOは売り上げが堅調であることを強調しているが、解雇された従業員の複数の人が匿名を条件に明かしたところによれば、同社では商品開発や発売のペースが減速しており、売り上げも落ちているという。一時期はジャーナリストの旅費や宿泊費などを全額負担してイベントに招待したり、タイムズスクエアに大きな看板を掲げたりと華やかなプロモーションを繰り広げていたが、現在は「店舗での売り上げが芳しくないため、全社的に経費を削減している」と話した。
「シャイノラ」の主力である腕時計の価格はエントリーモデルが550ドル(約5万9400円)からとなっており、腕時計のカテゴリーとしては市場環境が最も厳しい中価格帯に属する。アップル(APPLE)による"アップル ウォッチ(Apple Watch)”が399ドル(約4万3000円)であることを考えると、比較的シンプルな作りをした「シャイノラ」のエントリーモデルを割高だと感じる消費者もいるだろう。なお、ルワンドCEOは新たな価格帯のシリーズを8月に発表すると話したが、詳細は明らかにしなかった。
シャイノラは“アメリカの伝統的なものづくり”を特徴としており、マーケティングでもそれを前面に押し出している。しかし米連邦取引委員会が16年に行った調査で、同社の腕時計は外国製の部品を調達して米国内で組み立てていることが明るみに出たことから、ブランドの信頼性に傷がついたことは否めない。現在、同社はマーケティング戦略を見直しており、アヴェダ(AVEDA)のグローバルマーケティング部門でバイス・プレジデントを務めていたタイラ・ニール(Tyra Neal)を最高マーケティング責任者として起用した。またオムニチャネルでの買い物体験を改善するため、CRM(顧客情報管理)コンサルティングのセールスフォース・ドットコム(SALESFORCE.COM)と提携したという。
ルワンドCEOは、「ブランド認知度を高めるいい機会だと思う。今後も世界中から最高の部品をデトロイトに集め、一流の時計を作っていきたい」と語った。