2020年春夏シーズンのパリ・メンズ・ファッション・ウイークが終わり、パリはすっかりバカンスモードに突入しています。ファッション・ウイークの後半は38度の猛暑日が続いたうえに、道路整備の多いこの時期は特に渋滞がひどく、いつも以上に体力を消耗しました……。バックステージ取材やショールーム回りに奔走した私は暑さにやられてしまいましたが、同時にデザイナーたちからたくさんパワーを受け取りました。そして何より私のエナジーチャージは、イケメンモデルたち(笑)。ファッション・ウイーク前に「WWD Japan.com」のインスタグラムで読者に「海外メンズコレクションで気になることは?」とリサーチした結果、モデルに関する質問が多数寄せられたこともあり、今季はバックステージでモデルたちにも取材を敢行!あまり表に出ることのない、モデルたちの素顔やショー前の舞台裏をのぞいてみました。
ショー前のモデルはこう過ごしている
モデルのコールタイム(呼び出し時間)は、ショーが始まる4〜5時間前が通例です。ヘアやメイクアップに時間がかかるウィメンズの場合は、もっと早いこともあります。ショー当日は何が起こるか分からないので早めに呼び出されるのですが、モデルたちにとってそのほとんどが待ち時間。退屈な時間の過ごし方はさまざまですが、コールタイムが早朝6時だった「サカイ(SACAI)」のバックステージでは、仮眠をとるモデルがたくさんいました。レミントン(Remington)とクリスティン(Krystin)のように、女性モデルはガールズトークを楽しんでいる姿も見られました。活躍が続く日本人モデルのコウヘイ(Kohei)は「僕の場合はヘアのセットに時間がかからない分、他のモデルよりも1時間ほど遅いコールタイムです。待ち時間はずっとしゃべって過ごすことが多いですね」と、仲の良いモデル仲間と談笑してました。多くのランウエイを経験している分、友人も多いようです。「シャネル(CHANEL)」のキャンペーンに起用されたこともあるアデスワ(Adesuwa)は、チャームポイントであるドレッドヘアのセットに時間がかかっていたようで、他のモデルよりも鏡の前に長く座っていました。「ファッション・ウイークはモデルにとってサバイバル!体力勝負だし、体調を崩したら地獄だから、しっかり栄養のバランスがとれた食事を心がけているよ」と売れっ子モデルならではのコメントを残し、ケータリングの食事を楽しんでいました。どのブランドのバックステージでも一番多かったのは、スマートフォンでネットサーフィンやゲームをして一人で過ごす方法です。中には読書をしたり、イヤホンで音楽を聴きながらダンスをしたりする自由なモデルもいました。何かに集中していつの間にか何時間も経過していたときよりも、ひたすら待っているだけの1〜2時間の方が、意外と疲れますもんね。キャットウオークでスポットライトを浴びる1分足らずのために、何時間も準備と待ち時間を重ねるのがモデル業。華やかですが、決して楽な仕事ではありません。
今、旬のメンズモデルはこの2人
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最旬メンズモデルといえば、業界人は口をそろえてアルトン・メイソン(Alton Mason)の名を挙げるはず。18年の「モデルズドットコム(Models.com)」でモデル・オブ・ザ・イヤーに輝いた彼は、16年のデビュー以来「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「グッチ(GUCCI)」「H&M」など数々のキャンペーンに起用され、初の黒人男性モデルとして「シャネル」のランウエイも歩きました。今季のパリコレでも1日にいくつものランウエイをこなした彼を「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH以下、オフ-ホワイト)」のバックステージでキャッチしました!ジャマイカ人とガーナ人の両親のもと、アメリカで生まれ育った22歳のアルトン。ロサンゼルスのアメリカン・ミュージカル&ドラマ・アカデミー(Amerian Musical and Dramatic Academy)でダンスを学び、振付師ローリー・ギブソン(Laurie Gibson)のアシスタントとしてダンサーをしていた15年に、インスタグラムを通じてモデル事務所にスカウトされたのだとか。16年に「イージー(YEEZY)」のプレゼンテーションでデビューを飾ると、瞬く間に人気モデルへと駆け上がっていきました。恵まれた外見はもちろんのこと、ダンスで培ったしなやかな体を生かした表現力が強い武器です。アルトンは「インスタグラムのDMで連絡が来た時は、絶対に冗談だと思ったよ。モデルになることなんて想像もしていなかったけれど、人生は何があるか分からないものだね!」と目を輝かせます。インスタグラムの写真だけでモデルの素質を見出したスカウトの人もすごい!
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アルトン以外で「WWDジャパン」取材陣が今季注目したメンズモデルは、ジーヌ・マハデヴァン(Jeenu Mahadevan)です。ロンドンやミラノのショーで大活躍だった彼は、「キコ コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)」「チャラヤン(CHALAYAN)」「サルヴァトーレ フェラガモ(SALVATORE FERRAGAMO)」「フェンディ(FENDI)」など数々のランウエイで見かけました。南アジアか中東っぽい、国籍不明でエキゾチックな外見に目が引かれましたし、各ショーでも絶妙なスパイスを与える存在感のあるモデルでした。しかし今季のパリコレには2つのブランドのキャンペーン撮影と「ヴォーグ(VOGUE)」のエディトリアル撮影が重なって、ほとんど参加していなかったそうです。パリで見かけたら絶対取材したいと意気込んでいたので残念でしたが、メールでの取材に応じてくれました。気になっていた彼の国籍はノルウェーで、両親のルーツはスリランカだと教えてくれた20歳のジーヌ。地元オスロのバスの車内でスカウトされたことがきっかけで17年にモデルデビューを果たすと、すぐさま「ジバンシィ(GIVENCHY)」や「バーバリー(BURBERRY)」といったビッグネームの仕事が舞い込んできたのだとか。「将来の夢はファッションとは無関係な分野で、天体物理学者になること」ときっぱり言い切ります。アルトンやジーヌ、その他インフルエンサーなども、最近は本業とは別に人生の軸となる夢を持っている人が活躍しています。男女問わず、夢中になれるものを見つけて情熱を注いでいる人って、やっぱり魅力的ですよね。
おまちかね!バックステージでキャッチしたイケメン24連発
OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH / 将来有望な万能系イケメン
ここからは、昨シーズン好評だったイケメンハントの続編をお届けします!まず、パリ・メンズの目玉の一つである「オフ-ホワイト」のバックステージで見かけたのは、将来有望な若手イケメン。全体的に年齢層は低く、18歳〜20代前半が大半でした。ランウエイではプロらしく堂々としたウオーキングを見せるため大人っぽく見えますが、バックステージではまだあどけない瞳で半分少年のような表情が見え隠れします。若手ということもあり、強い個性というよりも、ストリートからフォーマルまで幅広いスタイルが似合う、何色にでも染まれるようなイケメンぞろいでした。何でも似合うというのはモデルとしてはかなりの強みです!地毛のスパイラルヘアが特徴のナイジェルは「ロエベ(LOEWE)」「ジャックムス(JACQUEMUS)」に、目力の強いヘンリーは「ポール・スミス(PAUL SMITH)」「ベルルッティ(BERLUTI)」に、少女のようなかわいさを持つリオは「ルイ・ヴィトン」「アミ アレクサンドル マテュッシ(AMI ALEXANDRE MATTIUSSI)」に起用されていました。うれしかったのは、昨シーズンのイケメンハントでキャッチしたラトビア出身の19歳、エデュアードを今季のさまざまなショーで見かけたほか、「フェンディ」「サン ローラン(SAINT LAURENT)」のキャンペーン広告も飾っていたことです。一見クールで近寄りがたそうなのに、数日後に「1017 アリックス 9SM(1017 ALYX 9SM以下、アリックス)」のバックステージで再会すると気さくに話しかけてくれて、私の中で好感度が急上昇!
1017 ALYX 9SM / プロアマ入り混じるちょいクセ系イケメン
そんな「アリックス」のランウェイには、デザイナーのマシュー・ウィリアムズ(Matthew Williams)の友人や家族が大勢登場しました。写真6人のうち、何人がプロのモデルだと思いますか?正解は、アンドリューとアブドゥラエの2人がプロで、ほかの4人はアマチュアの一般人なのです!アンドリューの顔を見たことがある人は多いかもしれません。4年程度が平均というメンズモデル界で、9年という長いキャリアを持っており、最近ではアーティストとしてベルリンやニューヨークで個展を開いたり、ミュージシャンとして作曲も行ったりしているそうです。バックステージではマシューの娘アリクスちゃんを優しい表情であやしていました。アブドゥラエはアフリカにルーツを持つフランス出身の21歳で、モデル業をスタートしたばかりという新顔です。ジェイデンはニューヨーク在住のアーティストでウィリアムズの旧友、ほかの3人は全員「アリックス」で働く従業員で、コレクションがよく似合うのも納得です。アマチュアといっても長身のイケメンで、ランウエイではプロアマの見分けが難しいほど立派なウオーキングを披露していました。類は友を呼ぶと言うように、「アリックス」やマシューの周りにはイケメンが集まってくるみたいです。もしくは「アリックス」を着用するとイケメン度アップするのかも!?
SACAI / 奇抜ヘアだけどナチュラル系イケメン
「サカイ(SACAI)」は今季、ヘアもメイクもかなりナチュラルで、各々が持つ素質をそのまま生かしているような印象でした。ルックの最終チェックでも、阿部千登勢デザイナーがわざと片方の襟を立てたり、袖を無造作にたくし上げたりと、キメ過ぎずナチュラルに見えるスタイリングの仕上げを加えていました。メンズモデルは甘い感じの正統派イケメンが多く目移りしましたが、私が注目したのは彼らのヘアスタイルです。ドレッドやスパイラル、天然パーマっぽいクルクル、男らしい坊主頭とこれだけ多様なヘアスタイルがそろうのはなかなか珍しいことです。全員のフィッティング時の写真(ヘアメイクを施さない普段の姿)と見比べると、ショー本番でもヘアは整える程度で全員が地毛を活かしていたようでした。もしも、コウヘイさんがアントワーヌのようなクルクルヘアで、ウィロウがトリスタンのようなドレッドだったら……。と勝手に妄想を楽しむという、イケメンハントならではの醍醐味(?)も見つけました。「サカイ」は数シーズン続けて同じモデルを起用することが多いため、どのイケメンも阿部デザイナーと親しく言葉を交わしていたのが印象的でした。男性も女性も売れっ子モデルぞろいですが、なかでもクリステルスは今季私が取材した全てのバックステージで見かけるという活躍ぶり!彼はラトビア出身の22歳で、先にモデルをしていた友人にインスタグラムでタグ付けされたことがきっかけでモデル事務所にスカウトされたのだとか。趣味を聞いてみると「普段は4歳の息子の子育てをしているよ」と、何とも驚きの回答です。
モデルの流行り廃りはファッション同様にとても早いですが、個人の好みというのはなかなか変わらないものですね。私は今季もやっぱりラトビア出身男性のイケメンぶりに胸キュンの連続でした!
ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける