イタリア発インテリアブランド「カッシーナ(CASSINA)」のアートディレクターを務めるパトリシア・ウルキオラ(Patricia Urquiola)がロエベ財団(LOEWE FOUNDATION)主催の「インターナショナル クラフト プライズ 2019 (International Craft Prize 2019 以下、ロエベ クラフト プライズ)」の表彰式のために来日した。彼女は同プライズの審査員の一人で、カッシーナ・イクスシー(CASSINA IXC.)青山本店でもトークショーを開催。彼女に来日の目的や「カッシーナ」の方向性などについて話を聞いた。
WWD:「ロエベ クラフト プライズ」の表彰式に参加した感想は?
パトリシア・ウルキオラ(以下、ウルキオラ):29人のファイナリストの作品を草月会館のイサム・ノグチの石庭「天国」で見られるなんて最高ね。クラフトとモダニティーをどう結び付けるかを探るプロジェクトだけど、29人全員が東京に来て一緒に参加できたのもすごくよかった。とてもオープンでモダン、そしてハッピーな表彰式だったと思う。
WWD:ところで「カッシーナ」はトップが代わったばかりだが、どのような変化が起こっているか?
ウルキオラ:「カッシーナ」のブランディング強化を図っている。もっと幅広い人に向けてアピールできるブランドにしていく。それは私もずっとやりたかったこと。リサーチや新しいテクノロジー、サステイナビリティーなどは次のステップに進もうとしている。ル・コルビュジェ(Le Corbusier)に関する新しい部門ができるし、オフィスやアウトドアなどの商品も加わるから、今までとは違う消費者にもアピールできる。アーカイブと新しいデザイナーのデザインの対話が生まれるような環境にするつもりよ。
WWD:インテリアのブランドだけでなく、ギャラリーである「ニルファー(NILUFAR)」のニナ・ヤシャー(Nina Yasher)などとも協業している理由は?
ウルキオラ:ニナはリサーチに基づいて若いアーティストやデザイナー、キュレーターなどを起用し層の厚い高レベルの展示をしている。通常のデザインと違ってギャラリーは実験的なことができるので楽しいわ。
WWD:今、インテリア業界で起こっていることで気になることは?
ウルキオラ:デジタルや3Dプリンター、アルゴリズムなどテクノロジーの進化で、新しい時代へ移行しつつあることで、それはデザイナーにとってとてもチャレンジングなこと。未来を見ながら、オープンに考えるのが大切。最近ではラグのブランド「CCタピス(CC-TAPIS)」との協業がすごく楽しかった。以前は破棄していたフェルトの残りを使ってラグをデザインしたことは、素材について考え直すきっかけになった。以前はリサイクルとかリユースしたものには魅力がなかったけど、今は技術が進化してとても洗練された製品になり、それが価値を生んでいる。サステイナビリティーやサーキュラーエコノミーは誰もが考えるべきことであり、まだまだするべきことがたくさんある。
WWD:一番尊敬するデザイナーは?
ウルキオラ:アッキーレ・カスティリオーニ(Achille Castiglioni)。彼は私のメンターでインスピレーションを与えてくれる存在。彼の生誕100周年の展覧会のキュレーションをしたのは素晴らしい経験だった。通常の時系列の展示ではなく、彼の遊び心やアイデア、考えのエッセンスなどにフォーカスした展示になった。
WWD:一番好きな建築家は?
ウルキオラ:SANAAの妹島和世。彼女の建築は全てすばらしい。複雑な構造をあれほどシンプルに表現できるのには驚く。彼女の展覧会が開かれればいいのにと思う。
WWD:生まれた国や育った環境はクリエイションに影響するか?
ウルキオラ:生まれた国はあまり影響しないだろうけど、ルーツは影響するかも。私は北スペイン生まれだけど、長年ミラノに住んでいるからミラネーゼでもあり、その2つがミックスされていると思っている。100%スペイン人で、ミラネーゼでもあると思っている。その2つが作用して新しい何かが生まれることもある。
WWD:ダイバーシティーなどについてどのように考えるか?
ウルキオラ:性別の問題はまだまだ根深いし、ジェントリフィケーション(再開発による都市の高級化)などもダイバーシティーの一環だと思う。よりよい環境にするのはそう簡単ではないかもしれないけれど。また、シェア・エコノミーもとても関心がある。それぞれの人が全てを所有するのではなく部分的に所有する、それがシェアするという意味にもつながると思う。もっと考えることはあるわね。